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掴めない足取り

「確かに承りました。ではこちらへ」


俺達はマイヤークの家へとつき、執事服を着た男性に手紙を渡した

多分執事であろう男性は手紙を読むと俺達を中に案内してくれた


「申し遅れました。私マイヤーク邸の執事長をしておりますダルバと申します。御入り用がある場合は私にお申し付け下さい」

「結翔だ。宜しく頼む」

「エミリアだよ」

「結翔様、エミリア様、それでは手紙に書かれてあった通りお嬢様へと紹介させて頂きますが宜しいですか?」


まぁ娘も喜ぶと言ってあったから、喋っていれば良いのだろう

俺が頷き、それを見てエミリアを頷く


「それでは案内させて頂きます」


俺達はダルバの後ろをついていく

しばらく歩くと1つの扉の前で止まった

ダルバは2回扉を叩く


「お嬢様、ダルバでございます。マイヤーク様のお客様にございます」


ダルバはそう言うと俺達に頭を下げて去っていった


「これは入れば良いのか?」

「そうだと思うよ。駄目なら言ってる筈だしね」

「そうだな。失礼する」

「お邪魔します」


俺達は扉を開けて中に入った

部屋の中には色々な形のぬいぐるみで溢れており、最も集まっていたベッドの上に少女はいた

年は10才前後の茶色の髪を肩上で切り揃えた少女


「始めまして。私はアメリダ・マイヤークって言います」

「俺は結翔だ」

「僕はエミリア、宜しくね」

「結翔様にエミリア様ですね」


アメリダはベッドの端にあった何かを取る


「ダルバお茶と菓子を」


そう言って何かを元の場所に戻した

電話に近いものなのかも知れない


「今のは何なんだ?」

「あれは通信用魔道具だよ。ついになってるもう1つの通信用魔道具に声を届けるんだ」

「電話みたいだな」

「そうだね」


ふと漏らした言葉にエミリアが反応して、説明してくれた


「結翔様、エミリア様、どうぞ席に座ってください」


アメリダは俺達の手を引き椅子へと案内する

俺達が席に座ると、タイミングを見計らった様にダルバがお茶菓子を持ってきた

アメリダが受け取り俺達の前に置き、対面の椅子へと座る


「では早速お聞かせ下さい」


そう言ってアメリダはキラキラした目を向けてくる


「何の事だ?」

「僕達は何も説明されてないから、何をすればいいか分からないよ?」


俺とエミリアが疑問の声をあげる


「お父様から何も聞いていないのですか?」

「あぁ」

「娘も喜ぶでしょうって言ってたよ」


アメリダは驚いた後、少し呆れを含んだ表情で説明してくれた


「私は幼い頃から体が弱く外に出ることが出来ません。お父様はそんな私に外であった出来事を話してくれるのですが、1人ではそうそう何かがあるわけではありませんよね?だからお父様はこの様に私に話をしてくれる方を探して下さっているのです」

「そうなんだ。治らないの?」

「難しいだろうと言われております」


アメリダは悲しそうに、そして何処か諦めた様に笑った


「ですので、結翔様とエミリア様のお話を聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「とは言っても何も無いんだがな」

