配下
町の外門を出て北へ進む
受付嬢の話では北へ1㎞程の森に住み着いたとの事だった
「そう言えばエミリア、あの念話みたいなものは俺の不可侵能力の『エミリア』と一緒なのか?」
俺の不可侵能力である『エミリア』は、どんな時でも念話で会話をすることが出来、何処にいても直ぐ側に呼び出すことが出来る
ただし、エミリアだけだ
「きっとそうだと思うよ。僕の不可侵能力は1つだけ。不可侵能力、『常闇結翔』。結翔と念話を出来て、転移させる事も出来る能力だよ」
「俺と同じ能力だな」
あともう1つ確認しておかないといけない
「エミリアは交渉が得意なのか?ギルドで起こったことに、少し違和感を感じたんだが」
「流石だね。僕の異能の『心眼』の力だよ。『心眼』は相手の嘘を見破り、心を見る能力なんだ。自然と相手は嘘をつきにくくなる。
それに僕と話した相手は自然と僕に協力的になってくれる。これは『絶世の美女』って言う称号の力だよ。男性の同姓愛者には効果は無いみたいだけどね」
つまり『心眼』で信頼性の高い情報を手に入れ、『絶世の美女』で更に+αの情報を入手する
相手は協力的なってくれるため、直ぐに必要な情報が手に入る
「頼もしい能力だな」
「この2つが揃うと、少しズルい気がするよ」
気になっていた事が解決したので、目的地へと向かう
その前にやっておかないといけない事がある
視界の奥の方に何かの群れが見えた
「エミリア、少し待ってくれ」
「何をするんだい?」
「闇魔法の練習をしないとな」
「分かったよ」
俺はエミリアを置いて群れへと向かっていく
群れへと近づいていくと人形なのが分かった
だが、大きさは人の2倍はあろう背丈に、隆々な筋肉…手には棍棒を持っていた
所謂オーガと呼ばれる魔物だ
「我求は血の花描く千の針『影針』」
闇魔法は闇を操る事こそが力
影もまた闇の1種である
俺は1体のオーガに狙いを定める
俺が詠唱すると、一匹のオーガの足元の影から、千の針がそのオーガの背中へと突き刺さる
刺さった影針は数秒で消え、オーガの背中にある千の穴から血が流れ始める
オーガ達は急に起こった出来事についていけないのか、血が流れ続けるオーガの周りをうろうろしているだけであった
そして1分程経ったとき、そのオーガは地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった
残り5体
「我求は舞い散る血肉『影鞭』」
次に狙ったオーガの影が刺々しい鞭へと姿を変える
そしてオーガの体を削り始める
オーガは敵を見つけようと動き回るが、足下、背後へと移動し続ける影を認識することは出来なかった
身体中の血肉が削ぎ落ちていき、このオーガも倒れた
残り4体
「我求は肉体のみ。その屍を我が思うがままに『死者人形』」
俺がそあ唱えると死んだ筈の2体のオーガがゆっくりと立ち上がった
仲間の1体のオーガが状態を確認しようと立ち上がったオーガへと近づく
『殺せ』
近づいたオーガを2体のオーガが棍棒で殴り始める
オーガの顔はへこみ、脳が飛び出した
だが死体のオーガは、更に棍棒で既に死んだオーガ を叩きつけている
身体中がへこみ、ボロボロになった
『止まれ』
操っていたオーガは動きを止めた
生き残ったオーガはその2体から距離をとり狼狽えていた
ここまでの実験で闇魔法に関しては大体掴めた
後は近接能力だけだ
俺は勢い良く走り出す
だが、思った以上にこの体は早かった
1歩で30メートル以上の距離を移動し、1秒も経たない
余りの早さに驚いたが、異能『思考加速』のお陰で脳が情報を処理し、体が思うように動かせる
100メートル程の距離を凄まじい早さで詰めた俺を、1体のオーガが気づいた
俺は気づいたオーガの腹を本気で蹴りつけた
ブチッッ!
