魔獣召喚事件:一話目
授業が終わり、放課後。俺とレオンは先生に呼び出されていた。
特にこの後の予定がないため、俺らは一緒に先生のもとへ要件を伺いに行った。
「「失礼します」」
「おお、来たか。こっちだ」
「あ、ハベスタ先生!」
ハベスタ先生。俺たち二年生の主任指導教師で、担当授業は実技の全般。基本的にこの学園では、実技全般の授業の教師が学年全体の主任指導教師となる。ハベスタ先生は豪快な人で、実技の授業もとにかく実践第一である。だからと言って、技術をおろそかにする人ではなく、出来ていない部分は事細かに指摘してくれる、頼りがいがあり、人望が厚い先生だ。
俺たちはハベスタ先生の方へ向かった。
「「お疲れ様です」」
「おう、お疲れ様。早速だが、本題だ。毎年、新入生が受ける従魔学の初回の授業に去年の参加者を呼んで、質疑応答などを行なっている。お前たちの時も、先輩たちが来ていただろう?その役にいい人がいないか、フェース教員から聞かれてな。色々な要素を鑑みて、お前たちを推薦したいと俺は思っている」
フェース先生は従魔学専門の教員である。俺たちの大きな力となってくれる従魔は、お互いが同意した正式な契約の元に、契約した魔獣側の意思で力を貸してくれる。従魔学では、召喚から契約までの方法を学び、実際に契約をし、その力を扱う方法などを身に着けていく。従魔が貸してくれる力はとても大きく、将来、騎士になるならば、必ず契約した従魔がいる必要があるので、この学問はとても重要になってくる。
どうやら、ハベスタ先生はその重要な学問の新入生の掴みとして、俺たちを推薦したいらしい。
「俺とノエが新入生の従魔契約の授業のお手本に?!」
「ああ、君たちなら安心して任せられる。去年の代表模擬試合にも参加したことだしな」
「そのように評価してくれて、嬉しいです!」
「ありがとうございます!」
「君たちは学年でも一つ抜けて実力がある。新入生からしてもいいお手本になるだろう。もちろん、お前たちにとってもいい経験になる。どうだ?この話を受けてくれるか?」
横目でレオンを盗み見ると、とても興味があるような顔をしていた。レオンは乗る気であるようだ。
正直、あまり乗る気がしない。俺のようなだいぶギリギリで契約した経験はあまり参考にはならないだろう。実際に授業で言われたこと以外、特別な事はしていないし、他に言う事なんてないが、、、
「はい!受けます!」
「ぜひ、受けさせてください!」
俺は優等生である。先生の期待には最大限、応えたい。応えてみせての優等生騎士だ。
そもそも、この学問は個人差が激しい。結局のところ、自分で答えを出す必要があり、俺らの所感など参考になりにくい。実際、去年の先輩方の話は俺には参考にならなかった。おそらく、今後の学年を超えた交流の起点の一つとしてのイベントだ。失敗する要素は無い。気楽にいけるだろう。
詳しい話は後日、フェース先生から連絡すると言う事で、この場は解散となった。
一礼をしてその場を去り、歩いていると、急にレオンが心底嬉しそうに話し出す。
「すごい大役を任されたな!ノエと一緒なのは安心できて嬉しいな!」
「ああ、俺もレオンと一緒で心強いよ」
「やっぱり、何を話せばいいか考えておいた方がいいよな?うーん。やっぱり、相棒であるダンカとの出会いは必要だよな?」
ダンカとはこの友人の従魔の名前である。レオンと似て明るく、強い。レオンのことを支えつつ、レオンと一緒に突っ走る、相棒のような関係だ。愉快犯であるルべランとは大違いである。
「出会い、、、ね」
レオンの言葉につられ、ふと、思い出してしまう。
ルべランとの出会い。。。あの、やり直したい上位の出来事を。。。
召喚の方法、契約の手順。その他の禁止事項などの知識を座学でみっちりと教え込まれて迎えた、魔獣の召喚及び契約の日。必要な道具はすでに目の前に並んでおり、どれも授業でやったものなので使い方は分かる。
