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19 事件の後に






「バカバカバカバカバカッ!! お兄ちゃんのバカ!」

「ちょ、落ち着いて、ミラ」

「お兄ちゃん下手したら死んじゃうところだったんだよ! ギルドの怖い人達に狙われて、連れ去られて帰って来なかった人いっぱいいるんだからね!」

 屋敷の部屋でマシンガン罵声を浴びながら、俺はミラに胸を何度も叩かれていた。

 快方に向かっているミラは今、ボロボロ涙をこぼしながら力無い拳でさっきから何度も何度も叩いてくる。

「けれど、やらなかったらこうしてミラを助けられなかった」

「だからって! あんな危険な事! もしお兄ちゃんが死んだら何にもならないじゃないっ!」

「でも、もしミラだったら『相棒』の死をただ眺めている事なんてできた?」

「うっ……そ、それはそれ! これはこれだよ!」

「俺は俺ができる限りの事をしたかった。なあミラ。俺は、ミラが生きていてくれて嬉しい。またパートナーを組める事を楽しみにしている。俺は……これからもミラと一緒にやっていきたい。そのためだったらいくらでも体くらい張るさ」

 彼女の小さな手を取って真正面から見る。ルビーのような赤い瞳が潤んでいる。

 やがてミラの釣り上がっていた目尻がへにゃりと垂れ下がってきた。合わせて長耳も萎れたように下がる。

「うー…………」

「まだ体力が戻ってないんだ。今はもう少しお休み。ここの屋敷の主のマヤさん達とは話が着いてるから大丈夫。何も心配する事なんてないぞ。さ、さ、横になって」

「うー、うー…………うん………………」

 顔はまだ不満ありありだけれど、先に体の電池が切れたみたいだな。少ししんどそうだ。

 簡素な布で作られたズボンとチュニックを着たミラがのそのそとベッドに潜り込む。

「ね、ねえ、お兄ちゃん……」

「うん?」

 俺はミラにそっと毛布を掛けていると、上目遣いでこっちを見てくるミラと目が合った。

「その…………ね…………あ、ありがとう」

 ……あぁ、良かった。

 この子を助けられて、本当に良かった。

「いいさ。相棒だろ、俺達」

「……うん…………うんっ……ぐすっ……」

 すぐにゴロンと背を向けてしまったミラの銀髪を軽く撫でて「安静にな」と声を掛けて俺は部屋を後にした。


 あの後。

 レプリカ短剣の残骸を回収して、気絶したマヤさんと通り魔両名を屋敷に連れて帰り、そのまますぐ俺はミラの部屋に行った。

 通り魔の短剣を破壊した事をゲイツさんに伝え、再び上級回復(グランド・ヒール)上級状態異常回復(キュアフル)を連発してもらった。既に回復魔法の使いすぎでかなりヘバっていたゲイツさんだけど、残りの力を振り絞って文字通り倒れるまで回復魔法を使ってくれた。

 すると少しずつミラの熱が引いていき、容態が回復していくのが目に見えて分かった。

 後で聞いた話によると、一時は本当に危なかったんだそうだ。

 ミラをずっと診てくれてたゲイツさんには本当に感謝しなくちゃな。

 マヤさんはメイドさんに任せた。あらかじめ俺のヒールでほぼ全ての傷が癒されていたので、そのまま鎧を脱がされてベッドに直行。

 通り魔のザックはキッチリ武装解除した後、猿轡と縄で拘束して俺がずっと見張りについた。短剣職は盗賊みたいなスキルがあるからな、目を離したスキに縄抜けされて逃げられたら困る。

 翌朝、目を覚ましたマヤさんと話して、彼女の手によってそのまま領主の元に突き出された。

 しばらくは裏取り調査になるけれど、死罪になるのはまず確定だろうとマヤさんは言っていた。

「これで……あの()や被害者の皆さんも安らかに眠れるわね」

 あの娘とは、マヤさんの乳母の娘さんの事だろう。

 通り魔関連の処理でここ数日忙しそうにあちこち行ったり来たりをしていたマヤさんも、ようやく一段落ついたようで、今は庭のバラ園が見えるテラスで俺やミラ、ゲイツさんと一緒にテーブルを囲んでお茶をしていた。

「それにしても、まさかあんな凶悪な武器を持ってたなんて……ほぼ相討ちにまで追い込まれるとは思わなかったわ。ソーヤ君のバフが無かったらホント危なかったわね」

「最後の一合だけ見ましたけれど、すごかったですよ」

「ふふ。ありがとう」

「あっ、このクッキーおいしー」

「おいこら火の玉娘、ちったあ自分の無茶を反省しろや。兄ちゃんがいなかったら、追いかけてきた鬼斬り(オーガバスター)ギルドの連中にとっ捕まって口封じされてたかもしんねんだぞ、コラ」

