第一のラッパ
新人です。お手柔らかにお願いします。
「早く起きなさい」
何の変哲もない朝だった。
「母さん。何でもっと早く起こしてくれないの?」
「アンタ起きないじゃない、何度も声をかけたのよ。毎朝このやりとりするのやめてくれる?準備して学校行きなさい。」
朝食を摂り、歯を磨き、着替え、家を出る。
何の面白みもない毎日。
「いってきます。」
世の中の高校生の大半はこの暮らしだろう。朝、アラームは何故か解除されていて、母親の一声で目が覚める。携帯で新聞を読む父親、グチグチ言いながら皿を洗う妹。そうして早朝の空気で深呼吸をしながら駅に向かう。
駅で友人と待ち合わせ、くだらない話をしながら学校に向かう。
「おい、ミツキ、普通に遅刻ギリギリだぞ。」
「ごめんごめん、ていうかコウキもさっきの電車乗ってなかったっけ?」
「黙れ。学校行くぞ。」
赤坂ミツキは、普通の高校生だ。剣道の朝練を友人の瀧田コウキと共にすっぽかし、うだるような夏の暑く青い空の下を歩き学校に行く。
「おはよう!ミツキとコウキって何でいつも遅刻ギリギリなの?」
「キミたちってやっぱりわざとやってるの?遅刻が格好いいとか思っちゃってる?」
地味に腹の立つことを言う、朝アラームを消しているのはこいつらの仕業じゃなかろうか。
この曲者たちは原田ミキと青野ハルカ。入学時に席が近くなり、そのままズルズルと仲良くなってしまった。
「うるさいなぁ、お前らもそんなに早く学校に来てやることあるの?」
「そうだ!そうだ!」
何故か原田が応戦してきた。
「何でミキがそっち側なの…」
「全くだ。」
「次はコウキがそっち側!?」
「あっはははは」
ハルカは額に手を当てる。
「お前ら席に着けー。今日の日直は、、赤坂と青野か。朝の連絡事項は〜〜〜」
「先生今日鼻毛出てない?」
「ブッ、ちょっと赤坂くん、先生に聞こえるよ。」
「大丈夫だよ、小声だし」
「さて、連絡事項は以上だ。赤坂。先生の鼻毛は今関係ない。それと今日の日誌はお前1人でやれ。」
「うわっ、聞こえてた!」
クラスがどっと笑う。
ゴロゴロゴロゴロ
「えぇ、今日雨降んのかよ。」
「まじかよ。傘忘れたんだけど」
「お前も?」
「お前傘あんじゃん」
ーーその瞬間、脳内に声が響き渡る。
「人間よ。蟲共よ。父が生んだ地を荒らすことも厭わぬ寄生虫共よ。貴様らには父の裁きを受けてもらおう。」
こもった角笛の様なラッパの様な音が響き渡る。
赤い雹が降る。炎の様な雷が落ちる。木々が焼け、草木が燃える。その様子は、ヨハネの黙示録のような、一言で表すなら、崩壊。
「おい!お前ら!とりあえず机の下に入れ!」
緊迫した声で先生が叫ぶ。
「何だこれ。何だこれ。」
「おい!どうなってんだよ!」
「これはやばいやつかも…」
周りが机に潜りだす中、赤坂ミツキは席につき呆然としていた。
「おい!ミツキ!」
コウキが引っ張る。やめろ。まだ見ていたい。
何なんだこれ。すごいな。綺麗だな。
その時雹が窓を破る。
「「痛い!何だ?」」
右腕を見ると窓の破片が一文字を描く様に刺さっていた。
「ミツキ!腕!腕!」
「コウキも!」
血が滴っていた。雹が溶けてどっちが血だかわからなくなる。ミツキはコウキに引っ張られようやく机に潜る。
「マジかよこれ、どうなってんだよ。」
コウキが言う。
「神の裁きってやつ?昔読んだ新約聖書に載ってたよ」
「ミツキお前、何でそんな冷静なんだよ。」
「あはは、一周回って冷静になっちゃった。」
ミツキは机に潜りながら先ほど聞こえた声のことを考えていた。
「ねえコウキ、さっきの声って人間なのかな?なんか違うような…」
「確かに、男とも女とも取れるような声だったな。」
ミツキはそんなことを聞いたのではない。
重く軽く、神々しく薄汚く、歌うようで吐き捨てるようで、美しいあの声がミツキの耳から離れなかった。
そして音は晴れる。
「何なんだよ、これ。」
割れた窓からの景色はまさに崩壊を現していた。
火は立っていないものの、ところどころの建物からは煙が立ち、溶けた雹のせいか、人間のものかわからない血のような液体があらゆるところに広がっていた。
「お前ら!とりあえず校庭に出るぞ!教室はガラスが飛び散っていたりして危ない。火災報知器も鳴ってる。避難だ。訓練じゃないぞ。」
『○○校です。現在、火災が発生しました。直ちに避難してください。火災報知器が鳴っています。落ち着いて、近くの避難口から避難してください。火災が起きている三階にいる生徒は、煙を吸わないように、体を低くして避難してください。エレベーターは使わないでください。校庭に集合してください。安全に避難したことを確認します。』
ブツッ
……
「うわぁぁぁぁ!どけ!」
「痛い!何すんのよ!」
「クソッ!クソクソクソ、ここ3階じゃねーかよ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「お前ら!落ち着け!訓練しただろ!」
普通の高校生だ。こうも色んなことが起きたんだ。パニックになるのも仕方ない。
「廊下に体を低くして並べ!点呼をとる!」
ワラワラと他のクラスも廊下に出ていた。
「大丈夫だ。校庭に向かう。」
お目汚し失礼いたしました。
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