十一日目(6)
海が見えて来た。
波はほとんどなく、水は透き通っている。
海面での反射が全くないので、海底の魚がはっきり見える。
「しゃ・きゃ・にゃー」
海底に体長1m近いヒラメが見える。
何かわからない黒っぽい魚も泳いでいる。
でも、やはりこれは僕の夢。
蝶と同じように、魚はどう見ても作り物。
でも、写真に撮りたい。
いまカメラを持っていないのが悔やまれる。
この先、海岸は湾曲していて、半島のようになっている。
その突端には島がある。
そういえば、夢の中のことではあるが、僕は船であの島に行ったことがある。
別に何をしに行ったわけでもなく、ただ風景を見ていただけのような気がするけれど。
でも、考えてみると、あの夢はおかしい。
船に乗っていたのは憶えている。
しかし、桟橋など、船に乗る場所については全く記憶にない。
気が付けば船に乗っていて、気が付けば降りていたのだ。
そう考えた途端、僕とキヨは船に乗っていた。
――そういえば、知らないうちに海で泳いでいたことも……。
僕は急いでその思いを振り払った。
キヨを連れているのに、海に放り出されるのはまずい。
――早く到着してくれ。
気がつくと、僕たちは島にいた。
後ろに桟橋が見える。
僕はほっとして、また余計な事を考えそうになったので、急いで頭を切り替えた。
「どこに行きたい?」
僕は行先をキヨに任せることにした。
「んー。ん?」
ピンとくるところはないらしい。
折角来たんだから、そう思って僕は展望台に上ることにした。
あそこは見晴らしが良さそうだ。
そろそろ夕方なので、夜景が見られるかもしれない。
だが、そう思って上った展望台からの眺めは、実際の地形を無視したものだった。
本来なら、半島が島の方に伸びていて、その先に島がある。
島と半島の間は海で隔てられているはず。
でも、展望台から見ると、半島と思しき場所は島まで陸続きで、照明が点々と続いている。
逆に、半島の根本の陸があるべき場所には海が広がっている。
陸が見えないのだから夜景はない。
ただ海が広がっているだけ。
いろいろ形作られてはいても、ここはやはり混沌の中なのだ。
「帰るか」
「ん」
気づくと、僕たちは、手をつないで神社の広場に立っていた。
――そういえば……。
僕はこの場所を神社の広場と認識している。
でも、いま周りを見回しても神社はない。
以前、キヨに導かれて神社から神社へと渡ったとき、社の中からこの広場を見ていた。
でも、その社があるべき場所にはなにもない。
――確か……。
僕はあのとき見た景色を思い起こし、社のあるべき場所を探した。
そして、僕はその場所を見つけた。
そこに立った途端、僕とキヨは社の中にいた。
「おかしゃん」
キヨはそう言って、二十代と思しき女性の方に走って行った。
「ネネ?」
その女性は僕を見て頷いた。
――ネネと夫婦……?
そう言えば、ネネは子猫を十匹以上生んでいる。
ひょっとして、その子たちも僕の前に現れるのだろうか。
そうなると、一気に十数人の子持ちになる……。
――なるようにしかならない。
僕は流れに身を任せることにした。
僕が心を決めると、社の中に笙の音が響き渡った。
気づくと、巫女が間を開けて二列に並び、社の奥へと続く道を作っている。
僕たちは巫女たちが作った道を進む。
キヨが僕とネネの手を取り、奥へと導く。
僕たちが近づくと、奥の壁が透き通って見えた。
その奥にはまるい鏡が置かれている。
キヨは僕たちの手を引き、壁を通り抜けた。
そして、鏡に向かう。
鏡は近づくほど大きくなっていく。
あるいは、僕たちが小さくなっているのかもしれない。
鏡の奥に、何かが見えた。
そして――




