10 ディグルー宮殿-2
ミラは向かう所敵なしだった。
「骨骨骨ー骨よこせー!」
一対一ではかすり傷すら負わず。
「お金お金ー! あ、もう一体みーっけ! うりゃー!」
二、三体同時でも全く危うげも無くスケルトン兵を鋭い短剣の一撃で崩していく。
仮にスケルトン兵の武器がミラに当たっても小さな切り傷ができるくらいで、俺のヒール一つで治ってしまうくらいだ。
うーむ。装備は貧弱だけど、バフのおかげで随分と安定して狩れるな。
いくら俺のバフが強力とはいえ、あくまでバフの上昇率はパーセンテージ。元となる能力値や装備のグレードが低ければ上昇する数値の幅も少なくなる。全基本パラメータをMAXまで数値改ざんしている俺と低レベルなミラとでは、例え同じバフをかけたとしてもその上昇後の能力差はそれこそ桁違いになる。
それでも、上昇値が低いはずのミラが今こうしてスケルトン兵に余裕っていうのは、バフが過保護なまでに豪華すぎるせいなんだろうな。
通常、低レベルの狩場に行くくらいのバッファーだと3,4個のバフがせいぜいなのが、バフ枠上限ギリギリまでのフルバフかけてるし、かけるバフも最高レベルでしか使えないものが含まれている。そりゃ低レベルの狩場なら無双できるわな。
でも、これで安心した。ちゃんと注意を切らさなければ無事、骨を集めて帰れそうだ。
「お兄ちゃん、ほら次いくよっ! 走った走った!」
「ああ。あ、もう少ししたらまたバフが切れるからかけ直すぞ」
「はーい! んー、かれこれ軽く20体以上やっつけちゃったし、もう近くをうろついてる奴はいないかなー? もう少し走って探してみようか」
俺の時間感覚だと、バフが切れるのはあと五分くらいか。なら……
「分かった。ただし、ニ分探してもいなかったらそこで一旦ストップしよう」
「うん、分かったよお兄ちゃん! さ、いこいこ」
しっかし、ミラ張り切ってるな。いつヒャッハーと叫びだしてもおかしくないくらいのテンションだ。
俺は縦横無尽に駆け回るミラについていき、スケルトン兵の足止めや弱体化、ミラの回復とバフ、そして骨を回収するだけで一杯一杯だった。
さて、他にこの近くをうろついているスケルトン兵は……っと。
「あ、気をつけてお兄ちゃん。五体くるよ」
「え? ご、五体?」
「うん。ほらあっち」
低く、緊張を孕んだミラの声がして、その指し示された先を見れば……これまでと違った数の敵が緑の丘の奥から走って近づいて来ていた。
後方に二足歩行するトカゲ、胸部を皮っぽい鎧で覆ったトカゲ男が二体と前方にスケルトン兵が三体……しかもリザードマンは二匹とも弓らしき物を持っている。
……初めてスケルトン兵以外の敵が出てきた。
いや、よく考えてみれば当たり前か。元々この近辺でうろついていたスケルトン兵は侵入者の警戒に当たってたんだし、おそらく異常を察知した奴が部下を引き連れて駆けつけてきたんだろう。
未知の敵に加えて、数も今までとは違う。これは……
「ミラ、どうする。逃げるか?」
「ううん、やるよ。大丈夫、今のあたしとお兄ちゃんならやれるよ。サポートよろしくね」
「わ、分かった」
改めて敵集団を見る。
遠くて小さいから少し分かり難いけど、弓持ち二体と……剣が三体。なら……
「ミラ、スケルトン兵は俺が少しの間封じる。ミラは奥のリザードマンを狙って欲しい。いけるか?」
「うん、分かった。まかせてよ」
リザードマンは水晶封縛で足を封じても弓で攻撃できる。なら俺は近づかないと攻撃できないスケルトン兵の足止めを狙った方がいい。なるべく遠距離からクリスタル・バインドをかける。そうすれば遠くで放置する数十秒の間は二対ニに持ち込める。
魔法発動にかかる時間、そして魔法を使った後に再び同じ魔法を使うために必要な待機時間である再詠唱時間も問題ない。俺の魔法剣は魔法発動速度に特化されているから、最低でも二体は何もさせずに封じられる。もう一体もギリギリ間に合う……と思う。