改めて、先生の指示に従い、全体で進行度をそろえて組み立てる。召喚および契約は先生が見ている中でそれぞれ一人ずつ行う。これは、万が一、今の生徒の実力では手に負えない魔獣を召喚してしまい、暴れた場合に対処できるようにするためだ。だが、実例はほどんどない。授業で教わった通りにやれば、基本的に召喚手と相性が良いと思われる魔獣が召喚されるからだ。
順番に名前が呼ばれて、魔方陣を起動させている。今の所大きなトラブルは無い。このままいけば、無事に終わるであろう。
俺の前のクラスメイトが無事に魔獣との契約を終え、クラス中が拍手でいっぱいになり、順番で俺の名前が呼ばれる。教室から拍手の音が消え、クラスメイトは見守る体制に入る。
「次!ノエ!」
「はい!」
「おっ!ノエの番じゃん!」
「がんばれ!」
「ノエは凄い魔獣召喚しそうだな」
「確かに」
心強い応援だ。その応援を噛みしめて、最後の作業に取り掛かる。
「落ち着いて、、、手順はあっています。」
「はい」
そうして、出来上がった魔方陣に間違いがなさそうなのかを最終確認をし、起動させるために手を乗せる。
「後は、起動させるだけです。あなたが従魔に求めたいこと、性質、あり方、またはあなたの目標。どれでも大丈夫です。出来る限り具体的に思い描きながら、起動させましょう」
「分かりました」
あなたが従魔に求めたいこと、性質、あり方、またはあなたの目標、、、か、
俺の目標はあの時に見た、あの騎士のようになること。そのために、必死になって優等生をやっている。そうだ、そこが俺の目指す理想。そして、その理想には、力が必要だ。今以上の力が。
俺はなんとか、ギリギリで優等生を保っている。だが、今後はもっと要求される能力が多く、高くなる。そうなれば、今の俺では、優等生騎士としてそこについていくことが出来ないだろう。
だから、俺が従魔に要求することは単純。"俺に力を貸してくれる"やつ。優等生騎士であり続けるために、"力を貸し続けてくれる"魔獣なら、性格などなんでもいい。それぐらいの相性の悪さならばいくらでもやりようはある。
起動した魔方陣から光が溢れ、収まったころには、魔方陣の中央には、一匹の小さい、黒いドラゴンがいた。
見守っていたクラスメイト達は息を飲んだ。ドラゴンは魔獣の中でも上位種である。種類によっても強さが異なってくるが、ドラゴンという種族で見ても、他のもう少し一般的な魔獣と比べると頭一つ抜けた種族である。他にもグリフォンや、、ピクシーなども上位種として挙げられる。
「ここは、、召喚されたのか。で?要件は?」
こいつは強い。ドラゴンに小さい種類はいないので、恐らく大きさを自由に変えられるほどの力があると言う事だ。その上、人間と対話できるほどの知識がある。ただ、純粋に、強い。
絶対、真正面から戦っても負ける。だが、こいつが力を貸してくれるならば大きな戦力になる。
「まずは、初めまして。俺はノエ、急に召喚して迷惑を掛けました。」
気分を損ねてしまえば、暴れられる可能性があるため、礼儀を心掛けてまずは挨拶をする。
召喚した魔獣は俺が召喚者だと知り、俺を見定めるように視線を向けた。
「要件は、俺と契約して欲しいんです」
品定めが終わったのか、あくびをし、退屈そうに魔獣は返事を返す。
「。。。断る。第一、お前が力を扱いきれるようには見えないな」
「は?」
頭が真っ白になった。
経験、と言うものは大きな力である。
成功体験でも失敗体験でも、やったことがあると言うことは大きなアドバンデージとなる。
どれだけ知識を詰め込み、技術を磨いても、一時の経験に負けるような例は数多くある。
だが、経験と言ってもその経験を出来ることすら運が絡んでくる。才能のある者どもはことごとく運がいい。
昔、名前も憶えていない人が言っていた。「才能とはめぐってきた運を掴むことである。」って。俺はどうやってもそう思うことが、、、思い込むことが出来なかった。
