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Milk Shakies〔ミルクシェイキーズ〕  作者: 青紙 ノエ
 ゆるふわ女子とツンデレ女子と天使な女子 
18/26

 人って簡単に恋に落ちるもんだよ


 土曜日で、休校日の図書室。

 その部屋にいる、私を含めた3人。

 菅原先輩と城崎委員長は 訳のわからない言い争いをしている。


「あの。城崎委員長? 書籍のチェックをやらないのであれば、私は帰らせていただきます。 お疲れさまでした」

 私はそう言って、図書室を後にする。


 足早に下駄箱につくと、私をおいかけて来た、城崎委員長と菅原先輩が焦ったように言う。


「隅田さん、ごめんね。よかったら、お昼を一緒にどうかな?」

 走ってきたのだろうか?城崎委員長は少し顔が赤い。


「すみません。今日は従姉が来ますので、帰ります」


「それじゃ、駅まで一緒に行きましょ?」と、菅原先輩は言うが、息があらい…。この人の場合、息があらいと、嫌な想像をしてしまう。


「あの。1人にさせて下さい。お願い致します」

 私は2人にそう言って、小走りで逃げた。


 校門を抜け、坂を下りると、駅まで続く商店街。普段は夕方に近い時間。なんだか、いつもと違って見える。


 ガラス張りで、オシャレなコーヒーショップ。

 私は苦手だ。なんだか、気取って見える。そのお店のガラスに映る私。前髪を上げて、顔をあらわにしている。

 今朝、樋口先輩がセットしてくれた前髪。私はそんな自分を見て、恥ずかしくなり、前髪に付けられたアメリカピンを外した。


 コーヒーショップの2軒先にある、ガラス張りの本屋さん。そこに映る自分は いつもと同じ。長い前髪で顔の半分以上を隠す、いつもと同じ、いつもの私だ。

 姿勢は猫背。スカートの丈は膝した15㎝。みんなはリュックだが、私は学校指定のカバン。クラスでは私だけだ。というか、学園全体でも私くらいだ。

 寒ければ、みんなはパーカーを着たり、オシャレなニット。あとは 三本線のジャージを着ている。でも、私は学校指定のセーターだ。


 本当、喪女だな…。

 こんな私のどこに魅力を感じるのかな? 

 私といれば優越感に浸れるのか?

 どちらにしろ、友達なんていらないな…。

 そんな事を考えていたら、私はいつの間にか、電車に乗っていた。


 私は 車内の広告をなんとなく見ている。


 すると突然、鳴り響く金属音。私はいつの間にか、床に寝転んでいた。


 あれ? 何で寝ているんだ?


 すると、1人の女性が私に話しかける。

「大丈夫ですか?」


 「イタタタ…。うぉ!?」

 なんだ? この可愛い女子は! 天使か?


「大丈夫ですか? 私が見えますか?」


「天使か!?」

 ヤバッ! 私は何を言っているんだ?


「天使? 大丈夫ですか? これは見えますか?」

 天使は私に、自分の人差し指を見せた。


「す、すみません。ありがとうございます。見えております。左手の人差し指です。」

 確か、この制服は 隣の駅の女子高だったな。さすがお嬢様学校だ。清楚せいそしゅうが、ビシビシ来るな!


「いつもなら、急停車する時は アナウンスが流れるのに…」

 不安そうに、私に言う天使。その天使は膝に怪我をしている。


「あの。膝を怪我されているみたいです。よかったらこれを使って下さい」

 私は父から貰った、看護師に携帯させる、ポムポムプリンの絆創膏を天使に渡す。


「可愛い。ありがとうございます」


 天使が可愛と言うってことは きっと本物の可愛さなのであろう。


「いえ、父がよく貰ってくるので。気にしないでください」


「うふふ。可愛いお父さんね」


 うふふ? おそらく、私は1度も使ったことのない単語だ!


「いえ、父は病院で働いていまして。その絆創膏は ドクターと看護師に配る物みたいです。なので、気にしないでください」


「そうでしたか。それでは使わせていただきます」

 天使はそう言うが、絆創膏を持つ手が震えている。おそらく、怖かったのだろう…。


「私が貼りますね」

 私はバッグから新しい絆創膏を取りだし。天使の膝に貼ってあげた。綺麗な脚だな…。私の膝小僧は古傷だらけなのに…。天使は羽があるから転ばないんだな。


「…でしょ?」

 しまった! 聞き逃した!


