第17話 彗星の夜の戦い
「少年立てるか?」
敵の大きな握りこぶしを止めながら、男は言った。
横のシオンを見るが、アワアワしている。
戸惑いながらも返事をする。
「そこに倒れてる女性......何があったか詳しくわからないけどっ......出血がひどい」
敵からの猛攻をバリアと身のこなしで搔い潜りながら続ける。
「このままだとまずい」
自死の恐怖から忘れていたが、男からの掛け声で思い出す。
彼女は刺されていたことを。
人間の肉体を串刺しにする生々しい音が、脳内で再生され、男の言ってることが全く分からなくなってしまった。
彼女は生きてるのかが気になり、目を向ける。
すると視界には、さっき自分をおぶってくれた彼女が、ピクリとも動かずに横たわっていた。
人体から出た量とは思えないほどの血液が、水たまりのように広がっている。
頭が真っ白になった俺を励ますように男は言葉を投げかけているが、頭がそれを受け付けない。
心拍が早くなり、呼吸が、酸素が取り込めなくなる。
体が動かない......
「彼女はまだ生きてる」
いつの間にか男が横にいた。
敵も男を狙ってマシンガンのように殴り続けるが、バリアによって阻まれている。
敵の攻撃を気にせず、男は俺の両肩に手を置き目を見て続ける。
「大丈夫だ、彼女は生きてる。でも、出血がひどく時間がない。 だから、これを傷口に噴射するんだ」
そう言って見たことのない、注射器のような見た目のキットを渡される。
「俺はあいつを倒さなきゃならない。 頼んだぞ」
男はそう言って敵を吹き飛ばし、追いかけるように飛んでいくのだった。
俺はゆっくり立ち上がり、よろよろと彼女の元へ向かう。
数歩の距離のはずが、何百メートルも離れているような感覚に陥る。
そして、間近まで来れたのはいいものの、血の気が引くほどの出血量で、足が思うように動かない。
血だまりに手と膝をついて4足歩行で何とか傷を処置できる配置につくも、リアルな傷口を見ると手がガタガタ震える。
傷口に注射器の先端を向けるが、うまく照準が定まらなくなってしまった。
人は大量の血を見ると失神してしまうことがあるらしい。
それも成人していようが、男性だろうが関係なく。
むしろ男性の方が血に弱いという説まであるのだ。
こんな話があるらしい。
出産の際に男性が立ち合い、失神してしまうというものだ。
原因として、体質や経験、慣れなどが影響しているらしい。
‟慣れ”
ものごころついた時から病院で過ごしていた俺は、血には慣れていた。
その血に対する‟慣れ”が耐性となって、この時の手の震えを少しづつ抑えてくれるのだった。
男からもらったキットの使い方は分からなかったが、1つしかついていないボタンを押してみると、スプレーのように何かが噴射され、傷口がどんどん塞がっていく。
間に合えッ! 死ぬな、生きろッ...!
そう念じながら、背中側からもキットを使って治療をする。
何分経っただろうか、彼女の治療が終わった。
もうできることはない。
急に体に入っていた力が抜けて、動けなくなってしまった。




