世界で最も好感度の低いディベート
これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。
随時更新して行きます。
【お断り】「国、普通、円満」の三題噺です。
(以下、本文)
【ディベーターAの立論】
戦争やって得する国なんて無いよなあ。私の知ってる限りでは存在しない。
第二次世界大戦の戦勝国を例に取ろうか。
中国と旧ソ連は全身傷だらけになった。
イギリス、フランス、オランダは植民地大国の地位から転落した。
ベルギーの惨状は言わずもがなだ。
一人勝ちしたかに見えるアメリカ合衆国だって、核の恐怖と言う「人類的新世紀」に怯える事になったし、「世界の警察官」なるステータスが高くつくものである事もそう遠くない時期にはっきりする。
そもそも世界史の教科書を繙いてみると、戦争と革命の危機を抱えているのが、むしろ「普通の国」なんじゃなかろうかと言う気すらして来た。
【ディベーターBの立論】
「戦争と革命の危機があって当然」はちがうだろ。
国民の幸福を第一に考える統治者は凡愚と呼ばれ、
戦わない軍隊は「税金の無駄づかい」とクサされ、
紛争の円満解決に奮闘努力する外交官は「土下座外交」と目の敵にされ、
安定期には、なぜか芸術がふるわず、宗教から人が離れ、新聞は退屈になり、
歴史家は「誰々※世の治世は比較的平穏であった」の一行で済ませ、
戦争や革命が起こったら起こったで、平和な時期の事を戦間期(戦争と戦争の間)と言いかえる。
国民の関心事は税金の上げ下げだけになる。
それだけの事じゃないのか?
ギボンの『ローマ帝国衰亡史』の内容が戦争に次ぐ戦争なのは「立憲君主国たるものは、絶対にこうなっちゃいけません」と言う「べからず集」だからだよ。
【ディベーターCの立論】
戦争が起こる理由は財の取り合いなんじゃありませんか? もしも大不況が無かったら、ゲバルト集団ナチスが選挙で勝てる道理が無かったし、日本は満州国建国などと言う談合破りを敢えてしなかったはずです。
【ディベーターBの立論】
じやあ、なんでアメリカはナチスドイツとの戦争に踏み切ったんだ? あれでドイツへの投資が、パーになったのに。
【ディベーターAの立論】
そう言う雰囲気があったからじゃないかな。
日本との戦争を渋るアメリカ海軍が、対日戦の腹を括ったのはパールハーバーがあったからだ。
【ディベーターCの立論】
それじゃあ、真の戦争指導者は、戦争を望んだ国民だったと言う事になりますね。
【ディベーターBの立論】
そりゃそうだが、そんな「国民の歴史」は書かれた事がないよ。
現に我が国民は「騙された、騙された。オレたちは何にも知らなかった。オレたちこそ被害者なんだ」と言い立ててるじゃないか。逃げ遅れた政治屋どもは、片っ端から犬や猫みたいにリンチされてると聞いたぞ。
【ディベーターAの立論】
どっちにせよ、オレたちは負けた戦争の指導者なんだ。犯罪人扱いされても仕方ないよ。
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敗戦国の将軍たちは、占領後24時間以内に全員が処刑された。
戦争裁判なんて検討すらされなかった。
戦勝国の将軍たちは「我が軍は正しいから勝ったのではなく、勝ったから正しいのだ」と言う事を良く理解していたのである。