「じゃあ僕が話してあげるよアメリダちゃん」

「聞かせてください!」

「任せてよ。じゃあ何から話そうかな~」


エミリアは面白おかしくアメリダへと話していく

他愛ない話でもアメリダはとても楽しそうに聞いていた


「失礼するよ」


しばらくすると扉がノックされた後、マイヤークが入ってきた


「お父様おかえりなさい」

「ただいまアメリダ。先程は急ぎの用があったため申し訳ありません。改めて自己紹介させて頂きます。私はラルハルト・マイヤークと申します。この町の領主をしております」

「結翔だ。今はなにもしていない」

「僕はエミリア。旅人だね」

「結翔君にエミリアさん、私の娘と話をしてくれてありがとうございます。娘もさぞ楽しかったでしょう」

「僕も楽しかったよ」

「そう言って頂けると嬉しい限りでございます。アメリダ、お父さんは少し話があるから待っていなさい」

「はい」


どうやらマイヤークから話があるらしく、俺達はマイヤークの部屋へと連れていかれた


「それでは早速仕事の話をしたいのですが宜しいですか?」

「あぁ」


マイヤークの部屋の中に入り椅子に座ると、マイヤークは話を進めていく


「期限は2日間になります。ガルハルド王国への道中の護衛をお願いします。報酬は銀貨20枚ですが宜しいですか?」

「分かった」

「それでは明日の朝に出発致しますので、それまで寛いでいて下さい。部屋はダルバに案内させますので」


マイヤークはそう言うと通信用魔道具へと手を伸ばした


『結翔、少しだけ時間を頂戴』


だがマイヤークが通信用魔道具に触れた時、エミリアの声が頭に届く

何をするつもりかは分からないが、エミリアに任せようと思い頷いて返す


「ねぇマイヤークさん、1つ提案があるんだけど」


エミリアの言葉にマイヤークは動きを止めて俺達を見た

そして通信用魔道具を置き、椅子へと座る


「どうしましたか?」

「アメリダちゃんの呪い(・・)を解いてあげようか?」


エミリアがそう言うとマイヤークは訝しげな視線を向けながら、何かを考え始めた

アメリダは病気じゃなく、呪いがかけられていたらしい

どうしてエミリアがそれを知っているのかは謎だが、エミリアはそれを知ったのであろう


「アメリダちゃんの呪いはこの家の敷地内から出れない呪い。これだけ聞けば大したことが無いようにも聞こえるけど、実際はもっと酷い。家の外に出ようとすると寿命が縮んでいく。出たいとそう思うだけでも寿命が縮んでいく。

