告白推進委員会の大人たち
早朝5:30に、桐弥のバイト先、ON LIMITに集合。
このお店の名前は桐弥のお父さんが提案したらしい。
「色々な人が来るといいな」と言っていたよ。と梶浦さんが言っていた。
意味は オフリミットの逆だから、自由に入ってください。かな? 私は理系だから、よくわからないや。
そんな事を考えていると、お店ではなく、自宅の方の、玄関が開き「おはよう!」と梶浦さんが出てきた。その後ろには中学生くらいの女の子。
「おはようございます! 一葉さんですか?」
なになに? ちょっと? 誰なのこの子は?
「はい。樋口一葉です」の、私の返答に対し、「うわー! 桐弥君にはもったいない彼女だね! ねえ、お父さん?」
は? お父さん? で、ですよねー。同じ家から出てきたんですもんねー。
しっかし、桐弥の周りには なんでこう、女子ばかりなんだ?
綾乃ちゃんも実際、可愛いし。美梨さんも男子から大人気の美人系。
こなたちゃんは可愛いけど、少し不思議系かな…。
それとこの娘! ちょっと、可愛すぎない? 中学生だから、桐弥の許容範囲外かも知れないけど。
「あの、一葉さんで、宜しいですか?」
「あ! うん」
やばい! ボーっとしていた…。
「私は 梶浦恵です。一応…その…一葉さんには言いづらいのですが、桐弥君の許嫁です」
「はぁぁぁ?」
私は大声を出した!
「こら恵! 一葉ちゃん、嘘だからね。まったく…。コイツは桐弥に近づく女の子を見つけると、いつもこういう事を言うんだよ」
「えへへ。でも、一葉さんならいいや。優しそうで、女子から見ても美人だしね。一葉お姉様!」
そう言って、恵ちゃんは私に絡みついてきた。
あれ? 恵ちゃんもこなたちゃん系?
「樋口さん! おはよう!」
振り向くと、先生と綾乃ちゃん。あと、この人が桐弥のお母さんかな?
「おはようございます」
私は桐弥のお母さんがいるので、緊張のあまり、軍隊のような一礼をしてしまった。
「やだぁ! この娘が桐弥君の彼女? おはようございます。桐弥の母です。本当に桐弥でいいの?」
「は! 初めまして! 樋口一葉です!」
「あはは! 一葉ちゃんお母さんに緊張しているよ!」
「こら綾乃! ごめんね樋口さん」
先生が綾乃ちゃんの頭を軽くポンッ、と叩きながら叱る。
「だってさー。どうせまだコクっていないんでしょ?」
この綾乃って娘は!?
いつか仕返しをしてやる!
私がそんな事を考えていると、恵ちゃんが会話に入ってきた。
「きゃー! タマランチ! まだコクっていないんですか? 一葉さんタマランチっす!」
「え? まだなの? ちょっと桐弥君は大丈夫かしらね? ネジ緩んでる?」
ちょっと待って!
タマランチって何?
お母さん? ネジ緩んでいるって何?
「一葉ちゃん、あまり気にしないでいいからね」
梶浦さんが笑いながら言ってくれた。とその時、元気な声が聞こえた。
「ゴメーン遅れた! さぁ行くぞ! みんな乗れ!」
最後に登場した胡桃は 梶浦さんの車に、一番最初に飛び乗った。
「胡桃ちゃん。荷物を乗せるのを手伝ってよ!」と言う、恵ちゃんの事など聞いていない様子で、「早く行くよ!」と車内から言う。
まったく、胡桃は…。
そして、荷物を積み終えた私達は 名古屋へ向けて出発する。
桐弥と砂川先輩、こなたちゃんは前乗りだ。砂川パパも昨日はお店をお休みにしたらしい。大会の度にこれじゃ大人も大変だな、と思う。
「ねえねえ。一葉さん。桐弥君のどんな所が好きなの?」
ナビ席の横から顔を覗かせて、恵ちゃんが聞いてきた。
「あー。ホントそれなー」
胡桃は呆れたように言う。
「ホントそれなー」
綾乃ちゃんまで、呆れたように言う。
「でも、引きしまった身体からだはカッコいいわよね」
お母さん?
「うんうん。あの上腕二頭筋はカッコいいね! お父さんなんて、プニプニだもんね!」
恵さん? 見たの? 桐弥の裸を見たんですか?
「そりゃ俺はオジサンだからな。ははは!」
「太腿もすごいよな桐弥は」
胡桃? 太腿って? 胡桃も見たの?
