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「変態老人の生贄になれ」と実家に捨てられた醜いアヒルの子、嫁ぎ先の公爵様が超絶イケメンのチェスバカだったので、盤上でハメ倒して永住権(溺愛)を勝ち取ります

掲載日:2026/06/22

「いいこと、ローラ。あんたが嫁ぐアルベルト公爵はね、身分こそ高いけれど、醜くてロリコンのど変態、おまけに屋敷から一歩も出ない不気味な老人よ」


年の離れた意地悪な姉が、私の痩せ細った肩を掴んで嘲笑う。


「お父様とお母様もせいせいしているわ。我が家の邪魔者だった醜いあんたが、高位貴族とのコネになってくれるんだもの。精々、おじいさんに可愛がってもらいなさい」


我が公爵家の末子である私は、生まれつき見た目がパッとせず、家族から虐待に近い扱いを受けていた。

満足な食事も与えられず、いつもボロ布のような服を着せられていた私。

そんな私が十歳になった途端、実家は私を「生贄」として、噂の変態貴族へ差し出すことを決めたのだ。


嫁ぐ日の前日、私は自室でボロボロと涙を流した。


(このまま死んでしまおうか……)


そう思ったけれど、十歳の私には自殺する勇気すら出なかった。

無情にも朝はやってくる。

私はただ、恐怖に震えながら、迎えの馬車へと押し込まれたのだった。


馬車に揺られること数時間。

たどり着いたアルベルト公爵家の屋敷は、驚くほど静かだった。

冷や汗で濡れた手を握り締め、生きた心地もしないまま客間で待っていると――ガチャリ、と扉が開いた。


(……あ、悪魔が来る……!)


私はぎゅっと目を瞑った。

しかし、聞こえてきたのは、老人特有のしわがれた声ではなく、低く心地よい青年の声だった。


「……チッ、ひどいことをしやがる」


「ひゃうっ……!」


恐る恐る目を開けると、そこに立っていたのは、十代後半に見える信じられないほどの美青年だった。

白磁のような肌に、鋭くも美しい切れ長の瞳。

その青年が、私を睨みつけながら忌々しそうに舌打ちをしたのだ。


(やっぱり、私は嫌われて、これからひどい目に遭うんだ……!)


恐怖のあまりガタガタと震える私を見て、青年はハッと目を見開くと、慌てて頭をかきむしった。


「あ、すまない! 君を睨んだわけじゃないんだ。怯えさせて悪かった」


青年は私の前に膝をつき、目線を合わせる。優しい、大人の男の香りがした。


「僕はアルベルト・フォン・公爵。君の婚約者だ。さっきの舌打ちは君にじゃなく……十歳の幼い子供を、道具のように生贄として差し出してきた君の両親に対してだよ」


「え……?」


私は呆然とした。

目の前にいるのは、醜い老人でもなければ、ロリコンの変態でもない。

あまりにもまともで、優しい、超絶イケメンの若き公爵だった。


×


あまりのギャップに、私の小さな頭には疑問が浮かぶ。


「あの……アルベルト様。なぜ、街にはあんなに恐ろしい噂が流れているのですか……?」


私の問いに、アルベルト様はバツが悪そうに視線を逸らした。


「……結婚が、したくなかったんだ。家庭なんて煩わしいだけだし、『結婚生活は人生の墓場だ』とおじい様がよく言っていたからね。だから、女が寄り付かないように、わざと自分で最悪な噂を流したのさ」


「そう、だったのですか……」


「まあ、引きこもりという噂だけは本当だけどね」


アルベルト様は苦笑しながら、部屋の隅にある立派な机を指差した。そこには、精巧に作られた白と黒の駒が並んでいた。


「僕はチェスが大好きでね。日夜、この部屋にこもってチェスの研究をしているんだ。身分を隠して庶民の大会に出て優勝したこともある。貴族からは『貧乏くさい庶民の遊戯に耽る変人』と言われているよ」


「チェス……」


私はその盤面を見つめた。

そして、一番大切なことを尋ねる。


「あの……私は、これからどうなるのでしょうか。やっぱり、お役に立てないから追い出されてしまいますか?」


アルベルト様は、とても痛ましそうな、優しい目で私を見つめた。


「まさか。こんなに痩せ細るまで虐げられてきた君を、今すぐ放り出すわけないだろう。しばらくこの屋敷で、美味しいものをたくさん食べて暮らしなさい。数年経ったら、適当な理由をでっち上げて綺麗に離縁してやる。君の将来のために、十分な慰謝料と新しい身分も用意するし、ちゃんと実家に戻れるように手配してやるから安心するといい」


アルベルト様は、私のことを心から思いやってそう言ってくれた。

けれど――。


(あんな地獄のような家には、死んでも帰りたくない……!)


