7. 母を尋ねる日々
それからというもの、リリアーナは事あるごとにテオに母親について尋ねるようになった。屋敷の廊下で偶然会った時、中庭でいじめを中断した時、夜にテオのもとへ倉庫に行った時ーーどんな場面でも、彼女は唐突に質問を投げかけた。
「貴方のお母様って、どんな料理を作ってくれたの?」
「お母様は貴方にどんな歌を歌ってくれたの?」
「お母様って、どんな服を着てた?」
その問いはいつも突然で、リリアーナは特に反応を示すわけでもなかった。テオが答える間、彼女はただじっと聞き、目を閉じたり、遠くを見たりしながら黙っていた。笑うことも、怒ることもなく、ただ聞くだけ。彼女の表情からは何を考えているのか読み取れず、テオにはそれが奇妙でならなかった。
最初、テオは警戒心を隠さなかった。リリアーナがまた新しいいじめのネタを探しているのかと疑い、彼は言葉を選びながら答えた。
「母さんは…よくスープを作ってくれた。野菜と少しの肉が入った、シンプルなやつだよ」
そんな答えを口にしながら、彼はリリアーナの顔を盗み見した。彼女が嘲笑うか、罵るかを待ったが、彼女はただ小さく頷くだけだった。
「ふうん…」
それだけ言って、リリアーナは立ち去った。テオは拍子抜けしつつも、彼女の意図が分からず不安を募らせた。
しかし、日が経つにつれ、リリアーナの質問は増えていった。
「お母様は貴方にどんな言葉をかけてくれたの?」
「お母様って、笑うときどんな顔だった?」
テオは警戒しながらも、少しずつ母の思い出を語ることに慣れていった。
「母さんは俺が泣くと、『大丈夫だよ、テオ』って頭を撫でてくれた。笑うときは、目尻に皺ができて、優しい顔だった。俺はそんな母さんが笑う顔を見るたびに、安心した」
彼の声は小さく、どこか懐かしさに震えた。リリアーナはいつもと同じように、黙ってそれを聞いていた。反応はない。ただ、時折彼女の手がドレスの裾を握り締めていることに、テオは気づかなかった。
ある日、中庭でテオが水を被せられ、ずぶ濡れになっている時でさえ、リリアーナは鞭を手に持ったまま尋ねた。
「お母様は貴方を叱ったことってあった?」
テオは冷たい水に震えながら、息を切らして答えた。
「あったよ…俺が危ないことをした時、怒鳴られた。でも、その後すぐ抱き締めてくれた」
リリアーナは鞭を下ろし、じっとテオを見つめた。そして、いつものように何も言わず立ち去った。テオはその背中を見つめ、奇妙な感覚に襲われた。彼女の質問はいじめの延長なのか、それとも何か別の意味があるのか。彼には分からなかった。
リリアーナがそんな風に母について尋ねる理由を、テオは知る由もなかった。彼女自身、なぜそんなことをするのかを言葉にできなかった。ただ、テオの話す母の姿を聞くたび、彼女の心にぼんやりとした温かさと鋭い痛みが交錯した。母を知らないリリアーナにとって、テオの思い出は遠い夢のようであり、同時に彼女から永遠に奪われたものだった。
テオは警戒しながらも、リリアーナの静かな問いかけに答え続けた。彼女の瞳の奥に何かが見える気がして、彼はそれを確かめたいような、恐ろしいような気持ちを抱き始めていた。2人の間には、恨みや憎しみとは異なる、名前のつけられない空気が流れ始めていた。