人は皆、罪人である。
新人です。お手柔らかにお願いします。
「赤坂、よく来たね。マキコさんは、まさか…」
「あぁ、そうだ。」
「そんな…!あのマキコさんが。
……マイちゃん、ミツキくん、つらいだろう。赤坂。俺たちはいつまでもいてもらっていいんだからな。」
「家は探すさ。」
「そうか、とりあえず上がってくれ。」
家族は靴を脱ぎ廊下を進む。
この大きな家を羨ましいと思っていたが、あの小さな二階建ての一軒家を失ってしまうと、そうも思えない。
「こんにちは、カズマさん。ミツキもマイちゃんも、よく来たな。くつろいでくれ。」
「カズマさんこんにちは〜!みっくんもマイも、久しぶりに来てくれたね!ってあたしすっぴんじゃん!」
ドタドタと走っていくアンを見ると、忙しなかった心も少しずつだが癒されていく。
「あら、いらっしゃい、お風呂沸いてるから、順番に入っていってね。服も用意してあるから。」
瀧田ジェシカさん。金髪にスラッとしていて、とても子供2人を産んだと思えない、40前後とは思えない美しさだ。ロシアとのハーフらしい。敬虔なクリスチャンだ。
風呂から出たミツキらは、昼食の豪華さに驚いた。随分としっかりした懐石料理。折敷の新鮮な刺身から強肴のサクサクの鱧天、甘味の優しい甘みの水羊羹までゆっくりと出される料理にカズマは目を見開いてただ箸を動かしていた。
大体の人間美味い食事を摂れば少しは気分が晴れる。
「赤坂、話をしよう。ミツキくん、は、少し休みなさい。」
「いえ、自分も居させてください。状況は理解しているつもりです。」
「!そうか、すごいなミツキくんは」
「おう、とりあえずあの声とラッパみたいな音からだな。ジェシカさんはそういうの詳しそうだけど」
「ちょっと待て待て、僕は構わないけど、良いのか?その、マキコさんは。」
「あぁ、亡くなった。だからこそ、この状況の解決に俺は力を入れたいんだ。」
「そうか、」
「話を戻すが、ジェシカさん、何かわかることがあればで良いんだ。あれはヨハネ?かなんかの話で良いのか?」
「結論から言うと、まだわからない。カズマさんはあまり詳しくないと思うけど、昔ミツキくんとマイちゃんはうちで聖書を読み聞かせたこともあってわかるんじゃない?」
「えぇ、あれはヨハネの黙示録の第一のラッパと状況が酷似しています。血の混じる雹と火が地に降り注ぎ、地上と木々の三分の一が無くなるという。」
「そうね、ということはあと6つラッパを吹く天使が残っているということ。すぐに次はなさそうだし、とりあえずは安心して良いと思うわ。私の推測だけど。」
「ふぅ、そうか。」
カズマは一度目のラッパで妻を亡くしている。
これがあと6つも続くのかと思うと、気絶しそうになる。
息子や娘にもしものことがあったらと思うと、気が遠くなってしまう。
「それでな、とりあえずなんだが、新約聖書を借りれないか?内容を理解したい。これから何が起きるのか、どうすればあの声の主を引っ張り出せるのか…!」
「父さん。」
「あ、あぁ。すまん。ジェシカさん」
「構わないわよ。私はクリスチャン“だった”のよ。大切な友人のマキコさんがあんなことになって。神に身を捧げる意味がわからなくなってしまったわ。」
「ジェシカさん…」
「と、まあそう言うことで、俺は聖書を読み込んでみる。ミツキは休め。お前は子供なんだ。瀧田。ミツキはアンちゃんの部屋で構わないか?」ニヤニヤ
「ちょ、父さん!揶揄うなよ!」
「はっはっは。あぁ、構わないよ。」ニヤニヤ
「パパ!何言ってんの!?」
どうやら化粧が終わって覗いていたらしい。
閑話休題
「とりあえずコウキ、お前の部屋でいいな?」
「あぁ、親父。ミツキ、とりあえずス◯ブラしようぜ」
「コウキの部屋か、ありがとう。ボコボコにしてやるぜ」
「ハッ!よく言うぜ、勝てたことねえだろ。」
「兄貴!あたしも!」
「お兄ちゃん、私も行っていい?」
子供達が遊んでいるなかで、父親は聖書のヨハネのページを読み込んでいた。
ヨハネの黙示録8章7節:
【第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、血のまじった雹と火があらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。】
「やっぱり神と天使の仕業か。神の裁き、それに対する警告。マキコが何か裁かれるようなことをしたってのか?クソっ!」
大きな庭でタバコを吸っているヒデアキの元へ歩み寄るカズマ。
「ダメだ。黙示録は読んだがよくわからねぇ。人間は何か裁かれるようなことをしたってのか?」
「僕はね。カズマ。クリスチャンじゃあないが、人間が生まれた以上何かの罪を犯しているって言うのは正しいことだと思うんだ。大気汚染、多くのゴミ。それらによる地球温暖化。木々の伐採、生物の乱獲による生植物の減少。僕たちが普段出しているゴミや、今日食べたハモだって、罪の一部じゃあ、ないのかな…。でも、だからって人が死んでいい理由には、ならないと思うが…。」
「罪、そうか、そこから何か掴めるかもな。ラッパの天使の名前は明記されてなかった。文献とかを漁ってみようと思う。」
「そうか、根を詰めすぎるなよ。」
原罪論。人はみな罪人である。
神の思い、神の存在から顔を背けた人間に対する罰。ヨハネのラッパ吹き。
神は死を連れてくるのではなく、人間のそばを歩ませることを一度は赦した。
しかし人間は、神を冒涜し、怒りに触れた。
そして神話は紡がれる。
お目汚し失礼いたしました。
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