表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌の十二日  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/46

六日目(1)

 朝、テレビをつけると、あの事件の現場が映っていた。

 どうやら生放送のようだ。

 そこにはまだ黄色いテープが張られていた。

――今日も幽世へは行けないな。

 昨日は二人乗りで坂を上って結構疲れた。

 今日は家でゆっくりしたい……、などと考えても、キヨがどう出るかわからない。

 ネネも狭い部屋に閉じ込めておくのは申し訳ない。

 猫は自由であるべき生き物だから。

 そのとき頭に浮かんだのは川遊び。

 近所の川には子どもが遊べるよう、護岸に階段が作ってある。

 そこでは小学生くらいの子どもたちが川に入って遊んでいる。

 そこまで考え、別の光景が頭をよぎった。

 あそこは安全なのだろうか。

 数キロ上流には、金属などをリサイクルするヤードが並んでいて、そのあたりの川は酷い状態だ。

 たぶん、違法なものだと思うが、ヤードから伸びた太い蛇腹のパイプが川の上に垂れ下がり、時折廃水が流れ出ている。

 ヤードから流出したと思われる産廃も放置されている。

 子どもたちの遊び場はその下流。

 あそこは大丈夫なのか。

 独り暮らしのときには少し気になる程度だった。

 でも、いまは子持ち。

 すごく気になる。

 川遊びはだめだ。

 

――どうせなら、いままで行けなかった方に行ってみるか。

 このエリアは、道はまっすぐではないし、ところどころに行き止まりが作ってある。

 それは、抜け道として車が入り込まないようにする開発業者の設計によるものだが、居住者にとっても問題だったりする。

 行き止まりになっている方向には行きづらい。

 住人でない者が行けば目立ってしまう。

 不審者だと疑われるリスクがある。

 というわけで、僕は自分の家の北側には行ったことがない。

 地図で見て、そっちに公園があるのを知っている。

 ここは丘の上なので、その公園は見晴らしも良さそうだ。

 でも、人目を気にする僕には行くのが難しい。

 というのが先週までの僕。

 いまはキヨが居る。

 キヨが免罪符になる。

 新しい場所を開拓できる。

「散歩行かない?」

「いくー」

「みゃー」

 僕は、キヨとネネを連れて、未知の場所へ向かって最初の一歩を踏み出した――なんて頭の中でナレーションを入れて家を出た。

 北へ向かう。

 それは初めての経験。

 家を出て右に進み、普段なら最初の角を右に曲がる。

 そちらが駅やスーパーに行く道。

 そこで曲がらず真っすぐ進めば行き止まりへと続く道。

 毎日見てはいるけれど、真っすぐ進んだことはない。

 今日、僕はそのエリアに初めて入る。

 すると急激に雰囲気が変わった。

 右手は崖。

 崖の下には全く同じデザインの建売住宅が並んでいる。

 左手は丘。

 丘の斜面には市営の団地がある。

 団地周辺には人が居ない。

 団地の窓を見ても、中には家具等がなく、見える範囲すべてが空き家のようだ。

 さまざまな事情から、ここは実質的に入居不可能な団地になっているらしい。

 まるでゴーストタウンだ。

 僕は目と鼻の先がここまでさびれているなんて考えていなかった。

 団地の手前には急な坂がある。そのうえ団地にはエレベーターがない。必然的に、障害者や老人にとって厳しい環境だ。その環境に加えて異様な雰囲気。下見に来た段階で住んでみようという気はなくなる。

 おまけに、ここは所得制限があって入居するのが難しい。以前調べたら、月収の上限がかなり低く決められていた。裁量で若干超過を認めるという記述もあったが、アルバイト生活でも、その月収以下には成り難いと思う。この辺りは田舎ではあるが、時給は都内の水準とほぼ同じ。アルバイト生活でも団地の所得制限には引っかかりそうだ。こうした事情から、この辺りには人気がない。

 

 さて――

 僕はキヨとネネを連れて自宅の方からは見えない領域に入る。

 そこはもう少し行くと行き止まりという場所。

 その先には数件の一戸建てがあるだけ。

 この辺りまで来ると、何かぞわりとする。

 キヨは緊張して口を閉じたまま。

 足元にいるネネは何かをじっと見つめており、毛が逆立っている。

 何かがいるのかもしれない。

 僕はネネの視線の先を見た。

 そこには道祖神があった。

 だが、ただの道祖神ではない。

 なぜか、道路の真ん中に、石で囲まれた道祖神エリアがあるのだ。

 老木が道路の真ん中に残されているケースは、日本全国にある。

 抜こうとして祟りがあったとか、地域の強い抵抗があったとか。

 大抵、理由はそのどちらかだろう。

 だが、道祖神はどうなのか。

 ここは新興住宅地で、なおかつ人が寄り付かないエリアなのだから、地域の抵抗など有り得ない。

 だとすれば、祟り以外には考えられない。

 僕は、ここまで来たのだから、手だけは合わせておこう、と思った。

 でも、それは間違いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