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第9話 ダンジョンキーパーとユニークモンスター・前

 「あれ?今日はゴブ朗さん休みですか?」


 朝、出勤するとゴブ朗さんの姿が見えなかった。

 はて、昨日の仕事終わりの連絡事項じゃそんな話は聞いてなかったけど、何か急用でもあったんだろうか。


 「あぁ、ゴブ朗なら今日は献血に行ってるよ」


 首を傾げていると、ミノ吉さんが俺の疑問に答えてくれた。


 「献血?」

 「そういえば、平汰は献血した事なかったっけ?」


 と、作業着に着替えながらトン兵衛さん。


 「そういえば、献血はした事ないですねぇ」


 日本じもとでも今まで一度も献血した事なかったなぁ……。

 会社によっては献血車が最寄りの場所に来たときに行かせる所もあると聞くけど、そんな所には勤めてなかったし。


 「でも、この辺に病院ってありましたっけ?」

 「ん、病院かい?」


 駅前商店街には大抵のお店が揃っているけど、病院は見かけた事が無い。

 離れた場所にあるんだろうかと思っていると、想定外の事を聞かれてしまった。


 「平汰さん!病院っていうのは何ですか!?」

 「え?そりゃ……病気になったり怪我した時に行く所だけど……こっちには無いの?」


 コボ美ちゃんが尻尾をぱたぱたさせながら尋ねて来た事は意外な事だった。病院を知らないって事はこちらには無いのかな?


 「へぇ……治療院と似たような役割をしている所だねぇ。平汰君の地元だと治療院を病院って言うのかな?」

 

 と、ミノ吉さんの言葉にピンと来る。成る程、こっちじゃ治療院って言うのかぁ。

 心の中で頷いて納得していると更に想定外の質問が来た。


 「それで、何で献血と聞いて治療院が出てくるんだ?」

 「え?そりゃ、輸血で使うでしょう?」


 俺の言葉に場がシーンと静まる。


 「あれ?」

 「そういえば、平汰君には献血の義務がなかったねぇ」

 「そういえばそうだった。平汰が献血に行っても養殖に使えないもんな」

 「私はここに入った時に献血しましたよ!」


 3人の言葉に俺は更に首を傾げる。どうも献血の意味が根本的に違う様だ。


 「えーと……献血の事、詳しく教えて下さい」


 俺は更に首を傾げて首を痛める前に、正解を皆に尋ねるのであった。



◆◇◆◇



 基本的に、ダンジョン内で魔物モンスターが倒された場合、そのフロア内の別の場所で同種の魔物モンスターが生まれる。

 生まれるといっても、ゲームの様に何もない空間から自動的に発生ポップする訳でなく、魔法炉で生み出された魔物モンスターが職員用通路から出てくる訳だが。


 魔法炉は魔物モンスターが減れば昼夜を問わずに魔物モンスターを生み出すが、その際に必要になるのが魔物モンスター魔力いでんしである。

 魔物モンスター魔力いでんしを元に魔法炉は魔物モンスターを複製し、ダンジョン内へと放っているのだ。


 しかし、魔力いでんしは使用する度に劣化していき、生み出される魔物モンスターの質も落ちてしまうため、定期的に魔力いでんしを魔法炉に提供しなければならないらしい。


 「それを俺達は『献血』って呼んでる訳だ」

 「なるほど……」


 ちなみに、魔法炉で造られた魔物モンスターは魔力の塊であり、魔物モンスターは倒されると体内に溜め込んだ魔力を周囲に発散する。倒した冒険者側はこれを無意識に取り込んでいるらしい。

 冒険者の体に貯まった魔力量が一定値を越えると身体強化が行われる。これが存在強化レベルアップの仕組みだとか。


 そして、残った魔物モンスターの残骸を回収するのも俺達の業務のうちなんだけど、魔力が抜けた残骸は抜け殻みたいなもので、実際は放っておいても良かったりする。

 放っておいてもスライムが食べて処分してくれるので、回収するかしないかは現場の判断で良いのだ。

 しかし、抜け殻といっても抜け殻自体に少量の魔力が残っているので回収して魔法炉に放り込めばリサイクルになるのでウチのパーティ魔法マジックリアカーに余裕がある限りはなるべく回収する様にしている。


