十日目(1)
残すところ、休みは今日も含めて三日。
もう時間がない。
――ネネをあの神社に連れて行かなければ。
その思いが僕を急きたてる。
これまで、出先ではネネに隠れてもらうことが何度もあった。
ネネにだけ不自由を強いていたわけだ。
だから、できることならネネに人の姿をとってもらいたい。
娘が二人になるのは大変だけど、僕はネネにも幸せになってほしいと思っている。
僕とキヨだけが幸せ、というのは、幸せな気分を半減させてしまうのだ。
でも、僕はネネの気持ちを聞いていない。
勝手に僕が決めて良いとは思わない。
じゃあ聞いてみればいい。
「ネネ、これからどうする?キヨみたいに人の姿になる?」
ネネはあくびをして目を閉じた。
僕はネネを知っている。
これは肯定だ。
ネネは嫌なら怒る。
嬉しいときは照れ隠しをする。
どうでも良いように見せようとする。
ネネはそういう猫らしい猫だ。
――とりあえず、連れて行ってみよう。
僕はすっかりあの神社に行く気になっている。
それにはほかの理由がないわけじゃない。
――写真が撮りたい。
食べる者に関して、僕はできることをしたと思う。
もう引け目は感じていない。
だから、撮影を解禁する。
今日は特に使いたいレンズがある。
45mm F1・8。
『ママのための~』というキャッチフレーズで販売されているレンズだ。
ママ役も務める僕にとって、これほどふさわしいレンズはない――と言いたいところだけど、実は、買ってからほとんど使っていない。
このレンズ、いろいろな人のレビューや作例を見て、欲しい、と思った。
そのタイミングで、程度の良い中古に出会ってしまい、衝動的に買ってしまった。
でも、この焦点距離は、人を写さない僕にとっては使い勝手が悪い。
イギリス山に行って試写をしてみたけれど、ここはもっと広角の方が、ここはもっと望遠の方が、なんて思うことばかりだった。
結局、面倒くさくなって、12‐50mmに付け替えてしまった。
そういうわけでほとんど使ったことがない。
そして、もう一本。
パ〇ソニック 35‐100mm F4・0‐5・6。
このレンズのことは、評判の良さとデザインの良さでずっと気になっていた。
その熱が冷めきらないタイミングで、状態の良い中古がお手頃価格で売りに出ていたら?
それは買わずにはいられないでしょう。
これぞレンズ沼。
そんな流れで買いはしたが、僕は40‐150mmを持っている。
割と気に入っているレンズだ。
使う上でも、40‐150mmの方が勝手が良いから、これまで、ほとんど35‐100mmに出番はなかった。考えてみれば、40‐150だってめったに使わないのだから、さらにその補欠となれば出番はない。
でも、いまは違う。
35‐100mmは、人を撮るときにはすごく良さそうに思える。
長さが5センチというコンパクトさも良い。
持ち運びも気にならない。
ジーンズのポケットにだって入るのだ。
それに、このレンズは動画撮影にも定評がある。
子持ちになったいまこそ使い時なのだ。
今日は、この二本を使って、キヨとネネを撮りまくる。
新しく手に入れた金剛杖は持って行かない。
僕は戦わない。
子連れで戦うなんてもってのほかだ。
もっとも、その決心の裏には、危機に陥れば何らかのサポートがあるかも、という甘い期待もある。
破魔矢のようなサポートが。
こうして、いつものように道祖神へ向かう。
今日は望遠コースだ。
最後の道祖神をまわると、僕たちは銀色のドームの中にいた。
ここまでは前回と同じ。
足元には僕が付けた印が残っている。
ここから先は曖昧だ。
あのときは、余計な事を考えないよう、般若心経で頭をいっぱいにしていたので、正確な道順など憶えていない。
今回は先のことを考えて新たなマークを残すことにした。
角を曲がる度に地面に印をつけてまわる。
そして、景色が変わった。




