プロローグ
お願いします
『お兄ちゃん…』
寂しがりやで泣き虫でいつも俺の背中に隠れてて、恥ずかしがり…そんな少女はこの状況の中、涙を堪えて少年の心配をしている
『返せよ!離れろよ!』
少年はそう言って少女を囲む奴達に向かっていく
だがいくら走ろうが奴達には近づけない
何故ならば見えない壁の様なものに行く手を阻まれているからだ
『くそっ!くそっ!くそっ…くそっ!』
だが少年は諦めなかった
ひたすらに見えない壁にその拳を叩きつける
『お兄ちゃんもう止めてっ!萌愛なら大丈夫だから』
少女は自らの兄の拳から血が流れるのを見て必死に止める
『大丈夫なんかじゃない!俺が萌愛を守るんだ!』
だが少年の拳はその動きを止めることはなかった
『お兄ちゃん………ありがとう。萌愛はお兄ちゃんと暮らせて楽しかったよ。お兄ちゃんと会えて良かったよ』
『分かったから…分かったから…』
少女は周りにいる奴達に何事か呟く
奴達は静かに頷いてぶつぶつと何かを言い始めた
『萌愛?』
初めて少年の拳が止まった
『お兄ちゃん…』
『萌愛…兄ちゃん言ったよな?2人で頑張って生きていこうって』
『うん』
『約束したよな?』
少年は力なく座りこんだ
『ごめんなさいお兄ちゃん…』
少年の目から涙が溢れる
少女は涙を拭いて兄を見る
『大好きだよお兄ちゃん』
少女がそう言うと奴達と少女の足下が光った
少年は余りの眩しさに目を隠す
『萌愛?………萌愛ぁぁぁぁ!!!』
光が収まったそこに、少女はいなかった
その場に残るのは悲痛な叫び声だけだった
***1ヶ月後
あの日からずっと手がかりを探し続けているが見つからない
「あれはテレビでよく見る魔法みたいだった。つまり異世界だと推測。もしくは宇宙人」
そう、奴達と萌愛の足下にあったのは魔法陣ににている
俺は日本にある、ありとあらゆる図書館にいき、魔法やそれに関するものについて書いてある本を読み漁った
「これも違う」
日本にある図書館はこれで最後…
「そしてこれが…」
そう言って『神様との通信の仕方』と書かれた本を手に取る
この本で魔法やそれに関する本は最後だった
俺は本を開いた
そして目を疑った
どれだけページを捲っても本には何も書かれていなかった
「この図書館にも何もなかったか………まだお金はある。外国の図書館に行こう」
そして席を立とうとした俺の目の前で一瞬何かが光った
光のした方向には先程手に取った本がある
「まさかっ!」
俺は本を開いた
『常闇結翔、君は異世界に渡る力が欲しい。違うかい?』
何も書かれていなかった筈の本の1ページ目
そうそこに書かれていた
俺は慌てて次のページを捲る
だが、そこには何も書かれていなかった
(どうすればいい…これが最後のチャンスかもしれないのに…。さっきは閉じていて光ったんだ。ならば…)
俺はもう一度本を閉じて置いてみた
俺の予想は正しかったみたいだ
本はしばらくするともう一度光ったのだ
俺は急いで本を開いた
1ページ目には先程の文字があった
ページを捲る
『常闇結翔、君に常闇萌愛のいる世界へと渡る力を与える事が、この僕には出来る。いや、常闇結翔をこの世界に呼ぶことが出来るんだ。おっと、自己紹介がまだだったね。
僕は常闇萌愛が、現在いる世界で魔神と呼ばれているキルシュだよ』
そこで終わっていた
俺は本を閉じて置く
萌愛がいる世界の魔神キルシュ
魔神と言えば一般的には悪だと認識されているが俺には関係ない
もしも本当に俺に異世界に渡る事が出来るのなら、俺にとって最高の神だ
俺は本が光るのを待ち、そして次のページを捲った
『その通り、君にとっては良い神様になるよ。そしてここからが本題だよ。僕は今封印されていて、その封印が解けそうなんだ。封印が弱まったから常闇結翔とこうして会えた。
そして僕は封印が完全に解けてしまうと他の神に殺されるだろう。
だから僕は生きるのを諦めたんだ。
僕の力を常闇結翔にあげる。
どうせ消滅するのなら、常闇結翔の力として僕が生きた方が良いと思わないかい?』
俺は本を閉じた
キルシュは他の神に喧嘩でも売ったのだろうか?
