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第8話 ダンジョンキーパーのアフター5・その2

 「それじゃあ、僕達はコボ美ちゃんを送っていくから」

 「ええ、俺と平汰は別の店でもうちょっと飲んでから帰りますので」


 『木彫りの木馬亭』の前でコボ美ちゃんを背負ったミノ吉さんとゴブ朗さんと別れる。

 時間は9時過ぎだ。あんまり遅くなると家族が心配するゴブ朗さん達とはここから別行動だ。


 「今日はどうもありがとうございました。とても楽しかったです」

 「あぁ、またこうやって飲む機会を作ろうと思っているから、また飲もうな」

 「ええ、また飲みましょう」

 

 俺はゴブ朗さん達に頭を下げる。

 コボ美ちゃん以外は皆赤い顔をしているが、前後不覚になる程酔っている人は居ない。

 

 「それじゃあ、また休み明けにねぇ」

 「あまり羽目を外して飲みすぎるなよ?」

 「「うぃっす。お疲れ様でした」」


 トン兵衛さんと同時に挨拶すると、ゴブ朗さんとミノ吉さんが駅方面に向かって去っていく。2人ともしっかりした足取りだった。魔物って全体的に酒に強いんだろうか。

 

 「さて、それじゃあ俺達も行くとするか」

 「はい!」


 俺の元気の良い返事が夜の街に響き、俺はトン兵衛さんと連れ立って歩き始める。ここから先は女や女房子供の居る奴等はお断りの男の世界なのだった。



◆◇◆◇



 「所で、これから行く店ってどんな店なんですか?」

 「ん?だから綺麗なお姉ちゃんとお酒が飲めるお店だって」

 

 夜の街をトン兵衛さんと連れ立って歩く。目的の店に向かって歩いていると段々とそれっぽい店が立ち並ぶ区画に入ってきていた。

 

 「いえ、どういうお姉さんの居る店なのかなぁって」


 トン兵衛さんの言葉に俺は再度確認する。何しろ俺は人間でトン兵衛さんはオークだ。オークであるトン兵衛さんとは美醜感覚が異なる可能性がある。

 ホイホイ付いていった先のお店が、オークのお姉さんのお店とかだった場合のダメージは計り知れない。

 

 いや、別にオークの女性を貶めている訳じゃないけど、俺だって人間の男である。できれば人間に近い種族のお姉さんが居る店に行きたい。

 そう、例えばエルフとかエルフとかエルフとかエロフとか。後、ドワーフの女性が最近の流行りに合わせた合法ロリならドワーフの女性もいいなぉあ……いや、ケモ度の低いケモミミお姉さんも捨てがたい。

