13 裏 金の小鹿亭のカミラお姉さん
子育てとは難しいものだ。ましてや、異性の子供であれば尚更のこと。
寝具に横たわったまま、寝ぼけた頭で彼は考え込んだ。
これは夢、だろうか?
「おししょーさま。みてください、セクシーですか?」
「一体、何を始めたんだ? そもそもそんな服、持っていなかっただろう?」
養い子が赤色のワンピースを着て、くるくる回っていた。赤といっても、普通のシンプルなワンピースなので、特にセクシーでも何でもない。
ついでに彼は、全くもって小さな子供にセクシーさを見出す性癖の持ち合わせがなかった。
彼は、子供なんて動物と同じだと思っている。可愛いが、走り回って転がりまくっては訳の分からないことを喋っている生き物という区分けだ。
「あのですね、おししょーさまをおこすほうほうをきいたら、おねえさんが『セクシーな服で迫ったら、男はみんな起きだすものよ』といったのです」
「そうか」
ある意味、そういうのはどうなのだろうか。いらぬ世話と思うべきか、ありがとうと思うべきか。
男はしばし悩んだ。
いずれ色々な知識は必要になってくるだろう。やはり男では女の子をどう育てるべきなのか、分からないことは多い。
「だから、セクシーなおようふくはどんなのですかってきいたら、『私達が着ているような服よ』とおしえてもらったのです」
「なるほど。で、その服はどうしたんだ?」
「おねえさんがいらなくなったおようふくを、わたしのサイズにしてぬってくれました」
リフォームされたのであろう服は、子供にふさわしい動きやすさを考えて作られているようだ。手先が器用なお姉さんなのだろう。
「そうか。そのお姉さんはどこのお姉さんだ? そんな知り合い、いたか?」
この辺りに、そういう年頃の娘はいなかった筈だがと、男は首を傾げた。
「きんのこじかていのカミラおねえさんです。まちでしりあったのです。で、おししょーさま。セクシーですか?」
「・・・セクシーになるには服だけじゃダメなんだ。せめてそのカミラお姉さん位の年になるまで待ちなさい」
「えー。せっかくつくってもらったのに」
がっかりしたのか、服の裾をつかんで落ち込むユリアナである。
「まあ、セクシーではないが、よく似合ってる。可愛いよ。せっかくだから、今度、街に行く時に着ていくといい。ロルおじさんにも見せてあげると喜ぶだろう」
「はいっ」
どうしても自分は汚れにくい色や丈夫な素材といったことを考えてしまうが、女の子なのだから、そういう可愛い色の服の方が嬉しいのかもしれない。
ユリアナの嬉しそうな表情に、ひそかに彼は反省した。
― ◇ – ★ – ◇ ―
その後、コンスタントに金の小鹿亭のカミラがユリアナの服や小物を見立てて用意してくれるようになった。
それは「自分では分からないから代わりに買うか作るかしてほしい」と、ある男が彼女に予算を伝えて頼み込むようになってからのこと。
謝礼として男がカミラに用意したのは、肌や髪にすりこむ香油や化粧水、都で流行っているという綺麗な布などであった。
その質の良さにカミラは喜びながらも首を傾げた。
「どうして女が欲しがるものが分かっているのに、女の子の欲しがるものが分からないのかしらね?」