不快な音を発しながら、オーガの上半身と下半身はさよならした
これ程までの威力だとは思わなかった
人間から神へと種族が変わった恩恵だろう
「グオォォォ!」
仲間を殺された最後のオーガが殴りかかってくる
俺の予想では、この体であれば受けきれると踏んでいる
俺はオーガの拳に会わせるように手を出す。そして衝撃を体全体で逃がして受け止める
俺は感心していた。流石だと思った
武神であるこの体は近接戦闘での最適な行動が分かる
俺は1歩も後退することなくオーガの拳を受け止めていたのだ
俺はその後も何度もオーガの拳を受け止め続けた
段々と疲れていくオーガへと最後の攻撃をする
オーガが放った拳を横に避け、腕をつかみ、そのまま地面へと頭から叩きつけた
頭が潰れる音がする
オーガはその一撃で死んだ
「流石だね結翔。どうだい、体の調子は?」
終わったのを見計らい、エミリアが俺の元へ来る
「あぁ。大体は把握したよ。闇魔法は思った以上に自由だ。それにこの体の凄さも分かった」
「僕も驚いたよ。結翔は飲み込みが早いんだね」
「昔から効率の良い動きをすることは得意だったんだ」
「もう大丈夫そう?」
「大丈夫だ。じゃあポイズンスネークへ向かおう」
「分かったよ」
俺達は移動を再開し、町から1㎞程の場所に辿り着く
そして俺達は驚いた
冒険者らしき複数の人が1ヶ所に集まっていた
俺達はそこへ行くことにした
「どうしたんだ?」
俺が一番後ろにいた冒険者へと声をかけたが、返答はなかった
話しかけた冒険者を良く見ると、放心状態の用でずっと奥を見たままだ
俺はその視線の先を見た
「酷いな」
「うん」
そこには所々体が溶けている死体が20近くあった
俺達は前の方にいた冒険者へと話しかける
「これは何なんだ?」
「ん?あぁ、こいつらはポイズンスネークに殺られたんだ」
ポイズンスネークがやったようだ
20人で討伐していたかは分からないが、ポイズンスネークはかなり強いと思われる
「どうするんだい結翔?」
「予定に変更はない。俺達がポイズンスネークの元へ行こう」
「おい!これを見ても行くのか?」
「あぁ」
「一応忠告はしとくが、死ぬなよ」
「分かっている」
俺達は死体の間を抜け、奥へと進んでいった
ポイズンスネークの居場所をどうやって探すか考えていたが、杞憂に終わる
ポイズンスネークが通ったであろう場所は、草が潰れており、その後を追うように進んでいった
しばらくすると、洞窟が見えた
潰れた草も洞窟へと続いている
俺達は洞窟へと進む
洞窟の中は1本道が続き、奥で2つに道が別れてあった
これも草はないが、引きずった様な地面を頼りに進んでいく
「あれがポイズンスネークの変異種だな?」
「そうだね。思ってた以上に大きいね」
洞窟の最奥にポイズンスネークはいた
大きさは胴回り1メートルはあろう紫の大蛇がとぐろを巻いているのである
その視線は俺達を捉えていた
「性懲りもなくまた来たか人間」
するとポイズンスネークが声を出した
ポイズンスネークの声が分かるのは、俺の不可侵能力である全言語理解のおかげである
実際にはシャーと言っているだけである
「俺はお前に話があって来た」
「ほぅ、我らの言葉を話すか人間」
「珍しいか?」
「我が生まれてから初めての事だ」
そう言いながらも近づいてくる
「結翔?戦わないのかい?」
「あぁ少し待ってくれ」
俺は状況を理解してないエミリアに待ってもらうように言う
「さて、少し話をしないか?」
「お前は我を殺すために来たのではないのか?」
「違うな。俺はお前を仲間にするために来た」
「奇な事を言う人間だ。だが我は我より強い者にしか従わぬ。我が欲しければ我を倒してみよ」
「その方が楽だな。来いよ」
俺はエミリアを下がらせてポイズンスネークの前に立った
「行くぞ人間!」
ポイズンスネークが何かを吐き出してくる
俺はそれを避けた
ポイズンスネークが吐き出したのは酸性の毒の用で、地面が少し溶けている
「酸か…」
「良く避けたな人間」
「次は俺のターンだ。全ては一瞬の内に終わる。十の刃がその身を貫く。融合魔法『貫体瞬刃』」
俺がそう唱えた瞬間、ポイズンスネークの体に十の剣が刺さった
何処からともなく現れた剣はポイズンスネークを地面へと縫い付けた
「さて、まだ続けるか?」
「思い上がるなよ人間、我はまだ全力を出していないぞ!」
そう言ったポイズンスネークの体が大きくなっていく
徐々に地面へと縫い付けていた剣は地面から離れていき、遂には完全に地面から離れた
ポイズンスネークの尻尾が俺の後頭部へと突き刺さる
そんな映像が俺の頭の中へ急に入ってくる
俺は慌ててしゃがむ
すると、先程まで俺の頭があった場所を尻尾が通過する
これが俺の異能の1つ、未来予知の力
「良く避けたな人間。今回は素直に称賛するぞ」
「俺も驚いたよ。今のは一体何なんだ?………体長も伸びたのか。それで体が大きくなっている内に俺の背後まで尻尾を移動させた」
