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混沌の十二日  作者: 藤原時照


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三日目(3)

「おとしゃん」

 そこには浴衣を着た小さな女の子がいた。

 愛嬌のある丸顔。

 狸顔という人もいるかもしれない。

 それは僕の母方の一族に多い顔つきだ。

 一目見て、僕はそれがキヨだと思った。

「キヨ?」

「おとしゃんー」

 もう一度僕を呼んで、小さなキヨは僕の腿にしがみついた。

 僕の中からいままで知らなかった何かが溢れ出てきた。

 それはとても幸せなもの。

 生きる喜びと言っても良い。

――そうか。僕はキヨの父親なんだ。

 病魔に身をやつしていたキヨは、僕が触れることで、穢れを吐き出して白くなった。

 僕から何かを取り込んで変わったのだ。

 そして、僕の領域で人の姿になった。

 キヨの身体の多くは、僕由来の何かで形づくられていると言えそうだ。

 生物学的と言って良いのかわからないが、キヨの身体が僕由来のものでできている以上、僕は間違いなくキヨの父親なんだ。

 父親なら、キヨが二度と黒くならないよう、僕が気をつけてやらなければならない。

――まずは二人で祭りを楽しもう。

 僕は唐突にそう思った。

 ひょっとしたら、キヨの思いが流れ込んで来たのかもしれない。

 そんな気もした。

「キヨ、リンゴ飴食べるか?」

「たべゆー」

 僕はキヨを抱き上げ、リンゴ飴の屋台に向かった。

 屋台は無人。

 でも、前に立つと、知らないうちにリンゴ飴がキヨの手の中にあった。

 僕は、値段が書いてあるポップをちらりと見て、五百円玉を置いた。

 キヨはリンゴ飴を持ってご機嫌だった。

 食べずにいろいろな角度から眺めている。

 だけど、いざ食べるというときになって顔が曇った。

 口が小さすぎて齧れないのだ。

 齧ろうとして、いろいろ試しているのは可愛かったのだが。

「ん、おとしゃん、きゃじって」

 キヨは突破口を僕に求めた。僕の頬にリンゴ飴を押し付けながら。

 僕はキヨの言う通り、ちょっとだけリンゴ飴を齧った。

 キヨは笑顔を浮かべ、僕が齧った場所を突破口に、小さな口でがじがじと齧り始めた。

「おいち」

「うん、おいしいね」

 僕たちは笑顔のまま階段を上り、社へと続く道に出た。

 そして、そのままのんびりと進む。

 社に続く道の手前には神楽殿がある。

 そこには大勢の巫女がいた。

 彼女たちは、僕たち二人を見ても、何ら反応を示すことなく舞い続けた。

 彼女たちの写真を撮ろうかと思ったが、勝手に撮るのはいかがなものかと思い直し、その場を立ち去った。

 後ろから巫女たちの声が聞こえる。

 さっきまでは楽の音が聞こえていたが、いまは祝詞に代わっている。

 景色が流れる。

 気づくと、僕たちはコンビニの前にいた。

「おとしゃん、ごみ、しゅてゆ」

 キヨは棒を振っている。

――あれ、芯は?種は?

 キヨはリンゴの芯まできれいに食べていた。

 ゴミ箱の前に屈むと、キヨは手を伸ばしてリンゴ飴の棒を捨てた。

「キヨは良い子だね」

「ん。おとしゃんもいいこ」

 たわいもない会話。

 そこに幸せを感じる。

 それはいままで知らなかった幸せ。

 コンビニを離れると、古本屋が目に入った。

 今日は引き戸が開いている。

 まるで僕を誘うように。


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