母と言う存在
新人です。お手柔らかにお願いします。
校庭に出ると赤黒い地の上で人はひしめき合っていた。
校長は家に帰れと言う、怪我をした生徒は列に並べと、家がなくなった生徒はまた学校に戻ってこいと。
あの“声”の話は出てこなかった。
帰路につく
「コウキ、大丈夫?」
「あぁ、とりあえずガラス抜くぞ。互いのを互いで。」
「並べって言われたのに何で引っ張って学校出ちゃうの?」
「こんな怪我でいちいち並んでたら重症の奴の治療が遅れるだろ。」
「それもそうか、じゃあ、せーのっ!」
ブシっと血が溢れる。
部活のタオルを腕に結ぶ。
「ねぇ、さっきの声って何なんだろう。」
「さぁな。だが尋常じゃないのは確かだと思う。」
「父の裁きとか言ってたけど、やっぱり神とか?」
「いや、それで行くなら天使だろ。」
そんなこんなでコウキの家に着く。
「コウキの家が無事みたいでよかった。俺の家はわからないけど、万が一のことがあったら連絡してもいいかな?」
「あぁ、構わない。ネットは機能してるみたいだしな。家族全員で来ていいぞ。アンもお前に会いたがってた。」
「ありがとう!アンちゃんか、久しぶりだな。マイも会いたがってたし。」
「とりあえず今は帰れ。」
よし、と気合を入れ、自転車を借りて二駅を走る。
家は無事だろうか?少年は焦燥に駆られていた。
大切な家族と過ごしてきた大切な家。
何もないことを期待し、走る。
途中で父と会った。父も腕に包帯を巻いていた。そして青白い顔で。
「おい!大丈夫か!怪我は?怪我はないか?」
数年ぶりに見る父の焦る顔。
人間自分より焦る人を見ると冷静になると言うのは本当らしい。
「ははっ、父さん。ペタペタ触りすぎだよ。」
「あぁ、すまん。だがお前らにもしものことがあったら俺は…」
「わかったよ!とりあえず帰ろう?」
「あぁ」
家は燃えていた。
妹は家と呼べなくなったモノの前でぺたんと座り込んで涙を拭っていた。
父は妹につかみかかる勢いで。
「おい!アイツは!母さんはどうなった!」
「グスッ、お父さん、う、うわぁぁぁぁあん!!お母さん!お母さん!」
「おい、まさか…」
煙が晴れてくると、黒く焦げ、何かを守るように蹲り動かなくなった母親の姿があった。
「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ、、、」
皮膚は床にこびりつき、血は蒸発したかのようにシミとなってフローリングに、フライパンの上の焦げつきのようになっていた。そして頭は、柱に貫かれ、床に固定されていた。何と無惨な姿だろう。
「マキコ、おい、マキコ。俺を置いて、行かないでくれ。グスッ、おい。」
「父さん、まだ崩れるかもしれないからこっちに」
少年は父の腕を引くと、
「おまえは!何でそんなに冷静なんだ!母親がこんな姿になってるんだぞ!」
「父さん。わかった、わかったから。」
「あぁ、くそ!あの声の主を殺してやる!」
「母さん、何かを守ってるみたいだ。」
あの日自分を抱き上げてくれた、肘から先がない母親の腕を上げると、
「あ、あぁぁぁぁぁかあさん。かあさぁぁぁぁん!」僕にも限界が来た。
それは豪快な笑顔の父親と、その横で不貞腐れて横を向いている息子と、妹を腕に抱いて慎ましい笑顔を浮かべる母親。
家族の写真だった。
家族で過ごしたこの家、あの日、今日の朝。その全てが消えてしまったような気がして、少年と父親と少女は、抱き合って泣いた。
ーーー「ぐすっ、父さん、行こう。友達が家族で家に来ていいと言ってくれているんだ。」
「だが、迷惑じゃないか?」
「まさか、コウキだよ。」
「なら、瀧田に一度連絡を入れてから考える。」
コウキの父ヒデアキとミツキの父カズマは高校の同級生だ。昔から家族ぐるみで付き合いがあり、その影響で息子も娘も仲がいい、全く同じ家族構成というのもおかしな話だ。
「よし、ミツキ、マイ、行くぞ。」
まだ泣いている妹の手を取り、少年は歩き出す。
「母さん、苦しかっただろうな。」
「そうだ。だから俺たちは母さんの分まで生きなきゃいけない。お前もマイも、これからもずっと一緒だ。」
「ミツキ、お父さん…」
マイはまた泣き出してしまった。
「瀧田の家は無事みたいだな。よかった。とりあえず駐車場に行くぞ。そのあと、あの“声”の事や母さんのこと、これからの家のことについて話し合うぞ。瀧田は不動産屋だからな。」
「わかった、俺が車取ってくるよ。」
自転車を積み、車を走らせる。
マイは泣き疲れて眠っている。運転するミツキの横で、助手席で家族写真を見ているカズマ。
こんな時にも父親を出来るカズマは立派な父親だと言える。
「そういえば父さんさ、昔母さんのことヒデアキさんと取り合ったって言ってたよね。母さんって昔はどんな人だったの?」
「あぁ、有名な族の総長の彼女だったのさ。」
「え!?そんな話初めて聞いたんだけど!」
「それでな、父さんと瀧田は2人で暴走族に殴り込みに行って、2人でマキコに告白したんだ。同時にな。」
「それで!?どうなったの!」
「振られたさ、もうこっぴどく」
「えぇ、じゃあ何で結婚なんてことになったんだよ。」
「そのあと色々あってな。五回目の告白で何とか付き合ってもらえたよ。舞い上がってクラス中に言いふらしてたな。」
「お父さん、キモい」
「マイ、起きて1発目にそれはひどいんじゃない?」
娘は反抗期だった。
お目汚し失礼いたしました。
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