 そんな俺の煩悩が伝わったのか、トン兵衛さんが良い笑顔で答えてくれた。


 「大丈夫だ。俺の知り合いの店でな、ちゃんと人族も満足できる店だぞ。それよりも財布は大丈夫か?」

 「トン兵衛さん。今日は給料日だったので抜かりはありませんよ」


 その言葉に俺は安堵する。そして親指をサムズアップ。トン兵衛さんもサムズアップ。

 最早俺達の間に種族の垣根は無く、意気揚々とトン兵衛さんの知り合いの経営するという店に向かうのだった。



◆◇◆◇



 『深緑の憩い亭』、それがトン兵衛さんに連れて来られた店だ。知り合いの経営する店で、よく利用している店らしい。

 中に入ると、バーカウンターと奥にテーブルが並んでいる。店の中は以外とシックな感じで落ち着いた内装。

 俺達以外の客も居るが、大声で喋る様な人は居らず、全体的に何というか『大人しい』店だった。

 トン兵衛さんは店に入ると慣れた様子でカウンターに居るエルフの女性に声を掛けていた。

 エルフですよエルフ。美人で耳長くて白いから間違いない。


 「よう、エイラ」

 「あら、トン兵衛いらっしゃい。久々じゃないの」


 長い金髪を結い上げて、ウェイター風の服を着たエルフ女性と気さくに話すトン兵衛さん。知り合いの店というのは本当だった様だ。

 トン兵衛さんの後ろで2人のやりとりを眺めていると、エイラと呼ばれたエルフ女性が俺に気付く。


 「トン兵衛、この子は?」

 「あぁ、俺の同僚だ。この前中途で入った奴でな、一緒にパーティ組んで仕事してる」

 「あらまぁ」

 「初めまして、只野平汰といいます」


 口に手を充てて軽く驚くエイラさん。何気ない仕草だけど、何というか色気のある仕草だった。


 (綺麗な金髪だなー。あと、やっぱりエルフって凄い美人)


 駅前商店街ではあまりエルフを見かけた事が無かったため、思わずじろじろとエイラさんを見つめてしまう。

 そんな失礼な俺の仕草も気にしない風にエイラさんが話しかけてくる。


 「こちらこそ初めまして。エイラよ。ゆっくり楽しんでいってね」

 「あ、はい。よろしくお願いします」


 思わずぺこりと頭を下げる俺に、エイラさんはくすくすと微笑む。


 (あー……こういう店でする態度じゃないんだろうなぁ)


 正直いって、俺はこういうお姉ちゃんと飲む店に入った事がない。こういうお店にお金を使う程給料を貰ってなかったし、就いた職場が悉く倒産して職を転々としていたからだ。

 こういうお店に来ようという気になれるくらい、中途採用でも給料をくれるベルリック地下大迷宮様々である。


 「平汰はあまり女慣れてないみたいでな、その辺を酌んでくれる子を頼む」

 「そうなの?それなら……チェリル、メイリィ!」


 俺の事情を察しているトン兵衛さんがフォローしてくれる。おお……こんな所でも頼もしい先輩が居てなんて俺は運がいいんだろう。

 そんな事を思っていると、間もなくエイラさんが呼んだお姉さんがやって来た……けど1人はお姉さんというんだろうか?


 「へー!人族だ!珍しいなぁ!」

 「こら、チェリル。あまりお客様の目の前を飛び回らないの」


 やって来たのは小柄な猫族と妖精族の女性だった。

 俺が珍しいのか妖精族の人は俺の目の前をくるくる飛び回る。


 (おお……妖精。マジ妖精だ!しかも猫耳娘まで!)


 内心はしゃぎすぎて目を白黒させていると、シュパッと擬音が聞こえるくらい素早い動きで妖精を捕まえる猫族の女性。そのままぺこりとお辞儀をしてくる。


 「いらっしゃいませ、本日は私、猫族のメイリィと花妖精フラワーフェアリーのチェリルがお客様のお相手をさせて頂きます。お客様が楽しい時間を過ごして頂けるよう精一杯勤めさせて頂きますね」


 捕まえられた妖精のチェリルさんはメイリィさんの手の中で暴れているが、それを一向に意に介さず綺麗なお辞儀をしてくるメイリィさん。小柄な彼女が着ているのは白と黒のメイド服。しかもアキバ系に近いミニスカでフリフリな奴である。白いニーソと絶対領域が眩しい。


 「よろしくね!人族のおにーさん!」


 ようやくメイリィさんの手から逃れたチェリルさんは、細かい刺繍がされた白いワンピースを着ていた。

 目の前を飛び回るので色々と見えそうで危うい。本人は全く気にしてない様だけど。


 「それでは、お席にご案内させていただきます」


 と言って俺の手を引くメイリィさん。チェリルさんはいつの間にか俺の左肩に腰掛けてにこにこしている。

 おぉ……妖精を肩に乗せるとかマジでファンタジーである。手を引かれるまま歩こうとしてトン兵衛さんがカウンターから動かない事に気付いた。


 「あれ?トン兵衛さんもいかないんですか?」

 「あぁ、俺はこっちでエイラに相手して貰うから。平汰は平汰で楽しんでこい」

 「え、マジですか?」


 どうしよう、俺こういう店初めてなんでけど?女性相手の喋りなんて得意じゃないんですけど?こういうの得意そうなトン兵衛さんが居るから着いてきたのに!