だからおじさんは嘘を突き通す事にした。

敷地には結界が張られてあり、この中でしか生きていけないと」


マイヤークはエミリアを睨み付けていた


「………何処でそれを知ったのですか?」

「僕が見れば分かるんだよ。おじさんは凄く頑張ったよ。今までの努力は無駄じゃないだよ。

だって此処に僕達が来たんだから」


エミリアはマイヤークに微笑みかける

そしてマイヤークは静かに涙を落とし始めた

ずっと耐えてきたのだろう

たった1人で全てを抱え込み、1人で娘の呪いと戦ってきたマイヤークは辛かっただろう


「本当に………本当に娘を治せるんですか?」

「心配しないで良いよ。僕が救ってあげる」

「良かった…本当に…本当に良かった」


マイヤークは少しの間泣いていた


「ただし、条件があるんだ」


マイヤークが落ち着くまで待ってから、エミリアが声をかけた


「私に出来る事なら何でもします!ですから…どうか、どうか娘を助けて下さい」

「分かったよ。結翔、分かるね?」

「あぁ」


もう何がしたいかは分かっている

俺達はこの世界の情報に疎い

ならば情報源を確保しないといけない

それがマイヤークだ

だが裏切られてはいけない


「汝裏切ることなかれ、我此処に契約を課す『魔具創造』」


マイヤークの胸にネックレスが造られた

何かに剣が刺さっている気味の悪いネックレスだ


「これは?」

「それは契約の魔道具だ。俺達を裏切った場合、そのネックレスが心臓を貫く事になる」

「おじさんは何でもいいと言ったんだよ。だからおじさんの全てをもらうんだ」


そう、剣が貫いているのは心臓

マイヤークは今の説明に少し焦燥が見られたが、それよりも大事だと言うようにアメリダを治して欲しいと懇願した


「分かってるよ。じゃあ結翔、後は任せるよ」

「あぁ。エミリアも頼んだぞ」


エミリアは頷いて部屋を出ていった


「さて、契約の説明をしよう」

「あの…娘は本当に治して貰えるのでしょうか?」

「エミリアは女神だ。呪いくらい何ともないだろう」


マイヤークは何を言ったのだとばかりに俺を凝視する


「話を進めるぞ。まず、俺達に関しての情報を他者に渡すことを禁じる。次に俺達へと情報を渡す。最後に俺達の事を裏切るな」

「わ、分かりました。ですが本当にそれだけなのでしょうか?」

「あぁ。それだけだ」


そう、俺達は目立たない方がいいし、何より裏切りがないことは良いことだ


「あの、エミリアさんが女神とはどうゆう事なのでしょうか?」

「僕が説明してあげる」


丁度そこへエミリアがアメリダを連れて帰ってきた


「お父様…」

「アメリダ…」

「お父様、エミリア様に聞きました。私には呪いがかけられていたと…」

「…黙っていてすまない。私はアメリダに普通の暮らしをして欲しかった」


マイヤークの目には涙が光る


だがアメリダは笑顔でマイヤークに抱きついた

「お父様が私を心配して下さった結果です。私はお父様に愛されていることが、今一度分かって嬉しいのです」


アメリダがハンカチを取りだしマイヤークの涙を拭う


「お父様…辛かったでしょう?」

「アメリダ………私は………」


アメリダはマイヤークから離れてくるっと回った

そしてマイヤークに笑顔で告げる


「もう大丈夫ですお父様。私は元気です。エミリア様が治してくれました。ですから心配なさらないで下さい」


今まで苦労してきた父へ精一杯の笑顔を贈る

今までの苦労は無駄ではなかったと、報われたのだと伝える為に

マイヤークは静かに泣き崩れた

だが、それは悲しみから来る涙ではなく、嬉しさ来る歓喜の涙であった


『なんだか素敵だね。僕も本当はこんな光景を見るために頑張ってたのにな…』

『エミリアの頑張りも誰かは知ってくれているさ』

『ありがとう。そう思う事にするよ』


俺達は心が暖かくなるのを感じながら二人を見ていた


「申し訳ありませんでした」

「いや、気にしなくていい」

「あの、結翔様エミリア様、本当にありがとうございました」

「このお礼は必ずします。私に出来る限りの事をさせて下さい」


二人は何度もお礼を言った


「なら早速だが萌愛めあと言う名を聞いた事はないか?」

「萌愛ですか…いえ、私は聞いたことがありません」

「私もないです」


萌愛は名前を使っていない、もしくは有名ではないと言うことだ


「次に異世界人と言う奴達を聞いた事はないか?」

「勇者様達の事でしょうか?」

「勇者はいるのか………達?勇者は複数いるのか?」

「え?そうですけど?」


当たり前だと言わんばかりの顔で見てくる3人………エミリア、知っていたなら教えてくれよ


「分かった。確認できるだけで何人いる?」

「そうですね…一万以上はいらっしゃるかと思います」


一万の勇者?

