第5話 アレス参上
オレンジ色の液体が、地面に散った。
鉄の匂いじゃない、少し甘ったるいような匂いが鼻を刺す。
「ちくしょう...」
AIは膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
AIの残骸は沈黙したまま、もう動く気配はない。
シオンが息を吐きながら、肩で笑った。
「……ふぅ……チュートリアル、クリアってとこか」
「……お前、どの口で言ってんだよ」
俺も力が抜けて、左手の定規を地面に落とす。
定規の表面には、ヒビがいくつも走っていた。
ふと、静けさが戻る。
鳥の鳴き声も、風の音も、やけに遠く感じる。
人の姿も、車の音もない丘の上。
まるで、世界に二人だけ取り残されたみたいだった。
「……あれ……?」
足元がふらつく。
緊張の糸が切れた瞬間、右手の痛みが一気に襲ってきた。
脈打つようにズキズキと焼けるようで、呼吸が浅くなる。
「たえ!? おい、大丈夫かっ」
シオンの声が遠くなる。
視界の端が白くぼやけて、世界が静かに遠ざかっていった。
もう立っていられなかった。
身体が勝手に崩れ落ちる。
最後に見えたのは、焦った顔のシオンと、遠くの空に溶ける夕焼けそれと...
「ヤッホー、助けに来たぞー」
上空から手をひらひらさせながら現れたのは、Aresだ。
「……アレス!? なんでここに...?」
「ん? いや~、たまたま通りかかってさ。上から見てたわけ。もしかして結構危なかった?」
まったく緊張感のない口調に、シオンは思わず肩の力が抜けた。
「……来るの遅い……マジで死ぬかと思ったんだが」
「はいはい、そーゆーのあとで聞く。まずはこれ飲ませとけ」
アレスはポケットから小瓶を取り出し、片膝をついてたえの口元へ差し出す。
透明な液体が光を反射する。
「エナジーリペアNo.5。味は最悪だけど、効果は保証するぜ」
「不味い...」
かすかに呻きながら、それを一口だけ飲み下した。
少しだけ頬に血色が戻る。
「たえは俺が運んでやる。シオン、お前は後処理を頼む」
「ええ……俺も気絶しそうなんだけど...」
意識が完全に途切れる直前――
風の中で、アレスの小さな独り言が聞こえた。
「……まったく。右手まで潰して、よく倒したな。
――やっぱり、“こいつ”は仕込みが必要だな」
その言葉が、薄れていく意識の中で、いつまでも響いていた。
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