第6話 夢
目が覚めると、そこは病院だった。
白い天井。
細い光がカーテンのすき間からこぼれて、ぼんやりとまぶしい。
——ああ、ここか。
俺は、5歳のころの自分になっていた。
それが夢だと気づいているのに、息の重たさも、心臓の鼓動の痛みも、なぜか本物のように感じる。
生まれたときから心臓が弱くて、たくさん走ることも、深く笑うこともできなかった。
父親はいない。
母親は、ときどきしか来ない。
母親がくれたのは、この弱い体と、「Tae」という女っぽい名前。
ある日きいた。
「どうして、このなまえなの?」
母親は小さく首をふって、目をそらした。
「……ごめんね」
——あのときの「ごめんね」が、まだ耳に残っている。
14歳になった今も。
あとで知ったことだが、命名法で三文字が限界だったらしい。
きっと、それだけの理由。
ベッドのそばに置かれたカレンダーには、
2061年4月20日と書かれていた。
医者が言っていた。余命は2年。
——でも、あと二回だけ春を迎えられる。
それが、5歳の俺の小さな希望だった。
外の世界では、変なうわさが流れていた。
蚊に刺されるとびっくりするほど痛いとか、テレビに出る政治家たちが、どんどん若返っているとか,世界が歪んで見えるとか。
そんな話を聞くたびに、俺は思っていた。
「5年後、この世界はどうなってるんだろう」
机の上には、母親が置いていった古いスマートフォン。
角が欠けて、充電ももうできない。
最後のメッセージは、冬の日のものだった。
「また来るね」
けれど、その“また”は、とうとう来なかった。
——ピッ、ピッ、ピッ。
電子音が静かに鳴る。
それは、幼い自分の心臓の音のようでもあり、
14歳の今の俺を呼び戻す合図のようでもあった。
そして、目を開ける。
夢の中の俺は、まだベッドの上で、小さな手を握りしめていた——。




