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狂騒曲が終わる日に  作者: 藤木
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14 裏 見習い少年とリアン

 


 ネーテル城における見習いの仕事は厳しい。先輩にはどつかれ、怒鳴られ、仕事が遅ければ殴られる。


(あ、彼女だ)


 それでも城で働くというのは、よそで働くのとは違った充実感がある。なんと言っても、綺麗な女性が多いのだ。

 僕にとって毎日がドキドキする職場だった。

 姫様も美しいが、その侍女も可愛(かわい)らしい。侍女でもランクがあって、たとえばフォンナは高嶺の花だが、リアンはけっこう下働きみたいな仕事もこなしており、あまり姫様にくっついていないこともあって見かけることも多い。

 まだ少女のリアンだが、すぐに美しい娘になるだろうと、目をつけている男も多かった。


「なあ、リアン」

「何か用ですか?」

「そういうツンケンした話し方やめろよ」


 ちょうど馬に与える飼い葉桶を運んでいた時に、僕は木の陰で彼女を口説いている男を見かけてしまった。

 この辺りは植木が多く、誰かがいても分かりにくい。

 どう見ても口説いているところだ。だが、リアンは全くその気がないようで、とても嫌そうな顔をしている。


(どうしよう、ここで助けたら、俺ってカッコいい? けど、あれって料理の見習いしてる人だよな)


 見習いと言っても、僕みたいな城に上がったばかりと違って、その男は僕よりもかなり年上だ。体も大きい。

 助けに入っても、自分こそが負けてしまうだろう。


「ちょっと。やめてください」

「いいじゃねぇか」


 彼が無体を働いているのか、彼女の嫌がる声が聞こえた。


(せめて声をかけるだけでもっ、それだけでも違うはずだっ)


 僕が足を踏み出そうとしたその瞬間である。


「っ、やめろっつってんだよっ!」


 僕は見てしまった。

 リアンの足が綺麗に翻り、彼の鳩尾に綺麗に回転蹴りを入れ込んだのを。

 広がったスカートとその中にあった太ももの白さが僕の目に焼きつく。


「こんな所でさかってんじゃねえよっ」


 パンパンと手を払うと、リアンはそこに倒れた男を残して去って行った。

 そのきりっとした顔つきと後ろ姿は、普段のかわいく微笑むリアンと全く違っていた。



― ◇ – ★ – ◇ ―



 夕食を終えて寝る時間になれば、同じ部屋の者同士で寝るまでの間、色々と喋ったりするものだ。


「なあ、リアンっていいよな」

「俺はフォンナの方がいいな」

「ケイリの方がいいと思う」

「ルナの方がいいって」


 ある日、そんな話で見習い達が盛り上がる。


「そういえば、お前、リアン一押(いちお)しだったよな」

「ああ、・・・うん」

「ちょっと無愛想な時もあるけど笑った顔がいいって」

「いや。僕は間違ってたよ」


 僕は一歩大人になった顔で微笑んだ。


「彼女は、足がいいんだ」



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