「すみません! 考え事をしてしまいました!」

「ふふ…。あなたのそのリボン。1年生でしょ?」

「はい。そうです」

「初めまして、私は市谷いちがや 綾乃あやの、2年生。あなたの学校で英語を教えている、市谷 美梨の妹です」

「ゲゲッ!」

「ゲゲッて。もう、本当に面白い娘。名前を聞いても宜しいかしら?」


 宜しいかしら? 宜しいですとも!

「すみません。申し遅れました。隅田 詩織です」

「それじゃ詩織ちゃん、で良いかな?」

「はい」

「私の事も、綾乃でいいよ。市谷だと、お姉ちゃんとかぶるでしょ?」

「あはは! 綾乃さんっておもしろいですね」


 その時、「ガタン!」と言う音と共に電車が動き出す。


「動いた!」

 綾乃さんはそう言って、私の手を握った。こんな可愛い子に手を握られたら、世の男子は辛抱たまらんだろうな。


 発車と同時にアナウンスも流れる。そのアナウンスでは 踏切で何かが反応してしまったらしい。でも、そのおかげで、綾乃さんとお話が出来た。不幸中の幸いだ。


 そして、私たちは 上中里で下車し、改札をぬける。


「詩織ちゃんの家はどっち方面?」

「この先の、樋口クリニックの近くです」

「え? もしかして隅田さんって、あの隅田先生のお嬢さん?」

「父をご存じでしたか?」

「だって、テレビとかよく出ているよ!」


 おー! 父よ! ここでも話題になったぞ! マジで私は鼻高々だぞ!


「そうなんですか? 恥ずかしながら、私はあまりテレビを見ないので、知らなかったです。そういえば、樋口クリニックのお嬢さん、私の先輩なのですが、今朝会った時に、樋口先輩も、そんなような事を話してくれました」

「へー。一葉ちゃんと知り合いだったんだ?」

 

 やはり美人と美人は仲がいいんだな。イケメンとイケメンも仲が良いみたいだし。うたプリとか?


「綾乃さんも知り合いだったんですね。お友達ですか?」

「ううん。知り合いって言うか、兄さんの彼女なの」


 は? お兄さんの彼女? 市谷先生がお姉さん? 樋口先輩の彼氏って、イケメン桐弥さん? 桐弥さんと綾乃さんって、双子? にしては似てないな…。てか、桐弥さんと市谷先生って姉弟だったんだ…。

 でも、これって誰にも言えないな…。


「詩織ちゃんの思考回路が、フル回転って感じだね!」


 私は立ち止まり、綾乃さんを見つめてしまった。


「どうしたの? ちょっと…。見すぎだよ…。恥ずかしいよ…」

「すすすす、すみません!」

「母がね、桐弥のお父さんと再婚したの」

「そうでしたか…。綾乃さんと先生はすごいですね。私だったら突然、兄や弟…。というか、父さん以外の男の人が近くにいたら、怖くて生活なんて、できないだろうな…」

「あはは! 私もそうだよ。最初は怖くて、近くに行くのも嫌だった。話すようになったのは最近だよ」

「そうでしたか…」


「あっ、ここ!」

 どこ? 綾乃さんが指をさすお店。店名がON LIMIT。


「オンリミット?」

 オフリミットの反対だから、ご自由にどうぞ? だっけ?


「私、ここでアルバイトをしているの。これあげるね。」


 綾乃さんは そう言って、10%割引チケットをくれた。


「今日、出会ったのも、何かの縁だし。それじゃ!」


 綾乃さんは笑顔で、オンリミットに入って行く。そんな綾乃さんを 私は なんとなく見送り、お辞儀をした。

 すると。扉が開き、綾乃さんが顔を出す。

「来てね!」

 そう言って、手を振ってくれた。


 私もつられて手を振る。


 なんか…恥ずかし…。





 * *





 月曜日…。


 いつもと変わらない、週始め。

 駅の改札でSuicaをあてる。

 ホームに入ると、いつもと変わらない、見たことのある顔ぶれ。


 あれ? 綾乃さんだ!