「腰のあたりもすごいよね。ホントキモ…」
綾乃ちゃんまで?
「葵もすごいけど、桐弥の筋肉の場合は綺麗だな」
綺麗って? 胡桃さん?
「ちょっと待って! 何であなた達が知っているの? 私は見たこと無いんだけど!」
先生?
「私も見たこと無いんだけど!」
私の発言に車内は静まり返った。
あ…。ヤバ…。シーンとなった…。
「一葉ちゃん、キモ…。みんなドン引きしてますよ…」
綾乃ちゃん、この女は!
「あはは! 一葉をからかっただけだよ! 桐弥の裸なんて、別に見たくないしね!」
胡桃が楽しそうに言った。
「てか、美梨ちゃんもドン引きー! 桐弥君の裸が見たいのー?」
と言う恵ちゃんに、私は思う。
この娘は悪い女だ。悪女気質がある…。
「そういえばさ」
恵ちゃんは何かを思い出したように言う。
「小学校の時にさ。佐之助君の家のプールで、よく遊んだじゃん? その時さ、佐之助君ってすぐパンツ脱いでいたよね。あの頃の男子ってキモかったよね」
「ああ。調子に乗って、葵も脱いでいたな。桐弥はそういう事をしなかったけど、その代わりに市谷パパが、プールを風呂代わりにしていたな」
「胡桃ちゃんは市谷パパが苦手だったもんね」
「当たり前だ! シャンプーの泡が付いたままプールに入られたら、頭に来るだろ!」
「あはは! あん時は原田も怒っていたな。プールは風呂じゃねぇ! って言っていた」
桐弥のお父さんって、ファンキーな人だったんだ…。
「あれ? そういえば、市谷ってウチの店で、金払った事が無かったな」
梶浦さん? 今それを言うんですか?
「梶浦さん、そんなの桐弥の給料から、天引きすればいいじゃん!」
「ちょっと胡桃! 何を言っているの! 桐弥は関係ないじゃん!」
私は 本気モードだ。
「あはは! 一葉さん、今のはお父さんの冗談だよ。一葉さんって、からかい甲斐があって面白いね」
なんと? 恵! キサマは本物の悪女だ!
* *
現地到着…。
「うわー。埃っぽい…」
眉間に皺を寄せて、嫌そうな顔をする綾乃ちゃん。なんで白いワンピースで来たんだろ…。
「当たり前じゃん。オフロードレースだもん。めかし込んで来た事を後悔しな。ははは!」
胡桃が綾乃ちゃんを揶揄うように言っている。
「うるさい!」
本気モードで胡桃に言い返す綾乃ちゃん。もしかして胡桃と綾乃ちゃんって、ちょっと気まずいのかな?
「んな事より、一葉。携帯に出れるようにしておいて。私と恵は桐弥のピットにいるから! それじゃねー!」
「ちょっと胡桃! 桐弥のピットって? 何?」と言う、私の質問に答えずに、胡桃と恵ちゃんは走り去った。
「一葉ちゃん。胡桃はね、桐弥が今日で、モトクロスを止やめる事をわかっているんだよ。だから、最後に何かしてあげたいんじゃないかな。うちの恵もそうだけど、コイツらは 兄妹みたいに育ってきたからね。美梨ちゃんと綾乃ちゃん、お母さんもしっかりと見てあげてね。スタートは情けない走りをすると思うけど、ピットインした後の桐弥はすごいよ。胡桃に喝を入れられるからね。あと、一葉ちゃん。携帯はスピーカーにしておくといいよ。笑えるから。」
梶浦さんは意味ありげに言った。だけど、モトクロスをやめるって、なんで?
ずっとやってきたんでしょ?
