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混沌の十二日  作者: 藤原時照


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四日目(2) 

 昨夜見た作り物のような夕景は、妙に心惹かれる景色だった。

 あの空の色がもう少し暗くなったら、天の川や星雲の迫力が増すはず。

 僕はそれに期待している。

 ついでに、夢の中で彷徨っている人に会いたい。

 彼らに触れることで、あのお婆さんに触れた時のように、現世と幽世の秘密が手に入ると思うから。

 しかし、夜に幼児を連れ歩くのは非常識だ。

 キヨの見た目は幼児。

 クダであった頃まで計算に入れれば僕より年上なのだが、周囲の人たちには普通の幼児にしか見えないだろう。

 これからの生活では、キヨのことは完全に幼児だと見なすべきなのだろうか。

 僕はどうすべきなのだ。

 そもそも、キヨはどこまで人なのだろう。

 キヨは人の形をしているだけの霊獣なのか。

 それとも、完全に人間になったのか。

 答えはみつからない。

 諸々考えた末、何も結論は出ない。

 そんなときは――

 考えても無駄。

 僕はただ楽しめばいい、と思うことにした。

 ということで、今夜はキヨと夜の幽世めぐりだ。

 あそこは言うなれば夢の中の世界。

 肉体のまま訪れても睡眠時間にカウントされているようだ。

 現世で目覚めてから、睡眠を十分にとった感じがあったのだから間違いない。

 そういうことだから安心して楽しめる。

 それでもキヨが眠そうに見えたら、こちらに戻ってくれば良い。

 一番の目的は彷徨っている人に会って情報を手に入れること。

 比較的早い時間に行っても情報は手に入るだろう。

 早い時間に寝る小さい子どもを狙えば良いのだから。

 小さな子どもだって、プロテクトはかかっていないはずだ。

 だから、何らかの情報は手に入ると思う。

 それどころか、幼い子どもたちの中には、生まれる前のことを憶えている子もいるという話だから、輪廻に関わる情報まで手に入るかもしれない。

 幽世巡りはまるで宝探しのようだ。

 しかし、夜までには、まだ時間がある。

 それまでどうするかだ。

 一人だったら写真を撮りに行く。

 それは間違いない。

 でも、いまはキヨが居る。

 キヨは僕の道楽に付き合ってくれるだろうか。

 きっと退屈するだろう。

 もしもそうなったら、キヨに振り回されて、写真を撮るどころではなくなるかもしれない。

――まあ、それでもいいか。

 意外にも、いまの僕は、キヨを優先して考えても抵抗がない。

 僕の中にはキヨに対する愛情のようなものがあるらしい。

――家族写真でも撮るか。

 僕はキヨのことをどのくらい理解しているのだろう。

 キヨは人としての振る舞いを身につけているのか?

 いや、人間の幼児も、人としての振る舞いを身につけているわけじゃない。

 それどころか、最近は放置されて育った動物のような子どもも目立つ。

 考えてみれば、キヨの方がよほど人間らしい。

 心配する必要などないかもしれない。

 問題があるとすれば、たぶん僕の方だ。

 キヨとどう接するかをまじめに考えるべきだろう。

 キヨを見た目通りの幼児として考えたり、自分より長く生きている者と考えたり、一貫性がないことは、自分でも気がついている。

 でも、何が正解なのか。

――当分は、キヨの好きにさせよう。

 様子を見ながらキヨとの付き合い方を考えれば良い。

 それ以外思いつかないし。

「キヨ、散歩でも行く?」

「いくー」

 そう言った途端、キヨは僕の身体をよじ登った。

 どうやら、肩車の状態が、外出する時のデフォルトポジションだと思われているようだ。

――まあ、良いか。

 肩車をしていれば、迷子になることもないだろう、と独り納得した。

――さて、まずは近場の公園からかな。

 考えてみると、僕は自分の住んでいる町のことを良く知らない。

 知っているのは、通勤経路とスーパーやドラッグストアに続く道。

 あとはバードウォッチングに良い場所とか道祖神の情報とか、ネットで調べればわかる程度のことだけだ。

 最近は、公園で休んでいても、子連れのママさんに不審者と断じられ、警察を呼ばれる時代。

 だから、僕は家の斜め前にある公園にさえ行ったことがない。

 でも、今日はちがう。キヨという大義名分が居てくれるから。

「左足出せー」

「ん」

 キヨは右足を前に伸ばした。

「そっちは右。反対」

「んー」

 僕は肩車したキヨに靴を履かせた。

 靴はマジックテープで留めるようになっていて、履かせるのは簡単だった。

 ちなみに、これもキャラクターものだった。

 白くて耳の長い動物だけど、僕には、それが犬なのか猫なのか、はたまた兎なのかわからない。

「こんどは右―」

「んー」

 キヨぐらいの歳の頃、僕はどうだったのだろう。

 親に靴を履かせてもらったことはあるはずだ。

 でも、憶えていない。

 きっとそれは最初だけだったのだろう。

 昔を思い起こしても、僕には何かにつけて暴力で親の都合を強要された記憶しか残っていない。

 僕は自分が嫌だったことをキヨにしようとは思わない。

――キヨとはわかりあえている気がするから、そう酷いことにはならないさ。

 僕はそう気楽に考えることにした。


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