昔、俺は愚直にも、めぐってくるだろう運とやらを掴めるように、やるべきことを最大限にやった。そのつもりだ。出来る限りの知識も、技術も詰め込んだ。けど、運とやらはその姿すら現さない。経験はないが、無いなりにカバーした。
運があれば、、、こんな状況にはならないはずなのだ。
絶望感を抑えて、状況を確認していく。
眼の前にはたった今、授業の一環で自分が召喚した魔獣。
ただ、その魔獣は退屈そうにあくびをしている。クソッ、俺にちっとも興味がない。
チッ、このままじゃ、この授業の課題が達成できない。
今後、必ず魔獣と契約した力は必須になってくる。
別に今できなくても、後でサポートするとは言っていたが、、、
優等生騎士として、今、俺は、ここで、成功させないといけない。絶対に。そうじゃなきゃ、、、
、、、いったんリセット。落ち着いて考えよう。
確かに、俺には運が無かった。あらゆる想定をして、それに対する行動を決めていたが、、、まさが、魔獣に契約を断られるとは思わなかった。調べた限り、前例もなかった。ただ、契約した魔獣との相性や技術差が原因で、契約が解消された例は多い。そうなることは、騎士及び魔獣の成長でよくあることだ。
なら、話は簡単だ。
今、ここで、どんな形であれ、契約を結べばいい。どんな手段を使ってでも、眼の前の魔獣に"はい"と言わせればいい。
力を貸してくれなくとも、後で、相性が合わなかったなどと言って契約を破棄すれば、自然だろう。
一番手っ取り早くて、一番楽で、確実なのは、、、
一通り使えそうな魔法や技術から、解決策を考える。
そして、周囲から分からないように、手元に操作魔法を展開した。
_眼の前の魔獣は強い。魔法に特化していない俺の魔法では数秒で破られるだろう。しかし、"はい"と言うのにそんなに時間はかからない。
契約さえすれば、ある程度の抑えが働くはずだ。それで、この授業ぐらいは乗り越えられるだろう。
「そっか。でも、俺は君と契約したいって思っているんだ」
周囲に違和感を与えないような会話にしなければならない。タイミングはほんの一瞬。
諦めが悪くもう一度勧誘する俺に、眼の前の魔獣は飽きれた目を向けた。そして、その視線が俺の顔から下に向かう途中で止まる。
「もう一度聞いてもいいかな?俺と、契約し「いいぞ」て、、、え?」
「聞こえなかったのか?契約してもいい。お前とな」
急に意見が180度変わった。俺のしようとしたことがばれた?だが、それならば、なぜ同意する?
だが、この場で無事に契約を行うことができる。
内心の困惑は顔に出さないように、にっこりと笑顔でこれからのあいさつをする。
「。。。ありがとう。嬉しいよ。俺はノエ、これからよろしくね。」
「ルべランだ。せいぜい楽しませてくれよ?」
「契約おめでとう!」
「さすがノエ!」
「凄いよ!」
教室は無事、拍手喝采に包まれた。
因みに、ルべランには、やっぱり一連の行動に気づかれており、部屋で愉快犯であるルべランから色々と言われ、優等生の内心を暴かれてむしゃくしゃした記憶がある。
そこまで思い出して、少しイライラしてきた所、黒と赤、二匹の小さいドラゴン達がこちらに気づいて寄って来た。
「おー、レオン!呼び出しは終わったのか?」
「もう用は済んだのか?ノエ」
「ああ、終わったぜ!待っててくれてありがとうな、ダンカ。長くなると思うから、細かいことは後でゆっくり話すな!」
「待たせたね、ルべラン。ひとまず用事は済んだから、行こうか」
ルべラン達と合流したので、止めていた足を再び動かす。
「今日は課題が出たから、ちょっと資料室に寄ろうかな?レオンはどうする?一緒にくる?」
「もちろん、行くぜ!こういうのは早い方がいいしな」
そのまま、資料室にいって課題の参考になる文献を見繕い、そこで別れてお互いに部屋に戻ることになった。