「あの。梶浦さん? どういう事ですか?」
お母さんも心配そうに、梶浦さんに聞いてきた。
「あいつが決めた事だから、あいつから聞いてください。大丈夫ですよ、桐弥はマジメ君ですから。きちんと話はするはずです」
今日のメインレース、スピード&スタイルが始まる。今回は特別に周回数が多いらしい。エキシビジョン・レースらしく、年間のポイントとは関係は無いと、梶浦さんが教えてくれた。
しかもこのレース。途中のピットインがカギになる。とも教えてくれた。
そして、桐弥にはピットクルーはいない。それで胡桃と恵ちゃんは桐弥のピットクルーになったようだ。今回のクルー登録は 前乗りした砂川パパが、書類の提出をしておいてくれたらしい。桐弥には内緒だったみたいだけど。
会場が盛り上がってきた。出場選手の登場だ。選手たちは スタートラインに並ぶ前に一度、パドックのような所で、紹介を受けている。みんな、ガッツポーズをしている中、桐弥だけは何もせずに走りぬけた…。
「ははは! 桐弥、ブーイング受けてやんの! 気難しい男だな。多分、葵も桐弥の真似をするぞ」
梶浦さんは楽しそうに言っている。が、私達、女性陣には何でブーイングか、葵君も真似をするのか、ちんぷんかんぷんである。
「本来、声援を貰っているんだから、声援のお返しに手を振ったり、なにかしらのアクションをするのよ」
高木さんが突然現れて、私に説明をしてくれた。
「た! 高木さん?」
私は驚きのあまり、声が裏返ってしまった。
「はい! 高木です!」
「千穂子。おばさんが言っても可愛くないわよ」
「うるさいわよ、美梨!」
「はい! 美梨です!」
「ちょっと…。2人ともキモい…」
綾乃ちゃん…。
「あの。高木さんも見に来たんですか?」
「あたりまえじゃない! 彼氏が出場するんだもん!」と、高木さんに、笑顔でかえされた。高木さんって、怖い感じの人だと思っていたのに、意外と気さくな人だったんだ…。
「千穂子ちゃんは若い彼氏を捕まえたもんねぇ」というお母さんの言葉に、照れた顔をしている。
「マジか? 葵は予選1位かよ!」
最後に登場した砂川先輩に、梶浦さんが驚いている。
「エキシビジョンだし、桐弥君がアレだからね。今日は葵がいただきね!」
は? 高木さんの彼氏って、砂川先輩なの?
そんな中、レースはスタートした。
物凄い砂煙と爆音で、バイクが迫せまってくる。私達が見ている場所は最初の大きなジャンプ台からの着地する場所。その先には急なカーブがある。私達の後ろに、審査員のような人たちがいるので、恐らくここは観戦するには 一番いい場所なんだと思う。
そして、最初のバイクが来た。砂川先輩だ。高くジャンプをして、空中で片足を上げたりしている。怖い…。あんな事をやって、大丈夫なの?
しばらくすると、桐弥も来た。桐弥は高くは跳ばずに、物凄いスピードで走りぬけて行った。
「まずは上位に行かないと、話にならないからな。でも、相変わらずジャンプはダメか…」
ため息混じりで、梶浦さんが言った。
「若さ故の悩みかしらね…」
高木さんも梶浦さんの言葉に返事をしたが、私には何の事だかわからない…。
「まったく、あの子は…。そんな事で悩んで…」
お母さんは なんとなく気が付いたようだ。
何週か走り、桐弥は先頭の集団に追いついた。
「そろそろピットインだな。胡桃から連絡は?」という梶浦さんの問いかけと同時に、私の携帯が鳴った。
私がスピーカーをオンにすると、電話の向こうから怒鳴り声が聞こえる。
『キャップを開けながら来い! バカ桐弥! 燃料が入れられないだろ!
なんでお前達?
桐弥君、みんな見ているよー。
いいかよく聞け! お前が怪我しても、お前の面倒ぐらい私が診てやる! くだらねぇ事で悩んでねぇで、思いきり跳んで来い! みんなにお前のすごい所を見せてやれ! 行っけー!
あ…。一葉の声を聞かせるの忘れた…。
まあ、桐弥が今からそっちに行くから!
アイツがスゴイってところを見てやって!』
そう言って、胡桃からの電話は切れた。
爆音と共に、2台のバイクがジャンプ台に来た。
桐弥と砂川先輩だ。2台が同時にジャンプをする!
桐弥は今までとは違うジャンプをした!
