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11. 謹慎と寄り添う夜

 リリアーナと兄たちの衝突の後、エドガーとクラウスは彼女の度重なる屋敷からの抜け出しを父である公爵に報告した。公爵は冷たく短い言葉で裁定を下し、リリアーナに1ヶ月の謹慎を言い渡した。いかにも面倒だというように。公爵は、リリアーナが何をしようと心底どうでもよかった。公爵は、公女に興味がない。


謹慎を命じられて以降、衛兵や使用人たちの監視の目が厳しくなり、彼女の行動は常に誰かに見張られるようになった。テオと共に夜の闇に紛れて村の外れへ向かうことは、当分できそうになかった。彼女は深い落胆に沈み、ため息を吐いた。「次はもっと上手くやろう」彼女は一人誓った。


その日の夜、リリアーナは兄エドガーからの平手打ちで赤く腫れた頬を押さえながらテオのもとへ向かった。倉庫に隅にある彼の簡素な部屋の扉を開けると、テオは薄暗い灯りの下で膝を抱えて座っていた。リリアーナは静かに近づき、謹慎を言い渡されたことを伝えた。

 「当分、抜け出してお母様に会うに行くのは無理そうね」

屋敷の裏口へ向かう道は複雑で、テオ一人では誰にも気づかれずに速やかに抜け出すことは難しいだろう。さらに、テオの抜け出しがバレてしまえば、リリアーナよりも重い処分が下されるだろう。


テオは彼女を見上げ、小さく頷いた。

 「…仕方ないよ」

その声には残念そうな響きが混じっていた。母に会えない寂しさが、彼の赤い瞳にちらりと見えた。リリアーナはそんなテオを見て、目を伏せた。そして、ほとんど聞こえないほど小さく呟いた。

 「……ごめんね」


テオがその言葉に反応する前に、リリアーナは顔を上げ、彼をじっと見つめた。

 「ねえテオ、今日は一緒に寝てもいい?」

その質問に、テオは驚いて目を丸くした。リリアーナがそんなことを言い出すとは思ってもみなかった彼は、言葉に詰まり、ただ彼女を見つめ返した。彼女の腫れた頬と、どこか脆そうな瞳が、彼の心をざわつかせた。


なかなか答えないテオに痺れを切らし、リリアーナが苛立ちを帯びた少し強めの声で言った。

 「これは命令よ」

そしてテオの手を引いて、彼の狭いベッドに無理やり潜り込んだ。テオは抵抗する間もなく、リリアーナに引っ張られ、彼女と並んで横になった。彼女はテオの手を握ったまま、目を閉じた。


リリアーナの呼吸が次第に穏やかになり、眠りに落ちていくのがテオにも分かった。彼女の手は小さく震えていたが、テオをしっかりと握っていて離さなかった。テオは眠るリリアーナの顔を見つめた。赤く腫れた頬、長い睫毛が影を作る青白い顔。彼をいじめていた頃の傲慢な表情はなく、ただ寂しそうな少女がそこにいた。


テオの胸に複雑な感情が湧き上がった。彼女を憎む気持ちはまだ消えていなかったが、こうして寄り添う彼女を見ていると、憎しみだけでは片付けられない何かを感じた。テオは目を閉じ、リリアーナの手の温もりを感じながら、眠りに落ちるのを待った。



 その夜、2人は初めて敵対ではなく、ただ寄り添う形で同じ時間を過ごした。屋敷の外には出られなかったが、リリアーナにとってはその小さなベッドが、孤独を紛らわす一時の避難所となった。

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