17 裏 お姉さんは魔女
一気に仕上げてしまわなくてはならない仕事というのはあるものだ。
ほとんど夜明け近くまでつきっきりで薬を作っていたジルバルドは、死んだように眠っていた。
「おししょう様、おししょう様。朝ですよ」
ユリアナが起こしにきているのは分かっているが、目が開けられない。
「あー。朝食は棚の中にあるパンとミルクで済ませておけよ」
「おししょう様。ちゃんと朝は起きないと、はたらき者の神様にバツを与えられてしまうんですよ。それに朝ごはん食べないと元気がでません」
今さっき寝たところなのだと説明する気力もない男は、「んー」とか「あー」とか適当に言いながら、またもや深い眠りに入ろうとしていた。
本気で眠い。
「ウフフ。ダメよ、あなた。ちゃんと朝は起・き・て?」
すると訳の分からない言葉が聞こえた。
「あぁん?」
いささか不穏な低い声になったのは仕方あるまい。
誰だって怒る。当たり前だ。
眠い目を無理やりにこじ開けて、男は寝台の横にいる相手を見上げた。
「あ、起きました。さすがはお姉さんです」
「あ?」
「あのですね、男の人が起きない時は、せめ方をかえなくてはいけないそうなのです」
男はベッドに沈没した。何を教えられているのか。
「すまんがユリアナ。俺はさっきまで仕事していて、今やっと寝ようとしているところなんだ。頼むから昼まで寝かせてくれ」
「なんと。そういうことならちゃんと寝てください。おやすみなさい、おししょう様」
「ああ、おやすみ。ちゃんとお前は朝ごはんを食べるんだぞ」
「はい」
多分、いやきっとそのお姉さんに言われたなら嬉しかっただろう。
しかし子供に言われても全くもって嬉しくない。それどころかムカつく。
そんな子に育てた覚えはないのだ。
教育的指導について考えながら、男は再び眠りについた。そして疲れていたせいで、そのことを起きたらすっかり忘れていた。
「温度と湿度的にぴったりだったからな」
「そうですか。おししょう様はがんばりやさんです。だからお昼ごはんはおかしにしましょう」
「おかしはおやつだ」
その後、最初の指導をスルーしてしまったせいで、男はその後も
「普通の言い方で駄目なら、攻め方を変えなきゃダメよん。ファンルケ先生、あれで意外性に弱いと見たわね」なお姉さんの影響を受けまくったユリアナに、脱力させられ続けることになった。
「やっぱりお姉さんはすごいです。おししょう様がイチコロです」
「違う。それは違う」
「いいんです、おししょう様。てれなくて」
「・・・照れてない」
そんなユリアナが魔法使いだと思っているお姉さんは、ある意味で男を翻弄する魔女である。