 目が合う。


 私は深々と頭を下げた。そして、下げた頭をあげると。


「おはよう」

 私の目の前に立つ綾乃さん。

「ふぉ? おはようございます!」

「あはは! 何? ふぉ? って」

「ちょっと。ビックリしちゃいまして。えへへ」

 朝からこんな可愛い女子と話せるなんて、嬉しいな。


「詩織ちゃんは いつも、この時間?」

「はい。そうです」

「それじゃ、明日も一緒に行きましょ?」

「えっ?  いいんですか? 私と一緒じゃ、なんだか申し訳ないような…」

「ん? 何で? あっそうだ!LINE交換しない? 無理にじゃないけど」

「え? え? え? いいんですか?」

「はい。振って振って」


 バイブと共に、LINEの友達が増えた。やった! これで…3人目だ…。といっても、あとの2人は()()()()と城崎委員長だけど…。


「どうしたの?」

 綾乃さんが不安そうな顔で私を見る。


「あっ。いえ、何でもないです。それよりも、アイコン可愛いですね。キングボンビーですか?」

「そう! 可愛いでしょ? 自分で描いたんだ!」

「上手ですね。私も板タブはあるんですけど、なかなか上手に描けなくて…」

 私が綾乃さんに、そう言うと、綾乃さんは バッグからコームを出し、私の前髪をかきあげ、アメリカピンでその前髪を留めた。


「うん、この方が可愛いね。そうそう今度、教えてあげるよ。詩織ちゃんはiPadというか、タブレットは持っているかな? 持っていれば、それで教えてあげるよ」

 綾乃さんは私に話ながら、こちらに鏡を向ける。


「はい持ってます。てか、ありがとうございます」

 あれ? 土曜日もこの髪型にされたな…。というか、女子は鏡とアメリカピンを持ち歩くのか? てか綾乃さんって、いい匂いがするな。そういえば、篠原先輩や樋口先輩も同じような匂いだな…。


 私はいつの間にか、綾乃さんに近づき、匂いを嗅かいでいた…。

「くんかくんか…」


「ちょっと? 詩織ちゃん? どうしたの?」

「綾乃さんって、いい匂いがする」

「もう…。恥ずかしいよ…」

 綾乃さんはそう言って、バッグから巾着を出し、その巾着からスプレーのような物を出した。


 「四次元バッグー!」色々なオシャレグッズが出てくるバッグを見て、私は心の中で呟いた。


 シュッ。


 綾乃さんが、私の首にスプレーを吹きかける。


「あっ! この匂いだ!」

「よかったらどうぞ」

「いえいえ! 頂けません!」

「ごめんね。それ、実はもう残り少ないの。気に入ったのなら、使ってみて? それか、他のでお気に入りがあったら教えて?」

「うほー! ありがとうございます!」

「あはは! うほー。だって! あっ電車来たよ」

「はい」


 てか、綾乃さんは女性専用車両か。初めて乗るな。あれ? あの娘、同じクラスの()()()姫だ。うへー! こっちに気づいた?


「あれ? 綾乃ちゃん? 隅田さんと知り合いだったの?」

 待て! そりゃこっちの台詞セリフだ!


「土曜日に偶然会ってね。ねぇ?」


「か、可愛い笑顔ですねぇ」

 ヤバ! つい…言ってしまった!


「隅田さんの方が、可愛いじゃん? 前髪で、顔を隠しちゃダメだよ。もったいないよ」

 あれ? 同じ姉妹でも、綾乃さんに言われると嬉しいな…。


「うんうん。その方がいいよ! 私も最初、綾乃ちゃんしか、わからなかったもん!」

 あら? こなた姫って、社交辞令の言える娘だったのか? てか、あまり褒めないでくれ! 恥ずかしい…。


 私は高校に入学をし、初めての1人ではない通学。

 土曜日のは偶然だったけど、今日はなんだか嬉しい。電車の中で、誰かと話をしながらの通学なんて、リア充そのものじゃね?