すごい高さで、左手だけでハンドルを持ち、逆立ちみたいな事をしている。そして、すぐにシートに座り、着地と同時にハンドルをカーブと反対方向に向け、砂埃りを撒き散らして、走りぬけて行った。
「すごいでしょ? 最初からアレをやられたら、葵の1位は無かったね…」
高木さんが楽しそうに言う。
「まだ、わからないじゃないですか…」
私は高木さんに反論した。が、
「残念だけど、これは芸術点も入るから、葵の方が有利だな」
梶浦さんが、残念そうに言う。
その後、桐弥は観客から大歓声を浴びていた。
そして、表彰式。
1位は砂川先輩。桐弥は3位だった。1位の砂川先輩の顔に笑顔は無い。それは桐弥も同じだった。
どうしたのかな…。2人とも…。
* *
大会が終わり、東京へ向かう車中…。
「みなさん明日も休みでしょ? これから、うちのお店で、お疲れ会やるから顔出してよ」
梶浦さんは笑顔で言う。
「あの…。私は…」
桐弥のお母さんは遠慮したいようだ。
「まあ、朝も早かったですしね。それじゃ代わりに、美梨ちゃんと綾乃ちゃんは出席してね。一葉ちゃんも。これは決定事項ですよ」
梶浦さん、先生の真似している。
「はい、わかりました。あの、梶浦さん。聞いてもいいですか?」
先生が気弱な声で言う。
「なんですか?」
「桐弥君が、モトクロスを止める事を知っていたんですか?」
「なんとなくね…。葵が骨折した時に、そんな気がした」
「そうでしたか…。私は気が付きませんでした」
先生が下を向いている。満身創痍のようだ。
「あと胡桃ちゃん、桐弥君のピットに行ってくれてありがとう」
「美梨ちゃん! 私も行ったんだけどぉ!」
恵ちゃんが屈託のない笑顔で言う。
「そうだったね。恵ちゃんもありがとう!」
「美梨ちゃん悩まないでよ! 桐弥は新しい趣味を見つけたんじゃない? だいたい、モトクロスなんて、お金がかかるんだから、恵んとこのバイト代で、まかなえる訳ないでしょ?」
胡桃が気を使っている。
「おいおい! ウチはここら辺では一番時給高いぞ!」
「違うよ! 高校生のバイト代じゃ無理って話! メグパパは器が小さいな」
「お前は親父に似て、口が悪いな」
今の会話で、車内のムードが少し明るくなった。
「あの、梶浦さん。昼間は奥さんが喫茶店をしているんですよね?」
今まで会話に入ってこなかった綾乃ちゃんが梶浦さんに話しかけた。
「そうだよ。あれ? もしかして、綾乃ちゃんウチでバイトしたいの?」
「うん…。なんとなく。したいかな…」
綾乃ちゃんが外を眺めながら言った。
「綾乃は愛想がないから無理だな。愛想のある、一葉がやれば?」
「はぁ? 胡桃に言われたく無いんだけど!」
「私の愛想の無い所はチャームポイントだからいいの!」
「私だって! 愛想が無いのは…」と言いかけた綾乃ちゃんに。
「ウィークポイントォーーー!」
と言う、恵ちゃんの一言で、車内が大爆笑した。
** **
ON LIMIT到着。
お店に入ると、たくさんの手料理が並べてある。奥様方が、用意してくれたようだ。
「あら! 一葉ちゃん! 観に行ったの? すごかったでしょ? バイクよりホコリが!」
胡桃のお母さんが、嫌味混じりで言う。
「確かにねぇ。あんな所、二度と行きたくないわね…。ところで貴女が一葉ちゃん? 美人ねぇ! 桐弥にはもったいないんじゃない? あら、ごめんなさい。私は葵とこなたの母ですよ」
「はい、初めまして。樋口一葉です」
「初めまして。私は原田 佐之助の母ですよ。ウチの子は1年生だから会った事は無いわよね? 1学年で千人位いるもんね」
「佐之助君って…。原田って…。十番隊組長? ここにも組長がいた…」
「あら? もしかして、一君を知っているの?」
「はい。同じ美化委員でして」
「あらぁ。私も一葉ちゃんに美化されたいわ~」
「うわぁ…。佐之ママキモい…」
胡桃の口の悪さって…。
その後。少し遅れて、砂川ファミリーと高木さんが登場した。みんなが席に着く中、砂川先輩は端のテーブルで高木さんに何かを言われている。
「桐弥はまだか?」と言う、胡桃パパの問いかけと同時に、桐弥がお店に入ってきた。
そして、脇目も触れずに、砂川先輩の目の前に座る桐弥。両手はデニムのポケットに入れたまま座り、砂川先輩を睨にらみつけている。
「それじゃ、みんな揃ったから始めるか? 葵、お前が乾杯の一言を言え」
と言う砂川パパに対して、砂川先輩は 相変わらず桐弥を睨んでいる。
「どうしたんですか? ずいぶん機嫌が良さそうだけど? 何か良いことありましたー?」
ちょっと桐弥、何を言っているの?