「その通りだ人間。まだ終わりじゃないぞ!」
ポイズンスネークは最初の酸とは比べるのが馬鹿らしくなるほどの量の酸を吐いた
大きく後ろにさがる
だが尻尾で追撃してくる
更に避け続ける
仕方がない…そろそろ終わりにしよう
「その鎖、神をも繋ぎ止め動かさん。『神を繋ぐ鎖』」
創造魔法の最上位魔法『神を繋ぐ鎖』
ポイズンスネークを中心とし、四方に巨大な十字架が現れる
十字架から鎖が現れポイズンスネークへと迫る
ポイズンスネークは鎖へ酸を吐くが、鎖は異にも介さず距離を縮めていき、ポイズンスネークに巻き付いた
「何をする!」
「お前を仲間にするには、これ以上傷つける事は望まない結果だ」
「………人間、名はなんと言う?」
「俺は結翔だ」
「そうか。我は結翔…汝を主と認め生涯付き従う事を約束しよう」
ポイズンスネークは俺を認めてくれたようだ
「そんなに簡単に認めても良いのか?」
「何を言う。主の仲間にならねば殺され、このまま動けないのも辛いのだ。それに主が何をするかも気になった」
「そうか」
俺は『神を繋ぐ鎖』を解いた
「エミリア、傷を治してやってくれ」
「え~何がなんだか分からないんだけど…」
「あぁそうだったな」
俺はエミリアに先程までの出来事を詳しく話した
「なるほど。なら治しちゃうよ」
エミリアがポイズンスネークの傷を治す
【配下が増えました。配下の情報を確認出来るようになりました】
脳内に情報が入ってくる
「そう言えばお前の名前は何なんだ?」
「我か?我に名はない」
ずっとポイズンスネークと呼ぶのも面倒だな
「なら名前をつけるが良いか?」
「了解した」
「お前の名前は『ドクルク』。それがお前の名前だ」
【名付けを確認しました。配下『ドクルク』の上位種族への進化を開始します】
脳内に入ってくる情報を認識したと同時に、ドクルクの体が大きくなっていく
胴回りは3メートル程となり長さは40メートル程、更に頭は8つへと増えた
所謂八頭大蛇となったのだ
「噂には聞いていたが、上位の者から力を与えられる事があると。今の我は力が溢れてくるようだ」
「凄いな。ここまで変わるものか」
「僕も驚いたよ。実際に見るのは初めてだったからね」
エミリアもドクルクと同様のようだ
さて、これからどうするかが問題になる
ドクルクは魔物だ
人間の町に連れて行く事は出来ない
となると、町の外にいてもらう事になるのだが、町の外だと人間に討伐されてしまうかも知れない
「家をつくるとしよう。ドクルク、俺は人間と敵対することになる。これからも仲間は増やしていくつもりだ。その時は頼むぞ」
「人間と敵対する理由を問うても良いだろうか?」
「妹を取り戻す。その為ならば邪魔者は切り捨てる事になる。そうしていくと自然と人間と敵対してしまうことになるだろう」
「主の為ならばこの力、存分に振るおうぞ」
ドクルクの8つの頭が、頭を垂れる
「僕も力を貸すよ。だから僕をもっと頼ってくれないと駄目だよ?僕達は友達でしょ?」
エミリアがそう言ってくれる
「そうだな。ありがとうエミリア。エミリア、ドクルク、俺に力を貸してくれ」
「うん」
「仰せのままに」
こうして俺は協力者を得た
だが、俺の力でも勇者にどれ程通用するか分からない
その為にはもっと仲間が必要になる
俺はドクルクのステータスを確認する
*
名前:ドクルク
種族:八頭大蛇
職業:腐毒の大蛇
魔法:毒魔法Lv3・火魔法Lv1・氷魔法Lv1
異能:威圧・自動再生・状態異常耐性
称号:『武神の配下』・『魔王の配下』
*
能力も分かった
「さぁ移動しよう。俺達の拠点を作ろう」
俺達は北へと移動を開始した
森の奥深く、町からかなり離れた場所に開けた土地があった
見渡す限りの平原が続く
俺達はその中心に行き、止まった
ここに拠点を作ろう
魔王城の様な大きい城がいい
「それは見えずともそこに在り、他を寄せ付けぬ城となれ『拠点創造』」
創造魔法により地面が盛り上がっていく
そして巨大な城が出来た
横に2㎞程、高さは100メートル程の城
色は黒で統一されてあり、何処からどう見ても魔王城だ
「大きいのを造ったね」
「あぁ。ドクルクの大きさも考えてな。これからも体の大きい仲間は増えていくかもしれない。その時の為だ」
「主の魔法は何でも出来るのだな」
さて、仕上げといこう
「道は道ではない、入り口は入り口ではない、そこにあってそこにはない『空間剥離』」
「許可なき者は立ち入る事を禁ず『空間転移』」
「敵対者を撃退せよ『武具創造』」
空間魔法と創造魔法で出来るだけの対策はしておく
「これでよし。ドクルク、この城は俺の仲間にしか見えないし、入れない。中でしばらく待っていてくれ。俺達は町でやり残した事がある」
「了解した」
「城へ近づけば勝手に転移するように設定してある」
ドクルクは頷き城へと近づいていく
城の門の前に着いた時、ドクルクの姿が消えた
「さぁ戻ろう」
「うん」
俺達は町へと飛んで帰った
やり残した事とは勇者と会うことだ