 「あれ?てことはスライムも誰かの献血で作られた魔物モンスターなんですか?」


 床に染み込んだ血糊を魔法マジックデッキブラシでこそぎ落としながら俺は尋ねる。


 「スライムは複製された魔物モンスターじゃないよ。ダンジョンとか魔力が満ちる場所に自然発生する生き物で、養殖モノの食料になってるんだよねぇ」

 「まぁ、スライムが減りすぎると直接養殖モノに魔力エサを与えてやらないといけないから、人工的に増やす事もあるけどな」

 「はー……なるほど、スライムを基にした生態系ができてるんですねぇ」


 俺は感心しながら部屋の隅で水溜まりになって震えているスライムを見る。

 彼(?)はこちらの視線を気にする事なくぷるぷる震えていた。


 「そういえば、ゴブ朗さん達が何度か魔物モンスターを養殖モノって言ってたの何でだろうって思ってましたけど、もしかして魔力いでんしを使って複製しているからですか?」

 「そうなるねぇ。僕達の魔力いでんしを基にしていると言っても、理性が無くて本能だけで生きているモノだからね」


 成る程。冒険者おきゃくさまをもてなす着ぐるみコンパニオンに中の人は居ませんという訳か。

 そのための養殖モノなんだろう。確かに、いちいち冒険者に殺されてしまっては魔物コンパニオンも絶滅してしまうし、非人道的だよね。ブラック企業も真っ青だ。

 

 ちなみに、階層ごとに出現する養殖モノの種類は、その階層を担当している魔物しゃいんから採られた魔力いでんしで作られているらしい。

 なので、実績を積んで昇進クラスアップしていき、種族が変わっていくとそれに応じた階層に配属される様で、単純に深い階層じょうそうぶに配属されるには強力な種族やくしょく昇進クラスアップするしか無いという訳だ。


 そんな風に、俺が質問をしながらもいつもの巡回作業は続いていく。

 今日はゴブ朗さんが居ないため俺の質問に答えてくれるミノ吉さんとトン兵衛さんだったけど、彼らは彼らで色々な事を知ってて頼りになる。

 

 いつか後輩が出来た時に、きちんと教えることができるよう忘れずに覚えておこうと、コボ美ちゃんと頷き合うのであった。



◆◇◆◇



 次の日、ゴブ朗さんはいつも通り出勤してきていた。


 「おはようございます、ゴブ朗さん。昨日は献血だったんですね」

 「おはよう、平汰。昨日は何か変わった事はなかったか?」

 「いえ、いつも通りでしたよ」

 「そうだね、平汰君に献血の事を教えながらだったけど特に問題なかったねぇ」


 ミノ吉さんの報告に頷くゴブ朗さん。


 「そうか、何も問題なければいいんだ。平汰もコボ美も仕事に慣れて一人前になってきたという事かな?」


 ゴブ朗さんの言葉に俺は頬を掻き、コボ美ちゃんは尻尾をぱたぱたさせる。

 業務開始の準備が整うと、いつも通り巡回に入る。俺は作業をしながら、昨日聞きそびれていた事を聞くことにした。


 「そういえば、献血ってどうやって魔力いでんしを採ってるんですか?」

 「ああ、細い管を腕に刺して血を抜くんだ。いつもの事とはいえ、あの血液まりょくを抜かれる感覚は慣れなくてなぁ」


 珍しくぼやくように言うゴブ朗さん。それに他の皆が同調する。


 「確かに、あれは何度されても慣れないねぇ」

 「俺も正直言って苦手っすね」

 「私も!あんなに太い管を刺されるとは思いませんでした!」


 意外と日本じもとでの献血と同じ方法で魔力いでんしを抜いているのに驚いた。まぁ、血液イコール魔力って考え方はよくあるしな。それにしても献血大不評である。どのくらい太い管を使うのかは分からないけど、話を聞く限り想像するだけで貧血になりそうだ。

