表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌の十二日  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/46

一日目(1)

【著作権・法的管轄に関する注意事項】

本作品を取り扱う場合は、以下の契約条件に同意したものとみなされます。

・本契約は日本法に準拠し、日本法に従って解釈されます。

・本作品の無断翻訳や無断公表などの行為は、著作権侵害となる可能性があります。

・本作品を取り扱う際に生じる紛争については、横浜地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。

※本契約内容に同意しない場合は、本作品の取り扱いをお控えください。

「ピーンポーン」

 インターホンの画像を見ると、緑の制服を着た女の子が映っていた。

 僕はインターホンには出ず、そのままドアを開けた。

――待ってました。

 そう口に出しそうだった。

「宅配便でーす。福原次郎様で間違いないでしょうか」

「はい」

 僕は彼女の出す伝票に認め印を押し、礼を言った。

「ありがとうございました」

「……?ありがとうございました」

 彼女は、客である僕が丁寧に礼を言ったのに戸惑ったのか、礼を返すのに間があいた。だが、そんなことはどうでもいい。大事なのは配達された荷物だ。僕は玄関のカギをかけなおす時間も惜しみ、小走りでダイニングへ向かった。

 段ボールを開封すると、そこには封筒があった。

 その中には送り状と保証書が入っているはずだ。

 だが、そんなものは後で良い。

 気持ちが急く僕は、その封筒を脇に放り投げた。

 そして、段ボールの中蓋をはずす。

 いま、僕の目の前にはプチプチで包まれた塊がある。

 その塊は、搬送中に動かないよう、立体的に折られた段ボールの台にラップで固定されていた。

 これこそが待ちに待ったもの。

 それは中古のレンズ。

 ずっと昔に販売中止になったけれど、一部の人たちから支持されている個性的なレンズ。

 シ〇マ 19mm F2・8 DN。

 このレンズのピントリングには滑り止め加工がなく、ボディは全面つるつる。見た目のインパクトはあるが、滑って使い勝手が悪いと当時は不評だったらしい。でも、いくつかの作例を見て、僕はそのレンズで切り取った世界に魅せられてしまった。

――欲しい。

 だが、状態の良いレンズはなかなか見つからない。中古ショップで見つけても大抵は傷だらけ。落とした痕跡があるものも多かった。つるつるボディの弊害だ。

 傷だらけでもいいか、そう思い始めたときに見つけたのがこのレンズだ。

 僕はサイト上で写真を確かめ、すぐに購入ボタンを押した。

 いま、そのレンズが手元にある。

 僕は段ボールからレンズを取り出してプチプチをはがすと、さっそくレンズの確認を始めた。

 外観は問題なし。

 問題は中身だ。

 レンズ内に小さいゴミが混入しているのはしょうがない。

 画像に影響が出そうな大きなゴミがなければ良い。

「よし!」

 思わずそう叫んでしまった。

 周りに人が居なくてよかった、と僕は思った。

 自分では気がついていなかったが、かなり興奮していたようだ。

 僕はレンズをカメラに装着した。

 オ〇ンパス E‐〇1 Mark Ⅱ。

 これが僕のカメラ。

 それはかなり古いモデル。

 設定メニューがもう少し洗練されていたら、なんて思うことはある。

 けれど、ハードウェア的には、ひとつの完成形だと僕は思っている。

 そのカメラで、僕は簡単に試写を行った。

 本棚。

 ガラス瓶。

 PCのキーボード。

 それから……。

 動作には問題がない。

 中古にはリスクがあり、返品可能期間が定められている。だから、問題ないと確信できるまで、僕はレンズと距離を置く。あとになって瑕疵が見つかると、ショックが大きいから。

 確認が終わったいま、僕はレンズに愛情を注ぐ。

 もう誰にも渡さない。

 僕は心の中で、そう呟いた。

 僕はいつものリュックを背負って外に出た。

 首にカメラをぶら下げて。

 明日からはゴールデンウィーク十連休。

 ついでに前後一日を有給にしたので十二連休だ。

 向かいの席に座る同僚に嫌味を言われたけれど、そんなことは気にしない。

――さて、何を撮ろうかな。

 ここは、東京駅まで一時間で行ける、そこそこ都会――と現実を知らない人には思われている地域。実際には、いくつかの里山が丸ごと残されていて、自然も楽しめる場所だ。よく言えば。

 はっきり言うと、ここは間違いなく田舎だ。でも、僕はこの環境に適応し、普段は野鳥を中心にカメラライフを楽しんでいる。

 だが、今日の主役は19mm。

 生き物よりも風景だ。

 何を撮ろうか迷っていたとき、僕は道端の道祖神に気づいた。

 ここは比較的新しい住宅街。

 道路計画も開発業者の設計によるもの。

 抜け道に使われないように、道路を曲線基調にし、あちこちに行き止まりが作られている。

 でも、なぜか町の所々に、何百年も前につくられた古い道祖神が残されている。

 まるで、道祖神に合わせて町をつくったようにも――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