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混沌の十二日  作者: 藤原時照


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四日目(3)

「あたま大丈夫か―」

 言った後に気づいたが、これは頭がおかしいという意味ではない。

 頭をぶつけないか気づかったわけで。

「だいじょーぶー」

 キヨは僕の失言を気にすることなく明るく答えた。

 それでも僕は、肩車したキヨが玄関のドア枠に頭をぶつけないよう、少し腰を落としながら外に出た。

 鍵をかけていると、隣のドアが開いた。

「あら、おはようございます」

「おはようございます」

「おっはー」

「キヨちゃんはいつも元気ねー」

 隣の奥さんだ。

 彼女はキヨを知っている様子。

 ここでも現世の情報が書き換えられているらしい。

 いまはそれで良い。

 深く考える必要はない。

 書き換えは自分に都合の良い方向に機能しているから。

 でも、それはいつか逆の方向に働くのではないか、という懸念もある。

 気づいたら、僕やキヨの情報が消されているかもしれない。

 いや、余計な事を考えてはならない。

 それが具現化するかもしれないから。

 望むもの、あるいは恐れるものは具現化する。

 その混沌の作用は、幽世ほどではないにしろ、この現世でも機能している。

 いまの僕はそれを知っている。

 

 自宅の斜め前の公園。

 いまは誰もいない。

 僕たちの貸し切りだ。

 公園でキヨを降ろそうとしゃがんで頭を下げた瞬間、キヨは奇声を上げて飛び降りた。

 僕の後頭部に手をついて、跳び箱をするような感じで。

「うひょひょー」

 キヨは奇声を上げながら走って山に登った。

 山とは、一メートルほどの高さの構造物。

 表面が滑らかなので、滑り台のような使い方を想定しているのだろうか。

 この山は、つい最近設置されたばかりのもの。

 ジャングルジムや鉄棒が撤去されて、その代わりにこれができた。

 どこかのモンスターなんとかという方々の運動の成果なんだろう。

 そう考えると、この公園にブランコが残ったのは奇跡なのかもしれない。

 公園を見回すとベンチが目立つ。

 鉄棒のあった場所もベンチになっている。

 老人がやたらと多い地区なので、ターゲットが子どもから老人になったのだろうか。

 キヨに目を戻すと、もう山の上にはいなくなっていた。

 今度は滑り台に登っている。

 僕は慌ててそちらに向かった。

 だが、僕が滑り台にたどり着いた時、キヨはすでに滑り台のてっぺんにいた。

「たかいー」

 キヨは滑り台の上でぴょんぴょんとはねている。

 僕は気が気ではない。

「おとしゃん、しゃしん」

 僕はキヨに促されて写真を撮った。

「しゅべる、とってー」

 キヨはちゃんと滑り方を知っていた。

 キヨがどこまで人の常識を持っているのか、僕は知らない。

 だから、心配している。

 でも、キヨは意外と常識を持っているのかもしれない。

 クダであった時、お婆さんに憑いていたのだから、きっと彼女から知識を得ているのだろう。

――だったら楽で良いんだけど。

「もっかい。こんど、こっち」

 キヨは滑り台の下りた先で正面から自分を撮るように催促している。

 僕はキヨが滑るところを、静止画ではなく動画で撮ることにした。

 僕の愛機は30fpsに限定されるものの、4K動画を撮ることができる。

 僕は迷わず最高画質を選んだ。

「ちゅぎ、ぶやんこー」

 キヨはブランコに走った。

 僕は録画を止めずに後を追う。

 キヨの走りに危な気はない。

 運動能力も幼女のものではなさそうだ。

――ひょっとして、あの口調はわざと?

 キヨは自分よりずっと年上なんだから、そんな疑問も頭に浮かぶ。

 僕は、それでも良いか、と思った。

 キヨとの家族ごっこは、ずいぶん前からごっこではなくなっている。

 すでにキヨのことを自分の娘だと思っている。

 だから――

「おとしゃん、おすー」

 僕はキヨに言われるまま、後ろから押した。

「んひゃひゃひゃー」

 最初のうち、キヨはブランコに腰掛け、僕に押されるままだったが、途中から立ち上がり、自分でこぎ出した。

 やっぱり幼児の動きじゃない。

 僕は再度そう思った。

「キヨは滑り台の滑り方とかブランコのこぎ方とかちゃんと知っているんだね」

 僕は、キヨがブランコに満足したあと、そう聞いてみた。

「ん。たのしーの、やいたかった。じゅっとみてた」

 クダであった頃、人が楽しそうにしているのを見て、ずっとやりたかったということらしい。

 興味を持ったことだけ記憶している。

 そんなところだろう。

 興味のないトイレについては知識がなかったようだし。

 何となく、これからどうやってキヨと付き合っていけばいいか分かった気がする。

 要は、勉強嫌いな子どもを扱うような感じで良いんだ。

 それなら、父親初心者でもなんとかなりそう。

 身体が丈夫そうなのもありがたい。

 僕が心の中で頷いていると、キヨが僕の元に走って来た。

 どうやら、一通り遊んで満足したらしい。

「うちでお茶飲んで休憩するか」

「ん」

 僕とキヨは手をつないだ。

 すると、キヨは笑顔になり、僕を見上げた。

 自然に僕も笑顔を返した。

 この瞬間が、非常に貴重なものに思えた。


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