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混沌の十二日  作者: 藤原時照


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五日目(2)

 その後、僕たちは滑り台に向かった。

 この公園の名物のながーい滑り台へと。

 今日は暦の上では平日。

 読み通り、そこは結構空いていた。

 順番待ちは2~3組だけ。

 それほど待たずに僕たちの順番になった。

 でも、僕は迷っている。

 いままで、親は誰も滑っていない。

 子どもだけで滑らせている。

 大人が利用するのは禁止されているのだろうか。

 もしそうなら、キヨだけで滑らせる?

 キヨならたぶん大丈夫だと思う。

 でも、キヨの見た目は幼児。

 幼すぎるのが問題かもしれない。

 僕に対する周囲の視線という面で。

 並ぶ前に、ルールが書いてある看板を見ておくべきだった。

――ああ、周りの視線が気になる……。

 悩んだ末、僕はキヨと一緒に滑ることにした。

 僕はキヨを膝の上に置き、カメラは自分たちに向ける。

 この体勢で滑り降りた。

――速い!

 僕の体重が加わったおかげなのか、ほかの子どもたちが滑るよりもスピードが出た。

「うきゃー」

 キヨは大喜び。

「もっかい、もっかい」

 キヨにねだられた。

 でも、その前に確認だ。

 注意書きには――

『小さい子どもは大人が一緒に――』

――セーフ。

 僕はほっとした。

 つぎは堂々と並ぶ。

 ほかの大人が滑らないのは、お尻が汚れるのを気にしたからだろう。

 何しろ、来ているのはママさんばかりだから。

 またキヨと滑る。

 今度は前方にレンズを向けて滑り降りた。

 そして、滑り降りるとキヨがまたもう一回とせがむ。

 その後、何度も何度も。

「おとしゃん、しっこ」

 もうそろそろ勘弁してほしいと思い始めた頃、トイレタイムでエンドレス滑り台が終わった。

 

「ご飯にするか?」

 トイレの後、僕はキヨに提案した。

「ごっはん、ごっはん、きゃー」

 僕はキヨを肩車して丘を登った。

 この上にはウッドテーブルがある。

 眺めも良いし、昼食にはちょうど良い場所だと思う。

「おー、すごいー」

 キヨが僕の頭を叩いて左を見るように言う。

 そちらを見ると、彼方に富士山が見えていた。

「いいね」

 もちろん、僕は富士山の写真を撮る。

 そのとき、頭に画が浮かんだ。

――望遠で記念写真を撮ろう。

 望遠で撮れば、背景の富士山は大きく写る。

 今日は三脚を持っていないけれど、カメラをウッドテーブルの上にでも置いて撮れば良い。

 人がいればカメラが盗まれないか気になるけれど、この丘の上なら心配ない。

 人はほとんど居ないから、安心して記念撮影ができる。

 ここまでの上りでちょっと息が切れている。

 でも、良い写真を撮るためなら、そんなことは気にならない。

 僕はさっさと撮る準備を始めた。

「ちょっとここに立ってて」

 位置決めのため、キヨに立ってもらった。

 僕の愛機にはWi‐Fi機能がついている。

 僕はその機能をONにして、スマホアプリを設定する。

 これでスマホをリモコンとして使えるようになる。

 僕は12‐50mmのズームリングを回してテレ端にし、カメラをウッドテーブルの上に置いた。

 そして、モニターを見ながら、構図を決める。

 構図を決めたら、レンズの下にハンカチを折って挿し入れ、その角度を維持する。

 僕はキヨの隣へと走った。

「行くぞ、三、二、一」

 僕はリモコンのボタンを押した。

「ちゃんと撮れたかな」

「とれたかにゃー」

 僕たちはカメラのモニターをチェックする。

「おー、おとしゃんじょうず」

 良い感じに富士山が背景に入っていた。

 もっとも、フルサイズ換算で100mmだから、良く見かけるビル街の後ろに大きな富士山、みたいな拡大率ではないけれど。

 撮った写真が増えるほど、僕とキヨの親子の絆が深くなっていく気がする。

 ちゃんと父親が務まっている気がする。

 そう思ったら、なんだかうれしくなった。

「じゃあ、ご飯にするか」

「ごっはんー」

 まず、僕はウェットティッシュで自分とキヨの手を拭いた。

 今日のご飯はお握りだから念入りに。

「おっにぎぎ、おっにぎぎ」

 お握りはコンビニで買ったもの。

 種類はキヨに選ばせた。

 キヨが選んだのは僕の好み半分、渋いの半分という感じ。

 渋いのはきっとお婆さんの記憶をもとに選んだんだと思う。

「おー」

 ビニールを手順に従って剥がすのをキヨは食い入るように見ている。

「ほれ」

「あー」

 お握りぐらい自分で持って食べるかと思ったけど、そうはならなかった。

 これだと僕は食べられない。

 ずっとキヨのお握りを片手に持っていることになるから。

「おとしゃん、かわいばんこ」

 どうやら、キヨは一つのお握りを二人で交互に食べれば良いと思っているらしい。

「自分で持って食べないの?」

「やー」

 キヨは身体もぷるぷると振って全身で拒否を表現する。

――ここでわがままを許さないのが教育なのかもしれない。

 そう思いはしたが、僕には無理そうだ。

 それに、キヨは人の姿になってまだ数日しか経っていない。

 もう少し甘やかしても良いんじゃないかと思う。

 僕は甘すぎるだろうか。

――でも、もう少しだけ……。


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