問題はリザードマンだ。あいつらは弓を持っている。俺達には矢耐性強化のバフをかけているとはいえ、さすがにノーダメージというわけにはいかないだろう。スケルトン兵の剣が当たってもそう大きな傷は負わなかった事からも、いきなり致命傷というのは考え難い。けど、やっぱり当たり所が悪ければ、ミラは……
「もぅ、大丈夫だって。そんな不安そうな顔しないのっ。お兄ちゃんってほんと心配性だね、あはっ」
「そうは言っても、ミラ……」
「心配なーいっ。こういう風に外で狩りをするのって、お兄ちゃんは初めてなんでしょ。だったら先輩のあたしがキチンと守ってあげるから、どんと任せなさいって。ね!」
「……助かる」
「誰だって最初はそんなもんだって。さ、もう時間ないね。そろそろあの距離だと矢も届くよ」
「ミラ、リザードマンが足を止めてスケルトン兵が前に出たらギリギリまで引きつけてくれ。あの五体が固まったままなら、俺が風魔法か精神魔法の恐怖であいつらを引き離す」
風魔法はレベル一から使える初歩中の初歩の攻撃魔法だ。聖戦士クラスだとアンデッドのみ有効な聖属性魔法以外での攻撃魔法スキルはこれしか使えない。
そしてテラーの魔法は相手に恐怖を植え付け、逃げ出させる精神系の魔法。
今までクリスタル・バインドしか使っていなかったけど、この二つの魔法がどこまで通用するのか……大丈夫だと信じたいけど。
「あと、攻撃力二重強化を防御力二重強化に変える。囲まれて攻撃を受ける可能性が高くなるから、ここは防御重視にするぞ」
「あ、うん。分かった」
「じゃあ、グランド・バリア」
グランド・ウェポンとグランド・バリアは上書きし合うためどちらか一方しか掛けられない。今までは敵が少なかったから「やられる前にやれ」の攻撃重視でよかったけど、この状況には合わないと判断。一つだけバフを掛けなおした。
「よしっと……」
「お兄ちゃん!」
風を切る音がした。
矢が二本、空を翔けて来る。速い! 狙いは……やべ、かなり精確だ。このままだと当たりそうだ!
「よし……じゃあミラ、頼んだ! 降臨・風精王!」
「いくよ!」
ミラが飛び出す。
続けて俺も追う。
矢は俺達が今まで立っていたすぐ近くに突き立った。
さぁ、奴らの動きは……!
「お兄ちゃん、バラけたよ!」
リザードマンが足を止めて、スケルトン兵が走って来たか!
「よし、ミラ、一旦スピード緩めて距離このままで矢を避ける事に集中して!」
「うんっ! かんたんかんたーん!」
リザードマンが放ってくる矢は高速で動き回る俺達を捉えられない。
そうしている間にもスケルトン兵三体が近づいて来て……
「いいぞ、クリスタル・バインド!」
狙った地点に魔法が発動し、スケルトン兵一体の下半身が剣山のような水晶に貫かれる。
「ナイスだよ、お兄ちゃん!」
ミラは既に加速していた。みるみるスピードを上げてスケルトン兵らの集団へ、その先のリザードマンらへと向かう。
ソウル・オブ・ジンの効果は二分間だけ。敵を引き離すために数十秒時間を食ったから、まだ一分と少し猶予はある。他のバフもまだ少し余裕がある。最悪でもバフが切れる前にミラと合流しないといけない。
そのためには。
「――クリスタル・バインド!」
二体目、拘束成功!
三体目は――通り過ぎようとしているミラを狙おうとしてる! させない! 間に合え!
「クリスタル・バインドォォォーー!」
三つ目の水晶がミラのすぐ近くまで接近していた最後のスケルトン兵の足元から突き立つ。
だけど、それよりスケルトン兵が剣を振り下ろす方が速かった。
「――べー!」
間一髪。
ミラはその小さな体ですばしっこく剣を潜り抜けていた。その一瞬、小さく舌を出すオマケ付きで。
そうして前を向いて走り去って行った。
「……よかった」
とりあえず一安心……してる場合じゃない!