「もう、ゲイツはいつも説教臭いんだから……あ、ソーヤ君には感謝してるわよ。最後の後始末押し付けちゃったみたいでごめんなさいね」

「いえいえ。単にお二人を運ぶだけでしたから」

「でも……最後の一撃で通り魔の短剣を狙った覚えはないんだけど、いつの間にか真っ二つになってたなんて……そこが妙なのよねぇ」

「お兄ちゃん、紅茶注ごっか?」

「……まあ刀身に結構ガタがきてて、最後の衝撃の余波でポッキリいったんじゃないですかね?」

 マヤさんは自分が通り魔を倒したのだと思っている。自分が倒れた後、通り魔が死んだフリ(フェイク・デッド)で仮死状態に偽装していたという事は教えていないし、教える必要もないと思っているので、そのままにしている。

 そんなわけで、通り魔捕縛はマヤさん主導の下で行われ、その功績もマヤさんがメインで手続きが進められていた。

 今、街は「女騎士、連続殺人鬼を成敗する!」というニュースで沸いているとか。

「オーガバスターギルドもこの一件で消滅たぁな、散ったメンバーはどこに吸収されんのかねぇ」

 そう。オーガバスターギルドは解散した。

 もう少し正確に言うなら、分裂して本家が消滅した。

 オーガバスターギルドにはサブマスターが二人いて、片方がソレイユ、もう片方がメリカという人間の女性が務めていたんだけれど、このメリカが自分の取り巻き引き連れてギルドを飛び出したそうだ。ちょうど通り魔の事件の関係が明るみに出る直前だったとか。

 そのタイミングの良さから、恐らくは前々からメンバーを引き抜いて旗揚げする根回しを進めていたんだろう。そして醜聞が明るみになる前に離脱した、という所か。

 その一連の行動を聞いて俺は深く息をつかざるを得なかった。

「ああ、やっぱり。あの女、『姫』だったか」

 姫。それはネトゲのグループクラッシャー。

 甘い言葉と愛嬌を周囲に惜しみなく振りまき、女に慣れていない男を侍らせ、貢がせ、ちやほやされる事に心血を注ぐ女の事。

 そして、同じグループにいる他の女を徹底的に排除する、或いは取り巻きにそう仕向ける女だ。

 もしギルドマスターが姫に取り込まれたら、何かにつけて姫を優遇・贔屓し甘やかすようになり、公正なギルド運営を求めてそれを良しとしないメンバーらと温度差が広がる事になり、やがては信用が無くなりメンバーのギルド脱退が進んで行く。そして姫は自分の取り巻きさえ残ればいいので、それを歓迎する。

 過去、そうやっていくつものギルドが分裂、縮小、消滅していった。

 なお、姫がギルドを追放される場合もあるが、その場合姫は新たなギルドへ入り、同じ事を繰り返す。

 初めてミラと出会う前にソレイユと一緒にいた女、あれがメリカだろう。

 傍から見てて、メリカの方はソレイユを敵視してるって直感した。ギルドとか大学のサークルとかでも似たような空気を体験した事あるし。

 まあソレイユの方はパっと見た感じ、相手にしてなかったみたいだけど。

 ギルド内部では、さぞかしソレイユへの裏工作があったんだろうなぁ。

 女で崩壊、は古代からの宿命だ。カエサルもそう言っている。たぶん。

 そして友人のキャラであり、元々のギルドマスター・アルトレインは街からの追放を食らった。

 ギルドメンバーから連続殺人犯を出し、更にこの街の最高権力者であるグリーファウス伯爵直属の国家騎士を承知で襲撃した事の責任によってだ。

 更にはギルド自体にも罰金などペナルティーが課せられ、今回の悪名と相まって相当ダメージを食らった事だろう。数日と持たずに残ったギルドメンバーらは次々に離脱していき、雲散霧消となったそうだ。

 オーガバスターギルドのスポンサーとなっていたクロウ子爵だが、「自分の関与する所ではない」と息子が全ての責任を負わされたそうだ。

 実際あのドラ息子、街での評判もよくなかったし、これを機に子爵から勘当されたと見ていいだろう。

 マヤさん襲撃の指示を出してたのもドラ息子だとアルトレインも証言したそうだし、裁判はこれからだが、それなりの罪になりそうだと聞いた。

 逆恨みされてミラに粘着されても困るので、当分は牢獄に繋がれて頭を冷やして欲しい所だ。


 ふう……今は落ち着いたけど、本当慌しかった日々だな。あー、紅茶が美味い。

 さて。

 俺はというと、年単位の契約でミラともどもマヤさんに雇われる事になった。

 フリーランスのバッファーと生産職としてマヤさんの部下となり、ツァオ家で暮らしている。

 時折警備の仕事に連れていかれたり、どこぞの貴族のお披露目パーティに連れて行かれたりしている。まあパーティは会場入りはせず、外での待機なんだけど。従者みたいなものだな。

 パーティが終わったら知り合いの貴族らへの紹介、顔合わせみたいな事はさせられた。要するに「この人が最近加わった新入りです。今後お宅の所にお使いにだす時もあるかと思いますが、不審者ではありませんので怪しんで追い返さないで下さいね」という事だ。