私は決意した。

私の見た目は美しくないかもしれない。けれど、私には誰にも負けない『たぐいまれなる頭脳』があるのだ。


私の精密な頭脳に、ひとつの完璧な計画が浮かぶ。


(アルベルト様はこの世の何よりもチェスが好き。なら……チェスでこの人を完全に叩きのめし、『私を手放したくない』と言わせて、この天国のような屋敷に永住してやるわ!)


その日から、私の生存戦略が始まった。

私はアルベルト様にお願いして、チェスのルールを教えてもらった。初めて触る遊戯だったけれど、私の頭脳なら、一度ルールを聞けばすべての定跡が頭に吸い込まれていく。


数日後。


「アルベルト様、一局、お相手をお願いできますか?」


「いいよ。ローラ、子供相手だからって手加減はしないからね?」


アルベルト様は余裕の笑みで駒を動かした。

しかし、十手、二十手と進むうちに、彼の顔から余裕が消え失せていく。


「……え? あ、あれ……? なんだこの手は……?」


アルベルト様の額から、だらだらと冷や汗が流れ落ちる。

私の打つ一手一手は、彼の予測を遥かに超え、盤面を完璧に支配していった。


「チェックメイトです、アルベルト様」


「な……馬鹿なっ!? 嘘だろ、僕が負けた……!? 十歳の子どもに……!?」


アルベルト様はガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、驚愕の表情で私を見た。

この領地には、天才である彼とまともに戦える相手など一人もいなかったのだ。そんな彼の前に現れた、自分を凌駕する超天才の少女。


アルベルト様の目が、歓喜と興奮でギラリと輝いた。


「ロ、ローラ……! 頼む、もう一局! もう一局だけ打ってくれ!!」


「ふふ、よろしいですよ」


計画通り。私は心の中で、小さくガッツポーズをした。


×


それから、八年が経過した。


十八歳になった私は、アルベルト様の屋敷の鏡を見て、自分でも驚いていた。

実家にいた頃の泥のような肌は、公爵家の美味しい食事と規則正しい生活、そして高級な化粧水のおかげで、雪のように白く透き通っていた。

ボサボサだった髪は、艶やかな極上のシルクのように輝いている。


今や私は、道を歩けば誰もが振り返るような、社交界でも噂の美女へと成長していた。

まさに『醜いアヒルの子』の変貌である。


もちろん、離縁の話なんて、とっくの昔にどこかへ消え去っていた。


「ローラ、お願いだ、今夜も僕の部屋で朝までチェスをしてくれ……! あと、これは君に似合うと思って買ってきた新しいドレスと、エメラルドの髪飾りなんだが、受け取ってくれないだろうか……!?」


部屋に入ってきたアルベルト様は、八年前のクールな美青年の面影はどこへやら、私をこれでもかと甘やかす重度の溺愛旦那様チョロインと化していた。


「まぁ、ありがとうございます。でもアルベルト様、今夜は手加減しませんわよ?」


「望むところだ! 君にボコボコにされるのが、今の僕の最高の快感なんだ……!」


すっかり私の頭脳の虜(盤上の意味でも、女性としても)になったアルベルト様に、私はクスリと微笑む。

「結婚は人生の墓場」と言っていた人はどこへ行ったのだろうか。今や彼は、私と一刻も早く本当の結婚式を挙げたくて仕方がないらしい。


そんなある日、実家である公爵家が『国家反逆罪および不正蓄財』の罪で、王室に一斉検挙されたという報せが届いた。


どうやら、私をアルベルト様に売ったことで「我が家は安泰だ」と完全に調子に乗り、裏で大規模な密輸を行っていたらしい。

それを、王室のチェス仲間(※国王様)から事前に情報を得ていたアルベルト様が、私の頭脳が弾き出した「実家の資金流出ルート」のデータを元に、徹底的に証拠を炙り出して、公爵家を跡形もなく叩き潰したのだ。


「ローラを虐げた奴らを、僕が許すはずないだろう」


そう言って微笑むアルベルト様の背後は、少しだけ黒いオーラが見えたけれど、私のために怒ってくれたのだと思うと嬉しかった。

ちなみに、私を嘲笑っていた意地悪な姉は、爵位を剥奪され、今では平民として泥にまみれて働いているらしい。自業自得ね。


「ローラ。実家も片付いたことだし……そろそろ、僕の本当の奥さんになってくれるかい? もう君なしの人生なんて、僕には考えられないんだ」


アルベルト様が私の前に跪き、そっと指輪を差し出してくる。

世界一の美青年に、こんなにも深く愛されるなんて、八年前の私には想像もできなかった。


「ええ、喜んで。……でもその前に、アルベルト様」


私はパチンと扇子を閉じ、チェス盤を指差した。


「私に勝てたら、式の日取りを決めてあげますわ」


「くっ……! 受けて立つよ、僕の可愛いお妃様!」


こうして、生贄だったはずの私は、最高の旦那様を盤上でもベッドの上でも完璧に転がす、世界一幸せな王妃……ではなく、公爵妃になったのだった。


(おわり)


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