表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌の十二日  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/46

十一日目(2)

「今日、何かやりたいことある?」

 朝食後、僕は洗い物をしながらキヨに聞いてみた。

「きゅいん」

「えっ、ドライブ行くの?」

「きゅいーん」

 キヨは手を広げて、走り出した。

――それ、飛行機じゃん。

 キュインというなら高速。

 でも、今日はゴールデンウィーク最終日。

 上りは大渋滞になるはず。

 高速を使うとしたら下りだけ。

 行きは高速の下り、帰りは下道。

 それで、お子様が楽しめる場所は……。

 人気のある観光地はパス。

 遠出は厳しい。

 ならば――

 海老名まで高速で行って、海老名駅周辺のショッピングモールでお買い物。

 子供用の布団を買いたいと思っていたのでちょうど良い。

――今日こそ45mmと35‐100mmを使おう。

 今日はキヨだけを撮る。

 そう考えて、僕はカメラの設定を変えた。

 僕の愛機には、顔優先AFとか瞳優先AFという機能がある。

 僕は人の写真は撮らないし、以前気味の悪いこともあったので、普段、この機能はOFFになっている。

 気味の悪いこと、というのは――

 あの日、僕は横浜で街の風景を撮っていた。

 飲み屋街が面白そうに思えて、錆びた非常階段とか、放置されたバイクとか、雰囲気のある飲み屋とか、ちょっとダークな風景を切り取って楽しんでいた。

 薄汚い路地に入ったとき、突然、カメラが何もない壁に顔を認識した。

 不思議に思って壁を確認しに行くと、そこにあったのは、確かに顔。

 それはたぶん壁に顔を押し付けられた痕跡。

 顔の右半分が壁に転写され、茶色くなっていた。

 壁に残った顔の皮脂が変質したのか、あるいは血の痕なのか。

 それは、誰かの怨念が形になったような、不気味な染みだった。

 僕はそれを見て、すごく嫌な気分になった。

 それ以来、顔優先AFはずっとOFFにしていた。

――今日、あの嫌な思い出を上書きしてやる。

 僕はそう決心して家を出た。

 

 助手席のドアを開け、キヨを車に乗せる。

 いつものように、レカ〇のチャイルドシートに座ると、キヨはテンションが上がる。ものすごく上がる。

「にゅふふふふ」

 そして、僕がエンジンをかけると――

「うきゃー」

 保土ヶ谷バイパスに乗ってセカンダリターボが効くと――

「きゅいーん」

 キヨは手を振り回している。

 でも、横浜町田インターに近づくと大渋滞。

 キヨ、テンションダダ下がり。

「むきー、ひゃーく」

「無理」

 僕はあきらめて、横浜町田ジャンクションの手前で降りた。

 下道ものろのろ状態ではあったが、まだましだ。

 行先はグランベリーパークに変更。

 僕は頬を膨らませたキヨを横目に見て、一刻も早く機嫌をとらないと、と焦っていた。

 だけど、事態はさらに深刻になった。

「おとしゃん、んこ」

――この状態でトイレですか……。

 グランベリーパークの駐車場はたぶん入るのにも時間がかかる。

 僕はグランベリーパーク手前の駐車場に車を入れた。

 ここはパーク外にあるいくつかの店の契約駐車場。

 契約店で買い物をすれば駐車料金は無料になる。

 どうせ子供用布団を買うのだからちょうど良い。

 こっちが正解だ。

 二十分後、トイレを済ませ、僕たちは家具店の布団売り場にいた。

「枕、どれが良い?」

「あちしのまくあー、こえっ」

 キヨは僕の腕にしがみついた。

――確かに、現状ではそうだけど……。

「じゃあ、布団カバーはどれが良い?」

「やー」

 キヨはこれからも僕の布団で寝る気だ。

――でも、それは寒いんだよ。

 キヨの頭に掛け布団をかぶせないようにすると、僕の右肩と胸が布団から出る。

 それに、敷き布団の方もスペースに問題がある。

 僕の左腕と左足は畳の上にはみ出ていることが多い。

 それに、もうすぐ夏。

 夏場にくっついて寝るのは厳しいと思う。

「じゃあ、僕がキヨのために選んであげよう」

 僕は子供用布団一式を適当に選んだ。

 布団を一式買うと、駐車場は二時間無料になった。

 得をしたな、と思ってキヨを見ると、頬が膨らんでいる。

 僕は黙って手を伸ばした。 

 キヨは黙って僕の手をとる。

 僕たちは手をつないで店を出た。

 緊張が解けないまま。

 布団を車の後部座席に突っ込んでいると、キヨが僕の背中をよじ登って来た。

 そして、いつもの特等席につき、僕の頭をドラムのように叩き始めた。

 叩く力がいつもより強い。

 でも、グランベリーパークに入ると、叩く調子が変わった。

「おー」

 キヨが驚いている。

 グランベリーモールの頃、僕はここに来たことがある。

 けれども、パークになってからは初めてだ。

 僕の目から見ても、以前に比べてかなり洗練されたように思う。

 キヨにしてみれば、全く未知の雰囲気だろう。

 たぶん、あのお婆さんの記憶の中にも、こういった場所の記憶はなかったはずだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