エピローグ「世界を変えた愛の歌」
あれから五年。
エストガル王国は、劇的な変化を遂げていた。
『ハイル改革』と呼ばれる一連の政策により、身分制度による差別は法的に禁止され、オメガの社会進出が急速に進んだ。
もちろん、人の心に根付いた偏見が完全に消えたわけではない。だが、街を歩けば、オメガが堂々と働き、アルファやベータと笑い合っている姿を当たり前に見かけるようになった。
今日は、コウガの二期目の任期満了に伴う退任演説の日だ。
中央広場は、五年前のあの日と同じように、いや、それ以上の人々で埋め尽くされていた。
演説台に立つコウガの髪には、少しだけ白いものが混じっているが、その眼光の鋭さとカリスマ性は微塵も衰えていない。
そして、その隣には、俺が立っている。
かつて幕の裏に隠れていた俺は、今、堂々とパートナーとして彼の横に並んでいる。
「……私の仕事は、これで終わりではない。種は撒いた。だが、花を咲かせ、育てるのは君たち一人ひとりだ」
コウガの演説は、俺が書いた原稿を一言一句違わず、しかし彼自身の魂を乗せて語られた。
言葉の魔法使いと、稀代の演説家。
俺たちの最強のタッグは、この国の形を変えたのだ。
演説を終え、割れんばかりの拍手の中、コウガはマイクを置き、俺の手を取った。
指に光るプラチナのリングが、陽光を受けて輝く。
「……次はどうする? 世界旅行にでも行くか、ミナト」
「いいですね。でもその前に、溜まっている回顧録の執筆を終わらせないと」
「まったく、お前はどこまでいってもワーカーホリックだな」
コウガは苦笑し、俺の肩を抱き寄せた。
群衆の前でキスをするのは、もう恒例行事のようなものだ。
歓声と指笛が上がる。
俺は恥ずかしさを少しだけ感じながら、それでも幸せな気持ちで彼のキスを受け入れた。
空は青く、どこまでも広がっている。
雨上がりの沈丁花と、白檀の香りが風に乗り、溶け合っていく。
俺たちの愛の物語は、この国がある限り、語り継がれていくだろう。
声と言葉が紡いだ、奇跡の革命譚として。




