アリアの秘策 「この卑怯者」
side:大牙
時刻は夕方から夜になろうとしていた。
俺達はマドリョワさんに依頼達成の報告をして、すぐに茜の足の状態を見た。軽い捻挫のようで2、3日もあれば直るらしい。
俺達が安心してた時、またあいつが現れた。
「光陰大牙!私と勝負しなさい!」
「またお前か・・・」
俺は呆れた。
俺なんかを相手してヒマなんだろうか?
「勝負は拒否だ。第一、闘う理由がない」
「あなたを強いと思ったからですわ」
「そんなの勝負の理由にならない。それに俺よりももっと強いやつがいる」
「なら、他の理由があればいいのですわね」
アリアは口元を薄く笑い、紙を俺達の前に出す。茜はそれを読みあげる。
「なになに・・・『ギルド長から。光陰大牙、アリア・レイフォンの両名を強制決闘を命ずる。これを拒否した場合、光陰大牙、篠塚茜をギルドの登録を抹消し、退出してもらう。尚、このことに関して異論は認めない』・・・なんなんだ、これは!?」
「こんな理屈が通らないことをギルド長が認めるのか?」
アリアのデマかせかと思った。だが・・・
「認めたからこそ、この紙があるのではありませんか。フフフ・・・レイフォン家の権力があればこのようなこと容易いですわ」
「・・・金で無理やりか・・・」
「あっ!勘違いしないで下さい。使った金は国や企業に影響がでるものではありません。余った金を使っただけなのでご安心下さいまし」
「・・・こんなくだらないことに使ってないで他に使えたんじゃないか・・・この卑怯者」
「なんですって。卑怯者?」
アリアの片眉が少しあがる。
イラつかせてしまったようだ。けど、我慢できない。言わせてもらう。
「その金はお前の金じゃないだろう。なのに自分のように使って、金で何でも言うことをきかせる卑怯者が。この世には金が必要な人が山ほどいる。貧乏人や病人がその例だ。その人たちに余った金を提供しようと考えることはできなかったのか」
「・・・結局は私の金。どう使おうか私の自由ですわ。貧乏人や病人などのたうちまわって生きてればいいのですわ!」
「やれやれ、レイフォン家も地に堕ちたな。バカな娘の躾もできないのか」
「私の家を侮辱するのはやめなさい!!もう1度言いますわ。光陰大牙私とたたかいなさい!!!」
「いいだろう。勝負してやるよ。このバカな卑怯者」
「~~~っ!明日の正午、決闘場で勝負ですわ!精々、自分が負ける姿を思い描いてなさい!!!」
そう言ってアリアは立ち去って行った。
少し言い過ぎたかな。いや、あれでいいと思う。金が無い苦しみが分からない輩にはああいうのが一番効く。
「いいのか?大牙?」
「別にいいんだよ。ギルド長から言われてるし、この勝負に勝てば少しはギルドも改善されるだろうからな」
元々、そういう契約だったしな。
そしたらマドリョワさんが俺達の所に来た。
「ごめんなさい。ギルド長からじゃ私も手に負えないの」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。俺はあんなやつに負けませんから」
「大した自信ね」
「自信、というかああいうやつに負けてはいけないと昔から思ってますから」
「そう・・・明日がんばってね!」
「はいっ!」
いい笑顔で応援してくれた。
これは負けられないな。
外は月が輝く夜になっていた。
今、割り当てられた部屋にいる。ちなみに隣の部屋には茜がいる。
そのことを知った時の茜は妙に喜んでいたな。
俺も知り合いが近くにいてくれてよかった。なにかと聞きたい時、すぐにいけるし。
俺は部屋にとりつけられているシャワーを浴び、寝間着の格好になってベッドで横になる。
「明日の正午か・・・」
確かに勝たなくちゃいけない。けど、勝つだけじゃだめなんだ。あいつを救いたい。
本当は闘い以外で救いたかったけど仕方ない。
「でも、わっかんないんだよなー」
どうしてあそこまで勝負にこだわる。他の方法でも力を見せつけられるだろう。
「ま、いいか。明日になればわかるだろう」
そう言ってベッドに立て掛けていた刀、村正を手に持つ。
「頼むぜ、村正。俺もがんばるから」
村正が窓からこぼれている月明かりに照らされていた。
そして決闘当日。俺は茜の案内の元、決闘場に向かっていた。
「決闘場ってどういう所なんだ?」
「決闘場は基本的に鍛錬や模擬戦をするために造られたものだ。闘う時に直方形のバリアを張ってくれる」
「ん?バリア?」
「バリアとは全ての攻撃を防いでくれる壁だ。そうでもしないと激しい戦闘の場合、決闘場が破壊しかねない。まぁ、それでもすでにくたびれているけどな」
「くたびれている?どういうことだ?」
「ここのギルドにいる者はほとんど無気力だって言っただろう。だから、強くなろうとしないため、決闘場もくたびれる訳だ。・・・・・着いたぞ」
話している最中に着いたようだ。
俺は決闘場に目線を移す。
「・・・これは・・・」
くたびれていると言ったが想像以上にヒドイ。
全体的にだ円形になっていて、広さは十分にあり、闘いを観れる場所もある。
ただ、いたる所にひび割れや雑草、木のツタが張っている。
大丈夫なのか?別の意味で不安になってきた。
周りを見た後、正面に目線を戻す。
そこには大きく描かれた四角い白線の中に堂々と立っているアリアがいた。
「やっと来ましたわね。全く私をいつまで待たせる気ですの」
「悪かったな」
「準備でもしていたのかしら。まぁ、負けるのですから意味が無いと思いますけど」
アリアの挑発を無視して白線の中に入る。
すると白線の四隅から半透明の幾何学模様が現れる。
その後、半透明の壁が俺とアリアを囲む。
これが先程言ってたバリアか。触ってみると固く、どんな攻撃でも防げそうだ。
「勝負の前に聞きたい。どうして勝負をしたがる。なぜ、そこまで勝ちにこだわる。」
「・・・あなたには関係のないことですわ。」
「確かに関係ない。けど、そこまで執着すると気になるもんだ」
「・・・・・・・・・」
「話してくれないか・・・なら、この勝負に勝ったら聞かせてくれ」
「絶対に話さないわ。私は勝たなくちゃいけない。あなたにも他の誰にも負けてはならないんですの」
俺達の頭上に半透明の巨大な文字が現れる。
『stanby』
アリアは翼から粒子を出し、ライフルを形造る。
俺は腰に添えていた村正を引き抜く。
『ready』
「大牙!」
バリアの外から茜が俺のことを呼ぶ。
「信じてるぞ。無茶だけはするな」
「あぁ、勝ってくる」
俺とアリアは臨戦体勢をとる。
『fight!』
闘いが始まった。