 「まー、何事も経験だぞ平汰~」


 いつの間に注文したのか、エイラさんがグラスに酒を注ぐ横でトン兵衛さんはサムズアップ。

 何とも軽い応援である。

 結局俺はメイリィさんに手を引かれるまま奥のボックス席へ連れていかれるのだった。



◆◇◆◇



 店の奥は円形テーブルとソファが置かれて簡単な仕切りがされており、聞きかじっただけだが俺の世界じもととよく似ている造りをしていた。こういう店は世界が違っても似るものらしい。

 まぁ、まんま白○屋な造りの居酒屋がある時点で驚くような事じゃないか。

 案内される間、他のボックス席の傍を通るが中からは楽しそうに会話する様子が漏れてきていた。


 (うーむ、果たして上手く喋れるかどうか……)


 元々、地元にほんで働いていた時も女っ気の少ない職場ばかりだったし、似た年齢の女性社員が居てもあまり積極的に話はしなかった俺の会話スキルなぞ押して知るべしである。


 (まー、彼女達もプロだろうし、なんとかなるだろー)


 酒の入った頭ではあんまり難しい事は考えられないのである。俺は半ば思考放棄しながら案内されたボックス席のソファに腰掛けるのだった。



◆◇◆◇



 「へー、おにーさん別世界から来てるんだ!」

 「人族がベルリック地下大迷宮で働くなんて珍しいと思ったら、そういう理由があったんですね」


 上手く会話ができるか不安でしたがなんとかなりました。

 というか、彼女達が上手かった。

 好奇心旺盛なチェリルさんが色々と質問や話題を振り、それに答えるとメイリィさんは素直に聞き、相槌を打ってくれる。チェリルさんが聞き出し役で、メイリィさんが聞き役。上手い事役割分担がされている。


 人族なのが珍しいのか、世界間通勤をしているのが珍しいのか、彼女達は俺の世界じもとの話題に興味津々で色々な事を聞かれた。科学技術とか社会構成等はよく解らないのかあまり興味が無い様だったけど、食べ物、特にお菓子関係の話題の食いつきが凄かった。

 世界が違っても、女の子が甘いもの好きなのは変わらないらしい。


 「それでそれで?他にはどんなお菓子があるの?」

 「そうだなぁ……」


 花妖精フラワーフェアリーであるチェリルさんは特にお菓子の話題に興味津々だった。

 メイリィさんはにこにこ笑ってお酌をしてくれながら話を聞いている。猫耳がぴこぴこ動いて可愛い。というか段々と座る距離を詰めてくるのだから体が密着しそうで、いい匂いがして酔ってなくてもくらくらしそうな程だ。

 

 「へぇ!お豆さんで甘い物作れるんだ!」

 「その、『あんこ』というの、どういう味がするんでしょうか……一度食べてみたいですね」


 お菓子の話題の中でも特に食いつきが良かったのは和菓子だった。確かにケーキ等の洋菓子類は駅前商店街でも見かけたけど、和菓子を扱っている店は無かった。

 和菓子に使えるような食材がこちらには無いのだろう、職場の控え室用のお茶受けに和菓子を持っていったら受けるかもなどと思いながら、目の前をくるくる飛んでいるチェリルさんを眺めていると、彼女はすっかり定位置になった肩に座り、ぺたーっと首筋に抱きついてくる。


 「んんー、おにーさんからいっぱい甘い物のお話聞いてたら、なんだか甘い物が食べたくなってきちゃった……ね、何か頼んでいーい?」


 と、甘い声でおねだりしてきた。しかも、耳元に顔を寄せるというより頭ごと寄せる様にして囁くのだからたまったものじゃない。

 ちらりと、メイリィさんを見ると彼女も何か期待した様な顔。

 確か、付いたお客が色々と注文すればする程、彼女達の手当になるんだっけ。今の所値段安めのワインを注文してちびちび飲んでただけだし、何か摘みたい感じだ。

 

