三日目(3)
「おとしゃん」
そこには浴衣を着た小さな女の子がいた。
愛嬌のある丸顔。
狸顔という人もいるかもしれない。
それは僕の母方の一族に多い顔つきだ。
一目見て、僕はそれがキヨだと思った。
「キヨ?」
「おとしゃんー」
もう一度僕を呼んで、小さなキヨは僕の腿にしがみついた。
僕の中からいままで知らなかった何かが溢れ出てきた。
それはとても幸せなもの。
生きる喜びと言っても良い。
――そうか。僕はキヨの父親なんだ。
病魔に身をやつしていたキヨは、僕が触れることで、穢れを吐き出して白くなった。
僕から何かを取り込んで変わったのだ。
そして、僕の領域で人の姿になった。
キヨの身体の多くは、僕由来の何かで形づくられていると言えそうだ。
生物学的と言って良いのかわからないが、キヨの身体が僕由来のものでできている以上、僕は間違いなくキヨの父親なんだ。
父親なら、キヨが二度と黒くならないよう、僕が気をつけてやらなければならない。
――まずは二人で祭りを楽しもう。
僕は唐突にそう思った。
ひょっとしたら、キヨの思いが流れ込んで来たのかもしれない。
そんな気もした。
「キヨ、リンゴ飴食べるか?」
「たべゆー」
僕はキヨを抱き上げ、リンゴ飴の屋台に向かった。
屋台は無人。
でも、前に立つと、知らないうちにリンゴ飴がキヨの手の中にあった。
僕は、値段が書いてあるポップをちらりと見て、五百円玉を置いた。
キヨはリンゴ飴を持ってご機嫌だった。
食べずにいろいろな角度から眺めている。
だけど、いざ食べるというときになって顔が曇った。
口が小さすぎて齧れないのだ。
齧ろうとして、いろいろ試しているのは可愛かったのだが。
「ん、おとしゃん、きゃじって」
キヨは突破口を僕に求めた。僕の頬にリンゴ飴を押し付けながら。
僕はキヨの言う通り、ちょっとだけリンゴ飴を齧った。
キヨは笑顔を浮かべ、僕が齧った場所を突破口に、小さな口でがじがじと齧り始めた。
「おいち」
「うん、おいしいね」
僕たちは笑顔のまま階段を上り、社へと続く道に出た。
そして、そのままのんびりと進む。
社に続く道の手前には神楽殿がある。
そこには大勢の巫女がいた。
彼女たちは、僕たち二人を見ても、何ら反応を示すことなく舞い続けた。
彼女たちの写真を撮ろうかと思ったが、勝手に撮るのはいかがなものかと思い直し、その場を立ち去った。
後ろから巫女たちの声が聞こえる。
さっきまでは楽の音が聞こえていたが、いまは祝詞に代わっている。
景色が流れる。
気づくと、僕たちはコンビニの前にいた。
「おとしゃん、ごみ、しゅてゆ」
キヨは棒を振っている。
――あれ、芯は?種は?
キヨはリンゴの芯まできれいに食べていた。
ゴミ箱の前に屈むと、キヨは手を伸ばしてリンゴ飴の棒を捨てた。
「キヨは良い子だね」
「ん。おとしゃんもいいこ」
たわいもない会話。
そこに幸せを感じる。
それはいままで知らなかった幸せ。
コンビニを離れると、古本屋が目に入った。
今日は引き戸が開いている。
まるで僕を誘うように。