でもキルシュが本当に殺されるのなら、キルシュの言う通り、俺の力として生きて欲しい
光った本を手に取り、先程の次のページを捲る
『だから常闇結翔に力をあげる。僕の全ての力をあげる。でも人間の魂の器に僕の力は大き過ぎるんだ。
ならどうしたら良いんだって思ったね?
答えは君が進化すれば良いんだ。僕の器をあげる。大丈夫、常闇結翔の顔や性格その他もろもろも含めて何も変わらないよ』
そんな事なら問題ない
俺はキルシュ、お前を信じる事にしたんだ
だから何も心配していない
そしてまた光る
『ありがとう。何だか変な気分だよ。これが友達って事なのかな?まぁ良いや。さて、そこまで信用してくれてるんだ。僕も頑張らないとね。
今から常闇結翔、君を僕の封印されている場所に召喚する。
これが本当に最後だよ。君の気持ちが決まったら本に手をつき、言ってごらん』
友達…俺もそんな存在はいない
だからキルシュが初めての友達だな
俺は本に手をつく
「キルシュ、俺に力を…萌愛を助けられる力をくれ!」
俺は襲ってくる睡魔に身を任せた
「早く起きなよ、常闇結翔」
俺は声をかけられ目を開ける
部屋の中なのかとても暗かった
「やっと起きたね。さて、そろそろ始めるよ」
俺は声のした方向を見る
そこには淡い紫の光を纏った女性がいた
背中には白い翼がたくさんある
「キルシュなのか?」
「あぁそうだよ。初めまして常闇結翔」
ニッコリ笑う彼女は今まで見たことないくらい綺麗な女性だった
「俺は男とばかり思っていた。すまない」
「良いよ別に。あっそうだ。なら僕と友達になってよ。僕はずっと友達が欲しかったんだ」
そう言ってキルシュは手を伸ばした
俺はその手を掴みかえす
「こちらこそだキルシュ」
「ありがとう。結翔って呼んでも良いかい?」
「勿論だ」
俺は人生で初めての友達ができた
「じゃあ結翔。もう時間がないんだ。だからそのまま僕の手を握ってて」
俺は言われた通りにキルシュの手を握る
キルシュが何かを呟き始めた
するとキルシュを纏っていた紫の光が俺の体に移動してくる
暖かく、そして優しい感じがする
「結翔…そろそろ終わる…よ」
キルシュが苦しそうにそう言った
どうしたんだ?と言おうと思ったが理由は直ぐに分かった
「キルシュ、体が…」
そう、キルシュの体が足元から徐々に消えていく
「心配…いらないよ。……だって僕が友達に出来る最期の事なんだから」
「キルシュ…。俺は絶対に萌愛を取り戻して、キルシュの事を話す。俺にはこんな良い友達が出来たんだって」
キルシュは少し驚いたような顔をしたが、直ぐに笑顔に変わった
「ありがとう結翔。僕は嬉しいよ。君は強くなる、きっと誰にも負けない程の強さを手にいれる。
きっと何でも出来るよ。
でもね結翔、絶対に道は間違えたら駄目だからね?僕みたいに神様に狙われたら生きるのが難しいんだから」
「あぁ。きっと間違えないさ」
キルシュは既に胸の辺りまで消えている
「ありがとう結翔。僕の友達になってくれて」
「キルシュありがとう。俺はキルシュのお陰で萌愛を取り戻せる」
「ありがとう結翔。僕を信じてくれて」
「キルシュありがとう。俺を見つけてくれて」
肩まで消えたキルシュとお互いにありがとうと良い続ける
「じゃあね結翔。絶対に妹さんを助けてあげてね」
「あぁ。キルシュ…。………キルシュと友達になれて良かった。だから…」
【以降を完了しました】
俺の頭の中に何かが響いた
それと同時に使い方まで分かる
キルシュ…本当にありがとう
だからこそ!
「この体は…お前に貰ったこの力は何でも出来るんだよなキルシュ!」
俺は脳内に入ってきた膨大な情報の中から探し当てた
「消え行かんとする魂よ、我が命の一部をもって、汝に今一度命を与える。『再命』」
目の前に魔法陣が浮かび上がる
俺は魔法陣に左腕を差し込んだ
魔法陣は赤く染まり、目も開けられない程の光を発した