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婚約を破棄すると言われると思っていたのに、こんにゃくを破棄すると言われました

作者: けろよん
掲載日:2025/10/30

 グラナリス王国の王宮で開かれた華やかなパーティー。その大きな会場には、色とりどりのドレスを着た貴族たちが集まり、笑い声と音楽が響き渡っていた。美しいシャンデリアが天井から煌々と光り、金色の装飾が豪華さを引き立てている。


 エリス・ルヴィアは、その中でもひときわ目を引く存在だった。長い金髪が輝き、淡い青のドレスが彼女の肌にぴったりと馴染んでいた。彼女は王国の名門貴族の令嬢であり、今日は王子との婚約発表が行われる特別な日だ。


 舞踏会の途中、王子であるリオネル・ヴァルドが皆の前に現れ、周囲が静まりかえった。その目を見れば、いつもは優しい笑顔を見せていた王子が、何かを決心したような顔をしているのが伺える。


「エリス・ルヴィア、この国で育てているこんにゃくを破棄する」


 その言葉に、エリスは驚きのあまり立ちすくんだ。誰もがその場に凍りついたように、静まり返る。彼女が口を開こうとしたその時、王子はさらに衝撃的な言葉を続けた。


「こんにゃくを破棄する。ただ食べ物を粗末にするのも外聞が悪いので、国外追放処分とする」


 その瞬間、エリスの心は完全に停止したかのように感じられた。耳を疑った。こんにゃくを破棄する? それが今、王子の口から出てきた言葉だろうか?


「こ、こんにゃく破棄……? 婚約破棄ではないのですか……?」


 エリスは思わず口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。周囲の貴族たちも、目を丸くしてエリスと王子を交互に見つめている。

 王子は真剣な表情で言った。


「そうだ。こんにゃく破棄だ」


 エリスは、王子の言葉が理解できなかった。確かに、城内の庭では今こんにゃくの栽培が盛んだ。しかし、それが一体どうして破棄する事になるのか。心の中で疑問が湧き上がるが、王子はその疑問を無視して続けた。


「城でこんにゃくの栽培が盛んなこと、俺には耐えられない。美しい花々や芸術なら素晴らしいが、あれは我が国の品位を落としている。あんなものが我が国にふさわしいわけがない」


 王子は少し顔をしかめた。


「これ以上は許せない。推奨した君も同罪だ」


 会場の空気が重くなった。貴族たちは互いに耳打ちをし始め、その異様な場面に戸惑いを隠せないでいる。


 エリスは少し立ち止まってから、深呼吸をした。そのまま王子を真っ直ぐに見つめ、言った。


「王子様、どうかお考え直しください。こんにゃくは私が育て始めたものですが、それが何か問題なのでしょうか?」


 王子は微妙に表情を歪めたが、エリスの質問には答えず、再び手を振りながら言った。


「エリス、この国には多くの可能性がある。君が何を始めようと、俺には関係ない。だが、こんにゃくにこだわりすぎるのは、我が国の名誉に傷をつける。君も妻となるならば王室の品位という物を考えるべきだった」


 その瞬間、エリスはふっと笑みを浮かべた。誰が見ても、王子の言っていることは全く筋が通っていなかった。そして、エリスにはそれを真剣に受け止める理由がなかった。


「リオネル王子」


 エリスは静かな声で言った。


「こんにゃくを育てることが、そんなに王室の品位に関わるのでしょうか?」


 王子は頷き、顔をしかめながら答えた。


「当然だ。こんにゃくは農民の食べ物だ。我々貴族が、あんなものを育てるのは場違いだろう」


 エリスはゆっくりと歩み寄り、王子に言った。


「私は、こんにゃくを育てることに誇りを持っています。私の母が教えてくれたのは、土地を大切にし、食物を育てることの価値です。こんにゃくは、私にとってただの食材ではありません。それを私が育てることで、何かを学び、何かを感じているのです」


 エリスは深く息を吸い、堂々と言い放った。


「でも、あなたが選ぶ道に私から口を出す権利もありません。ただ、お互いに分かり合えないのであれば、私たちの婚約はここで終わりです」


 その言葉に会場は再び静寂に包まれ、王子は一瞬、言葉を失った。しかし、すぐに顔を赤らめ、動揺した。


「君がそこまでこんにゃくにこだわるとは思わなかった……」


 エリスは微笑みながら、もう一度言った。


「王子様、こんにゃくを破棄したいのであれば、どうぞご自由に。でも、私にはそれができませんので、一緒に追放させていただきます」


 そして、エリスは一歩踏み出すと、会場の中を歩きながら、他の貴族たちに向かって言った。


「皆さん、どうかご安心ください。私は婚約者がいなくても、心から幸せです。今後は辺境にて、もっと自分の信念を貫いていくつもりです」


 その言葉が終わると同時に、エリスはサラッと会場を後にした。外の冷たい風が彼女の髪を揺らし、心地よい清々しさが広がった。


「こんにゃくを破棄するだなんて……馬鹿げているわ」


 エリスは心の中で王子を軽く笑い飛ばしながら、新たな一歩を踏み出す準備を整えた。彼女の人生は、これからもっと自由で素晴らしいものになるに違いないと、確信していた。

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