 「うん、何を頼みたいの?」


 と、いうとチェリルさんはぱっと顔を輝かせる。


 「えとね!妖樹蜂蜜酒がのみたい!」

 「妖樹蜂蜜酒?」


 蜂蜜酒の一種なんだろうけど、妖樹とはまた怪しげな。俺が首を傾げているとメイリィさんがどんなものか教えてくれた。


 「妖樹蜂蜜酒はフラワートレントから採れる蜂蜜を使ったお酒なんですよ。とても飲みやすくて女性からも人気のあるお酒なんです」

 「そうなの!とーっても甘くて美味しいんだよ!」

 「へぇ……それじゃあ頼んでみようかな。メイリィさんは何か頼みたいものある?」

 「あら、いいんですか?」

 「うん、メイリィさんの好きなものも知りたいな」

 「あら、お上手。本当にこういうお店に来るのは初めてなの?」

 「ええ、本当ですよ?メイリィさんが好きなものが何か摘めるものだと俺としてはうれしいですね」

 「あらあら、それじゃあ私の好きなものはお酒のツマミという事にしましょうか」


 暫くして妖樹蜂蜜酒とつまみの盛り合わせが届いたのでメイリィさんに酌をされて早速飲んでみる。


 「うん、美味い」


 素直に感想が出た。蜂蜜酒なんて初めて飲んだけど、これはかなりいいお酒なんじゃないだろうか。


 「えへへ~、そうでしょ~?私これが大好きなの!」


 チェリルさんは好きなお酒が飲めてご満悦。小さなコップを手にくるくる踊り回っている。

 メイリィさんも美味しそうに飲んでいる所を見ると、好きなお酒の様で喜んでくれて何より。

 

 「そういえば……」


 空になった杯にメイリィさんがお酌をしてくれる際にすっと体を寄せてきて、耳元で囁いてくる。

 香水とは違った自然な感じの甘い香りが漂ってきてくらくらしそうになりながら続きを聞く。


 「私の好きなものですけど……実はお酒のツマミじゃなくて和菓子が好きなんですよ?」

 「へ?」


 思わずメイリィさんの顔を見返してしまう。間近で見つめ合う形になってしまい、和菓子の理由を聞く前に硬直してしまった。


 (うわー、睫長いなー)


 などと思っている間にメイリィさんはにこり、と微笑んで注いだ杯を勧めてくる。

 勧められるまま蜂蜜酒を飲んでいると、チェリルさんが目の前に浮かんでいた。酔っているのか顔は真っ赤だ。


 「ねぇねぇ!私もおにーさんにお酌してあげるね!」

 「え、チェリルさんが?」


 この小さな体でどうするんだろう?と首を傾げると、チェリルさんはくすくすと楽しそうに笑う。


 「そう!私の好きなもの注文してくれたから、おにーさんにはサービスしちゃうよ!」


 と、言うが早いがチェリルさんの体が光ったかと思うと、急に膝上に重さを感じた。

 急な光に瞑っていた目を開くとそこには人間サイズに大きくなったチェリルさんが俺の膝上に乗っていた。


 「お、大きくなった!?」

 「そうだよ!少しの時間なら魔法で大きくなれるんだよ!これでお酌ができるね!」


 と、ぺかーっといい笑顔で半分ほどになった俺の杯に蜂蜜酒を注いでくれる。

 うん、それは嬉しいんだけど、膝上から降りて欲しい。人間サイズといっても150センチくらいで小柄なのであまり重くないけど、ワンピース姿で膝上に乗られてると俺も大きくなっちゃうから!何がとは言わないけど!


