さんざし
母は愛に生きる女だった。
周りは、母の姿を美しいと褒め称えていた。
でも、私は知っている。その美しさは、美への飽くなき追求は、ただ一人の男からの愛を得るためだけにあると。そして、その美しさは、私を放っておくという犠牲の上で成り立っていることを。そんな母の下に生まれた私は、早々に母の下から離れた。離れるのが当然のごとく、お互いに惜別の言葉を交すことはなかった。
母から離れた私は、外の世界に夢中になった。
様々な出会いと別れ、移ろいゆく景色、
それら全てが私を成長させてくれた。
やがて、私は、母と同じように、周りから美しいと
褒め称えられるようになった。
そう、母と同じ。私は、母と同じ男を愛してしまった。
幼い頃、どうして母が、あそこまで、私を犠牲にしてまで、ただ一人の男の愛を独占しようとしたのか分からなかった。でも、今なら分かる。
私は、彼の一番の女ではない。
彼が愛する女は
彼を愛する女は
たくさんいる。その中で、私だけを見てもらうためには、
子供の犠牲など全く厭わない。
お願い。私だけを見て。
私は貴方の愛を全身で受け止めるから。
私は花、愛する貴方は、太陽。