見れば、ミラはリザードマンらから真正面から次々と射掛けられていた。けど、どれも当たらない。ミラの動きを予測しての偏差射撃をしているようだが、ミラはそれ以上にちょこまかと動き回って矢を避け続けている。
あの子は小さいから矢で当てるのも一苦労しそうだな。
「俺も急がないと」
とりあえずスケルトン兵は放置。今はミラと合流してリザードマンを先に仕留めないと。
クリスタル・バインドの拘束が切れるまで、約一分程度と見ておくとして、ソウル・オブ・ジン以外のバフももうすぐ切れるだろう。なんとしてもバフが消える前に全部片付けないと。
走る。
動けないスケルトン兵を脇目に、黒いローブの裾を翻し真っ直ぐ走る。
「こんのおおおおお!」
前方でミラが叫んだ。
ミラはもう後数歩という距離まで近づいていた。リザードマンらは弓を手放し、慌てるように小さなナイフらしき刃物を取り出し構えた。
その内の一体の真正面からミラが挑みかかろうとしている。そして、もう一体のリザードマンが回りこもうとしているのが見えた。
くそっ、射程距離や狙いは怪しいけど……走りながらやってみるか。
「風弾!」
魔法剣から風が巻き起こった。
狙いは……ミラの隣に回りこもうとしているリザードマン!
頼む、当たってくれ……!
今まで攻撃魔法を使わなかったのは、命中率と誤爆を恐れての事だった。
風は無色でイマイチ分かり辛いけど、真っ直ぐ進んだのはなんとか分かった。
そして目の前の光景に変化が――
「きゃっ!?」
「ギェッ!!」
ミラとその正面にいたリザードマンが共に悲鳴をあげてよろけ、回りこもうとしていたリザードマンが――派手に倒れて転がっていった。
一回転、ニ回転、三回転――
草と土埃を巻き上げながら何度も転がって、止まった。
…………え、マジ?
たぶんウィンド・ブレットは直撃していないはず。あの三者の様子からミラと横のリザードマンとの間、いや、ややミラ側からは離れていたっぽいか? を突っ切ったと思われるんだが……
それでああも吹っ飛ぶのか?
そりゃ確かに俺のステータスはMAXだし、完璧な魔法系バフではないとはいえ、それでもトップクラスのバフをかけている。それに俺の武器の魔法剣は最強ランクで水神や魔神装備を除いた一般武器の基本性能としての魔法の威力も上から二番目だ。
かといって、レベル一でも使える初級魔法でコレか……今後絶対ミラに誤爆しないようにしなくちゃな。
そんな事を考えながら一歩踏み込み、それで一気にミラに追いつく。
そして目の前にはまだたたらを踏んでいるリザードマンが。
「このっ!」
「えーいっ!」
魔法剣をフルスイング。
同時に下でミラも短剣で切りつけていた。
魔法剣はリザードマンの右肩から左胸まで食い込み、ミラの短剣は腰を切り裂いていた。
真っ赤な血が、溢れた。
――初めて『生きる肉』を斬った。
「……」
手応えはあまり無かった。皮っぽい防具ごと、まさに豆腐を斬るかのように呆気なかった。
魔法剣に付いた赤に視線が吸い寄せられる。けれど、それもすぐただの色にしか見えなくなった。
感慨は何も沸き起こらない。
感じるべき事は何もない。
今はただ、ミラを助ける事だけを考え――
「よし、仕留めた!」
「へぇ、お兄ちゃんやるぅ!」
崩れ落ちたリザードマンはピクピクと動くだけで、もう脅威はないだろう。
「ミラ、次! まだ――」
「そっちのリザードマンはあたしに任せて! お兄ちゃんはあっちを!」
振り返る。
そこにはまだクリスタル・バインドに捕らわれたままのスケルトン兵ら三体がいる。
こいつらももう少しで拘束から解放される。その前に改めてクリスタル・バインドを掛けなおしていくか、風魔法で遠距離から攻撃するか決めないといけない。
残りもう一体のリザードマンはといえば、今まさに立ち上がろうとしている所だった。
軽い脳震盪でも起こしたのか、トカゲまんまの頭を振っている。
そこへ銀髪をわずかに赤で染めたミラが突っ込んで行った。
「よし、距離はまだある。ここは――ウィンド・ブレット!」
風が俺の顔を撫で、ローブをはためかせる。
魔法は真っ直ぐ進み、スケルトン兵を撃った。剥き出しの肋骨を中心に両腕と頭がバラバラになる。そして、一個の骨に戻った。
まず一体!
