第16話 異質
ドゴォォォォッ......
頭の上から今までに聞いたことのないような、重低音が響いた。
ものすごい衝撃で、建物ごと崩れそうだ。
「なんだ......?」
臨時の待機場がざわつき始める中、シオンのほうに目をやると、雷が落ちた時の子犬のようにフリーズしていた。
「みなさん落ち着いて、その場から動かないで!」
頼もしいことに、看護師の彼女は冷静だった。
「足場が悪いから立たないでっ――」
その瞬間、ボオオォォォッという音とギャァァァァッという悲鳴が耳に入る。
すぐ上からだというのが、音の大きさから分かった。
「何が起きてるのっ...!?」
とても助けが来たとは思えない悲鳴を聞いて、この場にいる全員がパニックになり、だんだんと聞こえてくるガショッ...ガショッ...という音が恐怖を駆り立てる。
その音はだんだんと近づき、皆同じ想いで息を殺す。
ガショッ...ガショッ...
通り過ぎろっ...通り過ぎろっ......
ガショッ...ガショッ...
ついに隣の部屋まで来たようだった。
ガシャンッ
そして、全身黒色で所々返り血を想起させる赤色、見ただけで恐怖を駆り立てるような見た目の殺戮AIが、コウモリのようにぬるりと天井を歩きながら姿を現した。
2メートルほどの身長があり、人間を殺すために設計されたであろうボディの持ち主は、禍々しい武器をこちらに向ける。
「ころッ......されるッ!」
俺を含めみんなパニックの中、1人体当たりをした者がいた。
たった1人の看護師さんだ。
「ああああああっ!」
彼女は敵の持つ武器を使わせないよう、しがみついた。
が、ザクッと聞き慣れない音がしたと同時に目を開くと、彼女の背中をサバイバルナイフのようなものが貫通していた。
血が天井に滴り、ドシャッと彼女は横になっていた。
そのことを気にすることもなく、AIはこちらを向き武器を向ける。
次の瞬間、ボオオォォォと共に目の前が真っ赤に染まり、灼熱に包まれた。
体の表面が熱くなって、人が焼け焦げた匂いがのどを刺し、息を吸うことすら苦しい。
そんな時間が5秒ほど続いたと思う。
炎がやみ、一瞬音もなく無の時間が流れる。
ぎゅっと閉じていた目を開くとそこには、1人の男が立っており、隣にいたシオンや他の人たちも生きているのが分かった。
「大丈夫ですか?」
その男がそう言うと、熱による刺激で意識がない何名かを除き、各々がそれぞれの返答をした。
「あのっ......」
シオンが口を開くと殺戮ロボは動き出す。
ガキィィィンッ...
呼びかけに振り向いた男を容赦なく金属製のこぶしが振りかかった。
人間の大きさとは思えないそのこぶしは、ギリギリと鈍い金属音を出しながら、彼の後頭部直前で止まっていた。
その男はバリアによって敵からのフルスイングを止めていたのだ。
六角形の模様が幾重にも重なって構築されたそのバリアは、完全にゲームの中の代物であり、その異質さに目を離さずにはいられなかった。
そんな俺を置いて、男はさらなる異質さを以て敵との戦いを展開するのだった。