 そして、私と()()()姫は学校の最寄駅に着き、綾乃さんと別れ、電車を下りた。

 綾乃さんが別れ際に言った、「今日ね、私アルバイトなの。時間があったら遊びに来て。無理にじゃ無いからね。バイバイ!」と言う一言が、月曜日の憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれる。綾乃さんて素敵な女性だな…。私もあんな女性になれるのだろうか…。


「綾乃ちゃんのあんな顔、初めて見たよ」

 学校へ向かう商店街で、こなた姫が私に言う。

「そうなの?」

「うん。いつもは なんだか眉間にシワが寄っているというか…。なんだか怖い感じかな…」

「ふーん」

 意外だな…。あっそうだ!

「あっ、こなた姫。私、部活辞めた」

「はっ?」

「ごめんね。せっかくお話するようになったのに」

「何かあったの?」

「ううん。何でもないよ」

 ダメだ!あの事を思い出すと涙が出てくる…。


「ゴメン! それじゃ!」

 私はこなた姫にそう言って、逃げるように走り去った。




 * *




 放課後…。



 私は図書委員の仕事をサボることにした。理由は城崎委員長がいるからだ。芹沢君に悪い事をしたな…。

 でも彼に話しかけると、クラスの女子に、色々と陰口を言われるからな…。

 そんな事を考えながら、私は上中里で電車を下車する。


 オンリミットか…。

 行ってみようかな…。

 でも、綾乃さんがいなかったら恥ずかしいしな…。

 てか、お店に着いちゃったしな…。

 どうしようかな…。

 私がお店の前で悩んでいると、お店のドアが開いた。

「詩織ちゃん! 入って!」


「綾乃さん!」

 私は綾乃さんに言われるまま、お店に入る。


「中から見えたからさ! カウンターに座って!」

 またもや、私は 言われるままにカウンターに座った。


「はいどうぞ」

 綾乃さんの、透きとおるような綺麗な手で、オシボリが私の手へと渡された。


「ありがとうございます」

 おお! 初体験、1人喫茶店だ!


「コーヒーって大丈夫?」

 笑顔で私に聞く綾乃さん。


「はい。ブラックでしたら、飲めます」


「おお! カッコいいね! 実はね、初めてエスプレッソの豆を挽かせてもらったの! 詩織ちゃんに、味見してもらえたらと思って!」


 綾乃さんが私に話しかけてくる表情がとても可愛らしい。あぁもう、その笑顔たまりませんよ!

 って、あれ?


 私…綾乃さんの事が、大好きなのかな…。

 カウンターの中を笑顔でコーヒーカップの用意をする綾乃さんを見て、そんな事を考えてしまう。


「これがエスプレッソの豆だよ。挽きたてじゃないとダメなんだから」


 嬉しそうで、楽しそうな声。


 「ここで一度、フタをしてぇ」


 違う…。


 菅原先輩とは違う…。


 城崎委員長とも違う…。


「……たの?」


 はっ!


「詩織ちゃん? どうしたの?」

 綾乃さんはビックリしたようすで、私に顔を近づけてきた。


 近い!


 ダメ! 綾乃さん、近いです!


 もうダメだ…。


「綾乃さん」


「なに? どうしたの?」


「私…。多分、変態です…」


「変態って? 詩織ちゃん? どうしたの?」


 綾乃さんはそう言って、固唾をのむ。


「初めてなんです…。初めて女の子を好きになりました…」


「詩織ちゃん?」


 お店の中は私と綾乃さんだけ…。

 レトロな柱時計は 自身の振子の小さな音だけを店内に響かせている。


「綾乃さん、大好きです」


 綾乃さんは驚いている。当たり前だ。私が菅原先輩に言った「色ボケユリ女」それが今は私自身なわけだ…。

 綾乃さんに、申し訳ない事を言ってしまった。


「すみません。忘れてください…」


 私は居ても経っても居られず、席を立ち出口に向かう。


「忘れたくない!」

 そう言って、綾乃さんがカウンターから、私のところへ走ってきた。


 私を後ろから抱きしめる綾乃さん。


「ずっと見ていたんだよ…。電車で、詩織ちゃんのこと…」


 綾乃さんが私の背中越しで言った。


「綾乃さん?」

「詩織ちゃんに嫌われちゃうかも。と思って、言えなかったの。私も詩織ちゃんのことが大好きです…」






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