「もういっちょ、ウィンド・ブレット!」
二発目。けれど急いでて狙いが甘かったのか、スケルトン兵は無傷。
「くそっ」
一旦ミラの様子を見に、振り返る。
そこではちょうどあの子がリザードマンの体に突き立てた短剣を抜いた所だった。
良かった。あっちは大丈夫そうだな。となれば後は。
「こっちを片付ければ終わりか。ウィンド・ブレット! ウィンド・ブレットッ!」
連発。まず一体に集中攻撃を浴びせる。
その甲斐あって、二体目もただの骨に戻った。
そして。
「げっ。時間切れか」
最後の一体が水晶の拘束から解放された。その空洞の暗い眼窩がこっちをハッキリと見据えた。そしてカクカク走ってきた。
骨だけで軽いからなのか知らないけれど、中々速い。それでも俺達よりは明らかに遅いけど。
「ならもう一度だ! クリスタル・バインド! クリスタル・バインド!」
う……なんか息切れが……もしかしてMP使いすぎたか?
ちょっと眩暈がしたけど、その成果はあった。最後のスケルトン兵は十歩も走らない内に再び水晶に捕らわれていた。
「よーし、なんとかなったかな。これで終わりだ」
急いで倒して、バフを掛けなおそう。
あー、結構魔法使ったけどリバフ分のMP足りるかなぁ……後で空中浮いてる黒い球体開いて残りMPを確認しておこう。
「せーのっ」
一歩も動けないスケルトン兵へ近づくと、上半身だけで剣をやたらめったら振り回してきた。怖ぇよ。
真正面からは危なかったので、後ろに回って魔法剣で力いっぱい殴る。少しでもMP節約しないとな。
それでこの戦闘は全て終わった。
「ふぅ……なんとかなったな」
しかし今後の事を考えると、ちゃんと斬る練習した方がいいかなぁ。魔法ばっかに頼ってMP浪費して、肝心のバフをするMPが無くなるっていうのは大問題だし。剣の扱い方は今後の課題だな。
「お兄ちゃん、お疲れ! えっへっへー。格好良かったよー。このこのぉ」
「あ、ミラ……って、こ、こら。そんなにひっつくなって」
「あ、照れてる照れてるー。やー、お兄ちゃんかっわいいー」
「あーもー、いいからリバフするぞ。もうマジでバフが切れる。とりあえず生命力向上とマナ力向上だけでもかけ直すぞ。ほら、そこでじっとする」
「ちぇー」
真っ先にミラと俺とに二つバフを掛け直す。
それから一度側に浮いている黒い球体を二度突つき、ステータス画面を表示させる。
MPは……1、2割程度減ってるか。まあ二人分だけのバフならこれでも大丈夫だな。
「よし、じゃあソウル・オブ・ジン以外のバフを掛けなおしていくぞ」
「うん、お願いね」
そして最初にかけたバフと同じものをもう一度掛け直す。グランド・バリアもウェポンに戻した。
「ふー。これで終わり。で、ミラ。大きなケガはないよな」
「うんっ! お兄ちゃんがもー大活躍だったから、このとーりピンピンしてるよっ」
「そっか……それはよかった。じゃあ、ヒール。これでよしっと」
油断大敵。念のため軽くヒールをかけて、ようやく俺も一先ず肩の荷を降ろせた。
なんとかバフ切れる前に戦闘を終わらせられてほんと良かった。
「あ、骨拾って来るねー。あっちのリザードマンは弓矢と防具を引っぺがしちゃおう」
……うーん、もはやどっちが賊か分からんな。
まあ金がない以上、そんな贅沢は言ってられんか。リサイクルだと思う事にしよう。
「これで数日は暮らしていけるよ。後で買い取ってくれるお店とか、やり方教えてあげるね」
「ああ、ぜひ」
死んだリザードマンから装備を脱がす手伝いを終えた後、ちょっと試しに黒い球体の自分のステータスをいじってみる。
「さっきから何もない空中で指動かして何してるの、お兄ちゃん?」
「んー……いや、ちょっとした『魔法』の実験だよ。上手くいかないけど」
やっぱりダメかぁ。
戦闘中にステータスをいじってクラスをバッファーからアタッカーに変えようと思ってみたけど、スキルやパラメータの再設定に時間がかかり過ぎる。一度切り替えたらまた全部のパラメータをMAXに引き上げたり、軽く十を超えるスキルを有効にしていかないといけないからなぁ。