アホみたいにいるじゃないか


「だいだいどの国も似たような人数だった筈です」

「………まさか1つの国で一万か?」

「え?はい」


これは萌愛を探すのが難しくなった

それに、そんなにいるのなら萌愛の名前が分からなくても仕方がない


「そう言えば今この町にも勇者様が来られている筈ですが、もしお話したいのであれば場を用意しますが?」


勇者がいるのか…会ってみよう

会わなければ何も始まらないしな

もしかすると萌愛を知っているかも知れない


「頼めるか?」

「はい。明日にはお会い出来る用手配します」

「後はここから一番近い国へ行きたい。護衛の依頼は王国へと行く筈だったな?」

「はい、ガルハルド王国へと向かう道中の護衛です」

「分かった。今はこれ以上は何も無い。強いて言うなら依頼の報酬を少し多くしてくれないか?」

「勿論ですとも。その程度ならいくらでもします」

「それじゃ頼んだ。今日はそろそろ終いにしよう」


俺は横へと視線を向ける

そこにはソファーの上で気持ち良さそうに寝ているエミリアとアメリダを見る


「そうですね。それでは私はアメリダを運びますので、エミリアさんをお願いしても?」

「あぁ」


俺はエミリアをお姫様だっこする

萌愛に良くやっていたのを思い出す

萌愛も布団ではなく、ソファーで寝ることが多かったからな


部屋を出た俺を待っていたのか、ダルバが部屋へと連れていってくれた

俺はエミリアをベッドに置き、自らのベッドに潜り込む

長い1日だったが、萌愛を早く見つけないといけない

明日もきっと忙しくなるだろう

この町にいる勇者と話をしなければならないし、俺も確かめたい事がある

俺は明日の予定を整理しながら眠りについたのであった






「朝だよ結翔」


そう言いながら俺の体を揺らすエミリアの声で起きた


「…あぁ」


窓から指す日差しに当てられたエミリアは神々しくて俺を眠気へと誘った


「結翔朝だよ」

「……あぁ」


俺は元々朝に弱い人間だ

少し起こったような顔で俺を見るエミリアが珍しくて俺を眠気へと誘った


「結翔」


そして遂に俺の最後の結界(ふとん)が消えてしまった

俺を守るものが無くなり、仕方なく上体を起こす


「おはよう結翔」

「あぁおはようエミリア」

「昨日はごめんね。寝ちゃってたみたいで」

「それは気にしなくて良いんだが、もう少しだけ寝させて欲しかった」

「それは駄目だね。もう少しで朝御飯だからね」


ご飯と聞いて喜んでいるエミリアを見ていると、俺を眠気が「結翔、もう駄目だからね」誘うことはなかった


「後、勇者の件でおじさんが来て欲しいって言ってたよ」

「…あぁ」


俺は頷きながらも少し考えた

勇者の件で進展があったのかも知れない


「それじゃあ僕は先に行っておくよ」

「分かった。俺も直ぐに行く」


エミリアを見送り、俺も脳が覚醒するまで待ってから部屋を出た


部屋の外にはマイヤークのメイドがいて、食事をする場所まで案内してくれた

マイヤークとアメリダ、エミリアが席についており、俺も残りの1つの椅子に座る


挨拶を軽く交わし、食事を開始した

食事中にマイヤークがアメリダへと話をする

何気ない日常の会話だが、気になる言葉があった


「魔物?」


そう、マイヤークが町の近くに厄介な魔物が住み着いたと話していた


「はい、何でも町の直ぐ側にある森に危険度Bランクのポイズンスネークが住み着いたと冒険者が話していたのを耳にしまして」

「それでどうするんだ?」

「既に討伐依頼が出されていますし、この町には丁度勇者様もいます。なので、直ぐにでも討伐されると思います」


タイミングが良い

俺はこの体での戦闘能力を試したかったんだ


「場所を詳しく教えてくれ。俺が討伐してこよう」

「本当ですか!それは良かったです。ですが私が持っている情報よりも、ギルドで聞くのが宜しいかと」

「分かった。それならギルドの場所を教えてくれ」


俺はギルドの場所を聞き、残っていた食事を済ますと、部屋に戻り用意をする


「急にどうしたんだい?」

「早くこの体に慣れないといけないからな」

「なるほど」

「エミリアはどうする?」

「勿論一緒に行くとも」


エミリアと共に用意を済ませてマイヤーク邸を出る


「この道を真っ直ぐで、3つめを右に行き、更に2つめを左に行って、その突き当たりの建物だったな?」

「僕には超記憶の異能はないんだよ?覚えてる訳ないだろ」

「そう言えばそうだったな。取り敢えず行こう」


そのまま言われた通りに道を進んでいくとギルドらしきものが見えてきた


「ここは僕に任せてよ。話し合いは得意なんだ」

「分かった。任せる」


エミリアを先頭にギルドへと入った

ギルド内はバタバタと慌ただしかった

きっとポイズンスネークの件だろう

エミリアは気にせず受付へと歩いていく

すると先程まで騒がしかったギルド内が突然静かになった

妙な緊張感が漂う

誰もが俺達…いや、エミリアを見ていた


「聞きたいことがあるんだ」

「は、はい。どのようなご質問ですか?」


受付嬢ですら緊張している


「ポイズンスネークのいる詳しい場所を教えて欲しいんだ」

「少々お待ちください」


そして何やら用意してエミリアに説明を始めた

どうやら何の問題もなく場所を教えてくれたようだ

それにしても、スムーズに進むものだと思う

これがエミリアが言っていた得意と言う事なのだろう


「討伐に行かれるのですか?」

「そうだよ」

「そうですか。実はポイズンスネークの変異種との情報がありまして、危険度はAランクの依頼となっております。どうか気を付けて下さい」

「ありがとう」


用が済んだ俺達は、ギルドを出て森へと向かう

目的は体を慣らすこと………それと、そのポイズンスネーク変異種を仲間にすることだ



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