 

 そんなこんなで、初体験は楽しく過ごせたと思う。メイリィさんが自分の好物が和菓子と言ったのは、また来てねという事だというのに気づいたのは店を出てからだった。

 今度来る時は和菓子を持っていこうと思う。



◆◇◆◇



 「はー、久々に沢山飲みましたねー」

 「その割には足取りも喋りもしっかりしてるな」

 「トン兵衛さんこそ」


 『深緑の憩い亭』を出たのはそろそろ終電も近い時間だった。

 トン兵衛さんと連れ立って駅の方へ歩く。自分では結構酔っているつもりなんだが、トン兵衛さん曰くそんな風には見えないらしい。

 んー、体も熱いし結構ふわふわした感じなんだけどなー。

 

 「トン兵衛!」


 そんな風に思いながら、トン兵衛さんと雑談しながら歩いていると、前の方から女性が向かって来るのが見えた。

 トン兵衛さんの名前を呼んでいる所を見ると知り合いだろうか?

 トン兵衛さんは何故か一瞬怯えた様子を見せたけど苦手な人なんだろうか?


 「ティリエ?どうしてここに?」

 「仕事帰りよ、今日のシフト言っておいたでしょ?」


 向かって来たのはダークエルフのお姉さんだった。女悪魔ひしょに負けず劣らずのグラマーな身体、銀の髪は後ろで無造作に束ねており、服装はトレーナーとズボンというラフな格好。肩には大きめのトートバックを掛けている。

 誰もが見惚れるだろう美人な顔は、ちょっと拗ねた表情。とはいえ、本気で拗ねてる訳でなくいつものやりとりって感じだ。


 「おぉ、そうだったそうだった」

 「もぅ、まさか記憶が飛ぶ程飲んでるんじゃないでしょうね?」

 「いや、まさか帰り道にばったり会うとは思ってなくてさ。深酒はしてないって、な、平汰?」


 あっという間に2人の世界を築かれてしまい、トン兵衛さんの後ろでやり取りを眺めていたら急に話を振られてしまった。


 「え、あ、はい。そんなに飲んでなかったと思いますよ」


 オークの深酒ってどのくらいの量か知らないので、急に振られたものだから、思わず適当に答えてしまったけど、酒に呑まれている様子じゃないので多分大丈夫。


 「トン兵衛、この子は?」

 「今日は新人の歓迎会って今朝言ったろ?平汰と一緒に飲んでたんだよ」

 「あら、貴方が平汰君?トン兵衛から話は良く聞いているわ。とっても面白い新人が入ったって」

 「あ、はぁ。こちらこそトン兵衛さんにはいつも色々教えてもらってお世話になってます」


 ティリエさんにぺこりと挨拶。しかし、この人はトン兵衛さんの知り合いだろうけど、やけに距離が近い気がするなぁ。


 「私はティリエ。よろしくね、平汰君」

 「い、いえ。こちらこそ。その、ティリエさんはトン兵衛さんとは知り合いなのですか?」


 初対面で思わず突っ込んだ質問をしてしまった。お酒が入っているせいかつい口に出てしまった。

 思わず謝って取り消そうとしたら、ティリエさんは特に気を悪くした様子もなくあっさりと答えてくれた。


 「トン兵衛とはね、こういう関係よ?」


 酔いが一発で覚めた。

 ティリエさんはトン兵衛さんの腕を取ると、自分の腕と絡めてトン兵衛さんに寄り添ったのだ。

 


 オークと美人ダークエルフのカップル。



 脳がそれを理解するのに暫く掛かってしまった。


 「え、あれ?トン兵衛さん恋人居たんですか?」

 「あー、言ってなかったか?」


 俺の質問にトン兵衛さんはばつの悪そうな表情で答える。


 「てっきり、独り身同士だから一緒にエイラさんの店に誘ってくれたのばかり」

 「ちょ、平汰?」

 「トン兵衛?」


 あ、やぶ蛇だったかも。恋人の前で綺麗なお姉さんの居る店で飲んでたとかちょっと言えないよね。酔ってるせいかついつい口が滑っちゃったよ、仕方ないよね酔ってるんだし、このくらいの意地悪はふつーふつー。