今落ち着いている状況でも一つ一つ設定していくのに時間かかるっていうのに、敵も自分も動く戦闘中じゃ尚更クラス切り替えはできそうにないな。
まあミラの降臨・風精王を二分毎に掛けなおさないといけないから、やっぱり俺はバッファーのままいくしかないな。俺だけだったら、ソウル・オブ・ジンのバフデータ数値は覚えたし、この黒い球体の数値改ざん能力で更新し続ければいいだけなんだけどな。
そんなこんなで戦利品抱えてホクホク顔のミラ。
「ねえ、まだ時間あるし、もうちょっとこの辺りでスケルトン兵を探して……」
大きな布袋に皮の胸当てを突っ込んで顔を上げたミラが笑顔でそう言いかけて、止まった。
笑顔が引きつっていた。
「ん、何だ?」
振り返る。
なだらかな斜面、少し離れたその上にいたのはズラリと整列したリザードマンとスケルトン兵の群れ。
ざっと見た感じ、100体近くいる。
「……」
「……」
今倒したばかりの奴が装備していた皮の鎧なんて目じゃないくらい、ガッチガチの豪華そうな装備に身を包んだリザードマン達。
やばい……あれ絶対本隊とか精鋭部隊とかそんなやつだ。
そして、その中でも一際目立つ一体のリザードマン。
仰々しい杖に、キンキラキンの宝石をいくつもぶら下げ、一番奥で周りに守られながら偉そうに突っ立っている。
そいつがすっげえ睨んでいた。
「あ、お兄ちゃん。あの奥の中心にいるのがディグルー宮殿に居座ってる連中のサブリーダーだよ。副官ってやつ」
「そっかー」
そいつだけではない、他のリザードマンも今にも暴発しそうなくらい興奮しているのが遠目からでも分かった。歯をむき出しにしてめっちゃ威嚇してきてる。
サブリーダーとやらのリザードマンが叫んだ。
「攻撃力強化!」
周辺にいた全てのリザードマン、スケルトン兵に同時に光の粉が降りかかる。バフだ。
「げっ、あのリザードマン、バッファーだ。しかも僧兵系かよ!」
ウォーモンクはもう一つのバッファークラスだ。俺のクルセイダークラスが個人単位で一つ一つバフをかけるクラスに対して、ウォーモンクはパーティ及びギルド単位でバフをかける事ができる。ウォーモンクのデメリットは個人単位での調節ができないため、アタッカー職用のバフも本来不要である魔法職にかかってしまったり、その逆もあったりで余計なバフ枠を食うっていうのがある。
けれど……フルパーティや大勢のギルドメンバーがいる時など、バフを掛ける人数が多い時はこうして時間短縮できるというメリットがある。
「防御力強化、魔法防御力強化、攻撃速度強化、移動速度強化、被ダメージの与ダメージ転換――!」
次々とバフが掛けられていく。
やばいやばいやばい――!!
「ミ、ミラ、逃げろーーーーーーーーーー!!」
「きゃーーーーーーーーー!」
まさに脱兎!
ヒュンヒュンヒュンヒュン。
後ろからそんな矢が風を切るような音がしてきた。恐る恐る後ろを振り仰ぐと……まさに矢の雨が空へと昇っていく所だった。
あの数、まともに食らったらヤバイ! せめてサーコートを頭から被ってフード代わりに……って、ミラが無防備すぎる!
「ミ、ミ、ミラァァァァ! こっち!」
「きゃっ!? ちょ、お、お兄ちゃん!?」
俺と違ってアミュレット系だけで、ろくな防具がないミラはこのままじゃヤバイ、と俺より遅いミラを乱暴に俺の胸元に抱え上げる。お姫様抱っことか気にしてる場合じゃねえ! こっちの方が速い!
「ググググググランド・バリアーーーー!」
グランド・ウェポンからバリアに切り替える。ウェポンなんて逃げるのに何の役にも立たない!
「いてっ、いててっ!」
ついに矢が降り注いできた。
だがさすが最強ランクのローブ。まったく矢を通さない。生地頑丈すぎぃ! ちょっとチクチクするけどな!
「なんであたし達みたいな弱小にサブリーダーが直々に出てくるのよーーーー!」
「そりゃ、周辺警戒している手駒を根絶やしにする勢いで狩ってたら、ボス達も怒るわな!」
「えーい、男のくせに度量が小さい!」
「んな事言ってる場合か! とにかく逃げろーーーー!」
「お、お兄ちゃん、後ろ! 後ろ! たくさん追ってきてるーーーー!」
「捕まってたまるかあああああ!」
そんな感じで俺とミラはスタコラ退散した。




