一日目(1)
【著作権・法的管轄に関する注意事項】
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「ピーンポーン」
インターホンの画像を見ると、緑の制服を着た女の子が映っていた。
僕はインターホンには出ず、そのままドアを開けた。
――待ってました。
そう口に出しそうだった。
「宅配便でーす。福原次郎様で間違いないでしょうか」
「はい」
僕は彼女の出す伝票に認め印を押し、礼を言った。
「ありがとうございました」
「……?ありがとうございました」
彼女は、客である僕が丁寧に礼を言ったのに戸惑ったのか、礼を返すのに間があいた。だが、そんなことはどうでもいい。大事なのは配達された荷物だ。僕は玄関のカギをかけなおす時間も惜しみ、小走りでダイニングへ向かった。
段ボールを開封すると、そこには封筒があった。
その中には送り状と保証書が入っているはずだ。
だが、そんなものは後で良い。
気持ちが急く僕は、その封筒を脇に放り投げた。
そして、段ボールの中蓋をはずす。
いま、僕の目の前にはプチプチで包まれた塊がある。
その塊は、搬送中に動かないよう、立体的に折られた段ボールの台にラップで固定されていた。
これこそが待ちに待ったもの。
それは中古のレンズ。
ずっと昔に販売中止になったけれど、一部の人たちから支持されている個性的なレンズ。
シ〇マ 19mm F2・8 DN。
このレンズのピントリングには滑り止め加工がなく、ボディは全面つるつる。見た目のインパクトはあるが、滑って使い勝手が悪いと当時は不評だったらしい。でも、いくつかの作例を見て、僕はそのレンズで切り取った世界に魅せられてしまった。
――欲しい。
だが、状態の良いレンズはなかなか見つからない。中古ショップで見つけても大抵は傷だらけ。落とした痕跡があるものも多かった。つるつるボディの弊害だ。
傷だらけでもいいか、そう思い始めたときに見つけたのがこのレンズだ。
僕はサイト上で写真を確かめ、すぐに購入ボタンを押した。
いま、そのレンズが手元にある。
僕は段ボールからレンズを取り出してプチプチをはがすと、さっそくレンズの確認を始めた。
外観は問題なし。
問題は中身だ。
レンズ内に小さいゴミが混入しているのはしょうがない。
画像に影響が出そうな大きなゴミがなければ良い。
「よし!」
思わずそう叫んでしまった。
周りに人が居なくてよかった、と僕は思った。
自分では気がついていなかったが、かなり興奮していたようだ。
僕はレンズをカメラに装着した。
オ〇ンパス E‐〇1 Mark Ⅱ。
これが僕のカメラ。
それはかなり古いモデル。
設定メニューがもう少し洗練されていたら、なんて思うことはある。
けれど、ハードウェア的には、ひとつの完成形だと僕は思っている。
そのカメラで、僕は簡単に試写を行った。
本棚。
ガラス瓶。
PCのキーボード。
それから……。
動作には問題がない。
中古にはリスクがあり、返品可能期間が定められている。だから、問題ないと確信できるまで、僕はレンズと距離を置く。あとになって瑕疵が見つかると、ショックが大きいから。
確認が終わったいま、僕はレンズに愛情を注ぐ。
もう誰にも渡さない。
僕は心の中で、そう呟いた。
僕はいつものリュックを背負って外に出た。
首にカメラをぶら下げて。
明日からはゴールデンウィーク十連休。
ついでに前後一日を有給にしたので十二連休だ。
向かいの席に座る同僚に嫌味を言われたけれど、そんなことは気にしない。
――さて、何を撮ろうかな。
ここは、東京駅まで一時間で行ける、そこそこ都会――と現実を知らない人には思われている地域。実際には、いくつかの里山が丸ごと残されていて、自然も楽しめる場所だ。よく言えば。
はっきり言うと、ここは間違いなく田舎だ。でも、僕はこの環境に適応し、普段は野鳥を中心にカメラライフを楽しんでいる。
だが、今日の主役は19mm。
生き物よりも風景だ。
何を撮ろうか迷っていたとき、僕は道端の道祖神に気づいた。
ここは比較的新しい住宅街。
道路計画も開発業者の設計によるもの。
抜け道に使われないように、道路を曲線基調にし、あちこちに行き止まりが作られている。
でも、なぜか町の所々に、何百年も前につくられた古い道祖神が残されている。
まるで、道祖神に合わせて町をつくったようにも――