 何でも、魔力いでんしを抜かれた後は暫く動けないらしい。意外とブラックだぞ、ウチの会社ダンジョン……


 「そういえば、何で俺には献血が無いんですかね?」

 「そりゃあ、このダンジョンの魔物モンスターに人族が居ないからだろ?」


 トン兵衛さんの言う通りだった。あれ、でも面接の時に居た四天王じゅうやくに和服美人さんが居たような。


 「あれ?でも人型の魔物コンパニオンって居ますよね」

 「あぁ、鬼族とか何種類かは居るが、平汰の様な人族は居ないぞ」


 一見、同じ人間っぽい見た目でも中身が違うようだ。


 「まぁ、献血しなくて済むならラッキーじゃないか。ありゃ辛いぞ?」

 「脅かさないで下さいよトン兵衛さん……」


 冷や汗を掻きつつ巡回を続ける。魔物コンパニオンにもすれ違うが、ダンジョン証を付けているため襲いかかられる事は無い。


 (今すれ違ったゴブリンもゴブ朗さんの魔力いでんしで造られているのかなぁ……)


 などと思いながら、午前の巡回を続けるのだった。



◆◇◆◇



 「そういえば、今回は献血するまでの期間が短いんじゃないかい?」

 「そうだな、イキのいい冒険者が入ってきたらしい。新米とは思えない勢いで魔物モンスターを倒している様だ」


 昼食時、愛妻弁当を食べながらゴブ朗さんとミノ吉さんが話している。


 「トン兵衛さん、献血の時期って決まってるんじゃないですか?」

 「いや?基本的には提供した魔力いでんしが劣化しすぎて魔物モンスターが造れなくなったらだな。1人の魔力いでんしからは1体の魔物モンスターしか作れないから、それが倒される度に造り直すんだが段々劣化していくらしい。劣化し切ったら献血で新しく魔力いでんしを採り直すみたいだぜ」

 「素になる固体の能力が高いと生存率が高いんで献血の間隔が長くなるらしいです!……私のはあっさりやられちゃいそうだから、そう遠くないうちにまた献血に行かないと行かないといけなくなると思いますけど……」

 「まぁ、新入社員のうちは誰でも間隔が短いものさ。仕事に慣れていけば自然と能力が上がるから間隔も長くなっていくもんだ」


 きゅーんと尻尾を股に挟みながらご飯を食べるコボ美ちゃんの頭を撫でて慰めつつ、俺は清掃や整備で戦闘向けの能力がどうやって上がるんだろうなぁと内心不思議に思うのだった。



◆◇◆◇



 午後もいつも通り巡回業務を続ける。

 今日はスライム黄ばみに遭遇するのが多いなぁと思いながら、ダンジョン魔法マジックリンで綺麗に掃除をしていく。


 「そういえば、俺達が担当している階層ってミノタウロスは出ませんよね?ミノ吉さんって本当は別階層の担当になるんじゃ?」

 「あはは、平汰君は結構あっさり聞きにくい事を聞く性格なんだねぇ」

 「あ……何か失礼な事聞いてすみません」


 しまった、何で場違いな所にお前が居るんだみたいな言い方になってしまった。気をつけないと。


 「いいんだよ、疑問点をそのままにしない事はいい習慣だしねぇ。僕みたいに配置階層と違う階層に配属されるのは珍しくないんだよ。僕の様な魔法技術者の資格持ちは各階層に決められた定数を置かないといけないから、運良くゴブ朗と同じパーティになれたという訳だねぇ。それに、僕の魔力を元にした魔物モンスターもちゃんと別階層に配属されてるから特別って訳じゃないんだ」


 成る程……人事配置は色々あるからなぁ……。

 それにしても資格かぁ……ミノ吉さんはトラップ等の仕組みとか詳しいなと思ってたけど、専門の資格がちゃんとあるらしい。


 その辺の事を聞きながら巡回を続けていると、前方からゴブリンを中心とした魔物コンパニオンの集団がこちらに向かってやってきた。

 昨日今日と聞いた話の後だと普段特に意識していない魔物コンパニオンも違った風に見える。あの魔物コンパニオン達も元は誰なんだろうと思いながらすれ違おうとすると、魔物コンパニオンから声を掛けられた。


 「よぉ、ゴブ朗」

 「お前……ゴブ三郎か!」


 あれ?魔力いでんしを素に養殖された魔物コンパニオンって、理性が無くて本能のまま人間を襲うんじゃなかったっけ?しかもゴブ朗さんと知り合い!?

 はて?と首を傾げながら、俺は何だか剣呑な雰囲気のゴブ朗さんとゴブ三郎さんを眺めるのだった。


また前後編になってしまったので明日も更新します。


魔物のHPが微妙に違うRPGってありますよね。何でかなーと不思議に思ってましたが考えてみればHPが固定で同数値って不自然ですよね。

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