三日目(2)
ここは山の中を走る道路。
まっすぐ谷間を走る道が、すぐ前で右に分岐している。
その角の部分には丘を上る小道があり、その小道の先、丘の上には家が見える。
――知っている。僕はここを知っている。
ここは何度も夢に見たことのある場所。
――確か、この上には……。
僕は見覚えのある小道を上った。
そこには家があり、その前には塀のない庭がある。
その庭には、あちこちに花が咲いていて、花の上には作り物のような蝶がいる。
そこには夢で見た通りの景色があった。
蝶たちは花の上でゆっくりと羽を動かしている。
夢の中では近づいても蝶たちは逃げなかった。
僕は夢と同じだと考え、気配を消す努力もせずに近づいた。
蝶たちが逃げるとは、露ほども考えなかった。
レンズは19mmのまま。
逃げないと思っているから、望遠で遠くから撮るなんてことはしない。
思った通り、蝶たちは逃げなかった。
だから、僕は思いっきり近づき、19mmという広角レンズで蝶を撮った。
この19mmは、フルサイズ換算で38mm。
標準レンズよりもやや広角気味ではあるが、スマートフォンほど広角ではないという微妙な位置づけ。
しかし、このシ〇マの19mmは最短撮影距離が20cm。
レンズ先端からではなく、カメラ内部のセンサーから20cm。
ものすごく被写体に近づくことができる。
近づいて大きく撮れるのだ。
僕はいろいろな角度から蝶たちを撮った。
そして、気づいてしまった。
花も作り物なのだ。
花びらや葉は本物っぽい。
だけど、茎や枝はただの真っすぐなパイプだ。
考えてみれば、ここには夢の中で何度も来た。
そして、花はいつも同じ姿で咲いていた。
命のない作り物。
そういうことだ。
この場所は作り物。
だが、もう少し手を加えれば、現世のようになるのかもしれない。
ここが僕の夢だという前提で、僕は妄想をめぐらす。
――そうだ。
僕はあることを思い出した。
最初にいた道の先には神社や駅があるはず。
そこには人が住んでいた。
そこに行けば、何か情報が手に入るかもしれない。
あそこは、最初、鳥居があるだけの場所だった。
僕があそこに降り立ったあと、訪れるたびに地域が発展していた。
あそこは僕から生まれ、僕とともに成長した場所だと思う。
あそこでの僕は、神のような役割を担っていた気がする。
自分が神になる夢は現実が思い通りにならない欲求不満の顕れ。
それが夢の定義。
でも、僕はそうではないと思う。
いまあそこに行ったら、僕はどうなるのだろう。
僕は神としての力を揮えるのだろうか。
ここは、望むもの、あるいは恐れるものが顕現する世界。
自分が神であると心から信じたらどうなるのだろう。
夢に見た神社は確か四~五か所ある。
この先にあるはずの神社は最も小さなもの。
でも、あそこは僕の影響でゼロから拓かれた場所。
ほかの神社は、境内が最初からあったり、社が最初から建っていたり、少しだけ基盤ができていた。
ゼロから拓かれた場所なら、僕の影響が大きいはず。
僕の願いが叶いやすかったりしないのだろうか。
大した根拠もないのに、僕の思考はそんな方向に流れた。
夢の通り、あの神社が本当にあれば、の話ではあるが。
僕は蝶を撮るのを止め、小道を下った。
そして、神社への道を進んだ。
疑う心をねじ伏せて道を進む。
すると、見覚えのある場所に出た。
だけど、そこに人の気配はなく、ただ赤い鳥居が立っているだけ。
それは、はじめてここに降り立った時の風景そのままだった。
そして――
どこに居ても僕は僕。
だから、まず写真を撮った。
何枚か撮って満足すると、僕は調査をはじめた。
調査と言っても、ここにあるのは鳥居と手水舎以外には草と木だけ。
見るものはほとんどない。
小石さえ落ちていないのだから。
僕は鳥居の柱を調べた。
柱に触れながら鳥居をくぐると、景色が変わった。
僕が立っていたのは、やっぱり僕の知っている神社。
それは最も大きな神社だった。
その場所はかつて訪れたことのある、松本の女鳥羽川周辺に似た街並み。
川沿い、そして川原には祭りの屋台が並んでいる。
僕が立っている場所より下流には、ビルをはじめとして、さまざまな建物がある。だが、そこより上流は、僕の神社の社や神楽殿があるだけ。ほかは山。社や神楽殿の隣には、玉砂利が敷き詰められた広い境内がありはするが、そこには何もない。何かが足りない気がする場所。
僕は、何となく川原に降りてみた。すると――