 「ま、まてティリエ。エイラの店で飲むのはお前も許してくれたじゃないか。他の店には行ってない、本当だ」

 「……まぁ、確かにエイラ姐さんの所は許したけど……平汰君、他の店で飲んでないっていうのは本当?」


 あ、ヤバい。こちらに顔を向けたティリエさんの目を見て本能的に気づく。

 あの目は危ない。目の奥がぐるぐるしかけている。幸いまだ嫉妬レベルで留まっているけどありゃあ悪化したら良いボートしてしまう目だ。

 

 「ええ、俺がそういう店に行くのが初めてだったので、トン兵衛さんが知り合いの良いお店を紹介してくれるって案内してくれて、その帰りですよ。他のお店には寄ってないです」


 ティリエさんは暫くじっと俺の目を見た後、トン兵衛さんの匂いを嗅ぐ。


 「確かに、エイラ姐さんの匂いがするね」

 「そ、そりゃ……お前との約束だしな」

 「ありがと、トン兵衛」


 一転してご機嫌になってトン兵衛さんの頭を撫でるティリエさん。トン兵衛さんが心なしか怯えている様に見えたのは気のせいだろう。

 そのまま3人連れ立って駅へ向かう。駅前に近い所でティリエさんと遭遇したので、すぐに駅前に着いた。


 「それじゃあ、トン兵衛さん。俺電車の時間がありますから……」

 「お、おお。そうだった」

 「あら、残念。また機会があればお話しましょうね」

 「ええ、今日はありがとうございました。おやすみなさい」


 挨拶をして速やかに戦術的撤退を図り、トン兵衛さん達とその場で別れる。

 トン兵衛さんとティリエさんは腕を組んだまま駅から別の方向に去っていく。

 この街に住んでいるんだろうか?流石に同居は……してそうだなぁ、ティリエさんのあの様子を見ると。


 しかしまぁ、美人でグラマーなダークエルフのお姉さんがトン兵衛さんの恋人とは思わなかった。

 良いボートな資質があるとはいえ、トン兵衛さんは二股掛けるような魔物ひとじゃないし、大丈夫だろう。


 「てことは、普通のカップルという事になるな」


 そう呟いて独り納得する。恋人が良いボート資質だろうが羨ましいものは羨ましい。

 

 「リア獣なんて……」

 「リア獣なんて爆発すればいいのよっ」


 うん、駅前ロータリーのベンチに座る女性の言うとおりだ。というか、台詞を取られてつい声を上げた女性の方を見てしまう。


 水色の髪を纏めた仕事帰りのOLっぽい女性がぐでんぐでんに酔って、友人らしき女性に介抱されていた。

 俺の台詞を取るタイミングだったから、トン兵衛さん達の姿を見て言ったのだろうけど、タイミングがぴったりすぎてびっくりした。

 目が合ってしまったので、あんまりじろじろ見るのは失礼だと思い出し、そそくさと改札を通って最終電車に乗り込んだ。

 あー、でもあの水色の髪の人、どっかで見たような気がするんだよなぁ……。



◆◇◆◇



 帰りの電車に揺られながらぼんやりと窓の外を見つめる。

 今日は皆の知らなかった事を色々知る事が出来た日だった。こんな風に楽しい酒を飲んだのは本当に久しぶりで気分が良い。

 まぁ、最後はトン兵衛さんに全部持っていかれた気がするけど……

 これでコボ美ちゃんも彼氏持ちとかだったらどうしよう、俺だけ独身とかちょっと肩身が狭いんですが……

 そんな事を考えつつまぁいいかと気分を取り直す。独身の気楽さは性に合ってるし、仕事はまだまだ新人だし、頑張る事を頑張ろう。そう、まだ慌てる様な時間じゃない筈だ。

 とりあえず、深緑の憩い亭にはまた行こうと思いながら帰りの電車に揺られ続けるのだった。

今回の平汰君はお酒が入ってるのでちょっとテンションおかしい感じ。

酔ってない様に見えて酔いはどこかで出るものですよね。

ちなみに、リア獣~は「リアル充実した魔物」を指します。魔獣=獣人=魔物という事で。

次回はちゃんとダンジョンのお仕事に戻ります。

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