 自己紹介もしたけどほとんどが「ふーん新入りね。ああ了解了解。憶えておくわ」みたいな反応だった。まああからさまに不審がられはしなかったし、大丈夫だろう。通報はされていないと思う。

 あと、カンストクラスのバッファーしか使えないカウンター・アーツ、これを俺が使える事については「一人山奥に篭って修行していたから」と言って誤魔化しておいた。信じてくれたかどうかは不明だけど、それ以上の追求はされなかった。

 空いてる時間はミラと組んで外で細々とした依頼を請け負ったり、ゲイツさんや屋敷の人達との親交を深めたりしている。

「お兄ちゃんお兄ちゃん、このお茶請けおいしーよ」

「…………なあミラ」

「ん、なーに? 欲しい? ふっふっふ。あたしが食べさせてあげよっか? はい、あーん。なーんてねっ」

 そして……すっかり元気になったミラは毎日熱心に鍛冶や裁縫などの物づくりに励み、勉強を頑張っている。

 そんな彼女は今、俺の背中にだらーんと引っ付いている。

 俺の顔のすぐ隣から銀色の頭を出して、俺の前にあるお茶菓子をひょいひょいパクついていた。

 最初はちょっと困ったけど、今ではすっかり慣れてしまった。

「……ほら、紅茶。甘い物ばかりだと味が滅茶苦茶になるぞ」

「ん、ありがとー。でもあたしは紅茶より果実ジュースの方がいいかなー。紅茶って味薄いしちょっと苦いし……」

「あー、まだ紅茶は飲めないかぁ。舌……味覚が幼いままなのかな」

 最近気がつけば膝の上に乗ってきたりとよくくっついてくるけど、なんか猫とかの小動物に懐かれてるようで、可愛いと思ってついつい放置してしまっている。

 昔いた姪っ子的存在というか娘的存在というか、そういうのを思い出してしまうせいだろうな。あの子がミラくらいの時はもっと大人しかったけど。こう、ハムスター的な感じで。

「はっはっは。お嬢ちゃんにはまだ紅茶は早いか!」

「む、子供扱いしてない? あたしこれでも24なんだよ!」

 まあミラは見た目、まだ小学生低学年くらいだからなぁ。子供にしか見えん。乗っかられても体重軽いし。

 あ、マヤさんも小さく笑ってる。

「あぁ、ほっとするなぁ」

 街の喧騒を遠くに眺め、イスの背もたれに体を預ける。

 ……状況も落ち着いたし、そろそろこれからの身の振り方を考えないとなぁ。

「ん?」

「……」

 ミラが横から俺を見ていた。

 じーっと。

「どうした、ミラ?」

「ううん、なんでもないよ。お兄ちゃん、なんかおっきいなぁって見てただけ」

「そりゃぁミラに比べればな。でも俺よりゲイツさんの方が大きいぞ。肩車でもしてもらうか?」

「おいおい、勘弁してくれや。そんなのガラじゃねえぜ」

「あらいいじゃない。やってあげたら?」

「もー! 皆、子供扱いしないでってばー!」

 拳を振り上げるミラに、笑う俺達。

 そんな、異世界での午後だった。


 ☆☆☆☆☆☆


 それは雨の日の事だった。

 とある買い物の帰り道。とある路地裏で。

「………………うわ」

 一人歩いていた俺は若いエルフの女性が街角のゴミ山に倒れているのを見つけた。

 彼女は粗末な上下の服を着て、それ以外何も持っていないようだった。

 元は手入れがされ綺麗だったであろう長い金髪は、今では二目と見れないほど汚れきっている。

 浮浪者と見間違わんばかりのボロ雑巾具合。

 更には腹の音がここぞとばかりに存在を主張し、行き倒れであると訴えている。


 ソレイユだった。


 おそらくオーガバスターギルドへの制裁で素寒貧状態で放り出され、路頭に迷ったところか。

 豪華な装備をしていた全盛期の頃を知っているだけに、今のみすぼらしいその姿は一層哀れに見えた。

 ギルド内部のゴタゴタがあった際もソレイユはギルドマスター寄りのサブマスターという事で批判の槍玉に上げられていたそうだし、この分だと罰金を支払う金を工面するために装備すら売ったんだろうな。或いは身包み引っぺがされたか。

 この様子なら、下手すると数日中に野垂れ死にするかもしれないな……

 まあ、ソレイユとはミラを巡る敵同士だったわけで……俺が気に病む事ではない。

 ソレイユがどうなろうが、俺の知ったこっちゃない。

 ソレイユも、こうなった原因の俺に手を差し伸べられても怒るだろう。

 帰ろう。

 帰ってミラに土産の果物を渡して一緒に食べよう。

 ……はぁ。

「……………………しゃーない」

 よっ、と。

 どうやってマヤさん説得しようかな、などと俺は考えつつソレイユを背負い、屋敷へと帰って行った。







この話でやってみたかった事は

・MMOもの

・一人称

・チート能力

・ストーリーを10万文字程度に収める

でした。


今回で一人称は私には合わないと分かったので、以後はほぼ3人称になると思います。

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