「はぁ? 何を言ってんだ! テメェーブチ殺すぞ!」
砂川先輩はそう言って、テーブルを軽く蹴飛ばした。その反動で、テーブルのドリンクは倒れ、テーブルにはコーラの湖ができあがった。
「スゲーな! テンション上がりすぎ! あっそうか! 1位でしたね! おめでとうございまーす!」
桐弥が言った一言に、怒りをあらわにする砂川先輩。そして、先輩は立ち上がり、桐弥の胸ぐらを掴んだ!
ちょっと桐弥? どうしたの? こんなの無理だよ…。恐いよ…。私じゃ助けられないよ…。
「何だお前ら? 喧嘩なら奥の部屋でやれ! あと、殴るのは禁止な! うざったいから早く行け!」
梶浦さんに怒鳴られ、桐弥と砂川先輩は奥の部屋へと行った。
何で? 何でみんな止めないの? 喧嘩はダメだよ! そして、奥の部屋からは怒鳴り声が聞こえる。
「美梨、綾乃。外に行こうか!」
高木さんは立ち上がり、2人を外に連れ出そうとした。
「何を言っているの? 心配じゃないの? 」
先生は高木さんに対して苛立っている。
「あなた達は 聞かない方がいいと思う…」
「何がよ! ハッキリ言いなさいよ!」
先生の怒りは頂点に達しているよに見える。
「まぁまぁ、二人まで喧嘩すること無いでしょ?」
砂川ママが言う。
「そうだよ。ちょうどいいから、聞いちゃいなよ。桐弥の心の叫び」
いつの間にか座っているおじ様が言う。この人が十番隊組長のお父さん?
「そうそう。千穂子ちゃんもさ。葵の情けないところを聞いてやって。アイツはまだまだ子供だからさ」
砂川パパが、高木さんに言う。
そして、奥の部屋では 桐弥と砂川先輩の言い争いが、ヒートアップしてきた。
「周りの奴らに失礼だろ! 先生や綾乃も、おばさんも来ていたじゃねーか! ビビってんじゃねーよ!」
「ナメてんのか? お前に何がわかるんだよ! 家族がいて! 彼女もできて! 幸せいっぱいのお前に!」
「お前だって家族はいるだろ!」
「………」
「黙ってんじゃねぇよ!」
「………ねぇよ」
「聞こえねぇよ! ハッキリ言ってみろよ!」
「血がつながってねぇよ! お前にわかるかよ! 怪我したら! 動けないくらいの怪我をしたら、どうすんだよ! 邪魔になったら! あの人達の邪魔になったらどうすんだよ! 捨てられたらどうすんだよ!」
「そんな事、あるわけねぇだろ…。」
「そんなのわかんねぇだろ! 俺は本当の母親にも捨てられたんだぞ! 」
今の桐弥の発言は 美梨さんと綾乃ちゃんには効いたようだ。
2人とも下を向いてしまった。たぶん2人とも泣いている。
「桐弥…」
「お前には わかんねぇよ。一葉だって、初めて本気で好きになったんだ。いなくなったら嫌だ」
「一葉ちゃん、良かったねー! 桐弥が好きだって!」
胡桃ママ。今はやめて…。
「キター! アオハルキター!」
恵ちゃん…。うざい…。
「桐弥…。俺、自分の事しか考えていなかった…。ごめん…」
「なんだよ今さら…。昔からそうじゃん! とにかく、今日は帰る。雰囲気壊した…」
桐弥は砂川先輩にそう言って、奥の部屋から出てきた。
「お前、なーに帰ろうとしてんだよ! 帰るんなら、盛り上げてから帰れよなー!」
十番隊組長パパが、楽しそうに言う。
「そうねぇ。全部聞こえていたから、まずは 美梨ちゃんと綾乃ちゃんに、謝らないとねー」
胡桃ママも責めてきた。
「確かにな。あんなこと言われたらショックだよなー」
梶浦さんも楽しそうに言う。
「え? 先生? 綾乃? ゴメン…」
桐弥が反省した面持ちで話す。
「桐弥君、学校以外では美梨ちゃんです。 あと、お話がありますので、帰ったら私の部屋に来なさい! わかりましたね!」
「私も話があるから、覚えておきな!」
「ああ…。はい、わかりました…」
「はい! あとは一葉ちゃんだな! 言うことあるんだろ?」
もういいよ胡桃パパ。桐弥が可哀想だよ…。
「えっと、一葉」
「えへへ…。聞こえていたよ。 私も桐弥の事が、大好きだよ…」