オセロってさ、挟まれると色が変わるじゃん? 私の色はかわらねぇけど
ピピピッ! ピピピッ!
ピピピッ!
うーん…朝か…。
どうしよう。城崎委員長、一人だよな…。
「待っているから!」って言っていたけど。なぁんだか、引っかかるんだよなぁ…。
いのりん先輩と城崎委員長、因縁というか。ライバル的な?
そういえば、この前、市谷先生が言っていたな。「今週末私は当直なのよ…」って。
よし! 退部届けを出しに行こう。その後に図書室に少し顔を出そうかな。
そうしよう! とにかく、いのりん先輩とはもう、関わりたくないからな。
私はベッドから出て、リビングに降りていった。
「あら? あんた、どうしたの? 休みでしょ?」
母さんが驚いているが、私だって早起きぐらいはするさ。
「うん。ちょっと、学校に行く用事があってね」
「珍しい…。友達でもできたの?」
「なによ、その言い方。そんなの私には必要はない!」
「まったく、あんたは…」
腹立つ! 朝から腹が立つな! まぁいい。私は本があれば生きていける。友達なんていらない。あっ。でも、恋人なんていたら嬉しいな…。まあ、無理だろうけど…。
私はそんな事を考えながら、朝食を済ませた。
そして部屋に戻り、携帯を見る。相変わらず続く、いのりん先輩からの通知。一応、私から昨夜、連絡はした。
(今日の事は 誰にも言いません。私に関わらないでください。お願いします。)
なのに、ずうっと、LINEが来るのは怖いな。とりあえず、退部届けも書けたし、行くか!
私が玄関を出ると、なんという事でしょう! キラキラと、朝陽のように輝く女性。昨日の夕方、お会いした、樋口 一葉様ではないか!
うぉ? 目があったぞ。
「あら? あなた昨日の? って? あなた、隅田さんのお嬢さんだったの?」
驚きながら樋口先輩は言う。なんだろう、お父さんかお母さんの知り合いか?
「おはようございます。父か母をご存知でしたか?」
「隅田さんって、有名な執刀医よ? 毎日、色々な大学病院で、執刀医として呼ばれているから、知らない人なんて、いないんじゃない?」
「そうなんですか? 知らなかったです」
「まあ、そうよね。あまり家にいないでしょ? 毎日のように誰かの命を助けているんだから…」
「そうでしたか…」
マジかーー! スゲーな父よ、私は鼻が高いぞ。
「ところで隅田さんも学校に行くの? 私も美化委員で行くから、一緒に行きましょ?」
うひょー! 笑顔が眩しいぞ、樋口お姉様!
「私とですか? 私と一緒じゃ品が下がりますよ?」
「何それ? 私は品なんてないから、そんな事を気にしたこと無いけど? それに、隅田さんは可愛いじゃない? 前髪上げればいいのに。電車に乗ったらやってあげるね」
「いえいえ、そんな! 申し訳ないです!」
「それじゃ、行きましょ」
こいつはラッキーだな! 朝からこんな美人と歩けるなんて。てか、可愛いなんて言われたこと無いんだけどな…。
駅に着くと、見たことのある綺麗な女性が…。
マジかー!?
市谷先生じゃねぇか! このまま、退部届け渡しちゃおうかな。そうすれば帰れるしな…。
「あら? 一葉ちゃんに隅田さん!」
「おはようございます。美梨ちゃん!」
「こら! 市谷先生でしょ? というか、隅田さんもおはよう。今日はどうしたの?」
「先生にお話がありまして。実は演劇部を辞めようと思い退部届けを持ってきました。今、お渡してもいいですか?」
「はい。それじゃ、生徒指導室に来てね」
はっ? 何? イジメか?
「はい…」
すると、樋口先輩は私に耳打ちをする。
「美梨ちゃんは 生徒指導室が大好きなんだよ。頑張って指導されてきてね。ふふ」
何、この人は? すごい優しい口調だな。 美人ってスゲーな。
私は電車に乗り、美人二人に挟まれた。周りにいる、車内の男性陣は みんな、こちらを見る。 引き立て役の喪女。これ以上引き立てなくてもいいぞ。
周りからは そう見えている事であろう。
「こっち向いて、隅田さん」
突然、樋口先輩が言った。
「へ?」
間の抜けた返事をする私。
すると、樋口先輩は 持っていたコームで、私の前髪をかきあげる。そして、アメリカピンで、前髪を留めてくれた。
「どう?」
そう言って、私に鏡を向ける。
「ありがとうございます…」
なんだか、私じゃ無いみたいだ…。
「隅田さん、明日からそうしなさいよ。せっかく目もクリクリっとして、可愛いのに。顔を出さないと、勿体ないわよ?」
は? ヤメロ市谷! 美人の余裕な発言は勘にさわる…。
「はい…」
「さあ! 着いたわよ! 降りましょ」
* *
生徒指導室…。
「今日は休日だから、誰もいないので、これを買ってきちゃった」
素敵な笑顔ですね、市谷先生。貴女に持たれている、ブリックパックのコーヒー牛乳とイチゴ牛乳も、さぞかし、お喜びな事でしょう。
「隅田さんは どっちを飲む?」
「いえ、そんな。もらえませんです」
「じゃあ、コーヒーをあげるね。半分飲んだら、交換する?」
コイツ、 空気よめよ! あたしゃ帰りたいんだよ!
「あの、先生」
「ストップ。 最初は私からです。その前に一口飲んでください」
うざっ! この先生の一言一句が勘にさわる! と思いつつ、一口いただくか…。
あっ、美味い。
「それでは 私からの質問です。隅田さんは 退部届けを 提出する前に、誰かに相談しましたか?」
はっ? んな相手いねぇーよ!
「しておりません」
「それでは次の質問です。菅原副部長と、仲が良さそうでしたが、彼女にも相談はしておりませんか?」
できるわけねぇーだろ!
「菅原先輩にも、お話はしておりません」
「質問はあと二つです。早く帰りたいですか?」
!?
「は…い…」
「それでは最後の質問です。菅原副部長が怖いですか? 市谷に言っても始まらねぇよ! などと思ってますか?」
知っているの? なんなの? 知っていたのかよ! なめてんのか? この女は!
私は悔しさというか、この女に見透かされた? そんな感覚に陥り、涙がこぼれ落ちた…。
悔しい! 悔しい! 怖かったのに! 何で笑顔で聞けるんだよ! 私は恐かったんだぞ!
「昨夜。菅原副部長から、私の自宅に連絡がありました。とんでもないことをしてしまいました…。てね」
だからなんだよ!
「菅原さんはね。小学2年生まで静岡県の山間部の方に住んでいたらしいんだけど、その時に大怪我をしたらしいの。山間部だから、病院も小さな診療所しかなくてね。救急車で、一時間以上かけて、清水市の総合病院まで、行ったらしいの。その時に、たまたま隅田さんのお父さんが、いたらしくて。あとは わかるでしょ? 隅田さんのお父さんに助けてもらったんだって」
だから…。だからなんだよ…。
「その時にね、隅田さんもいたのよ。覚えている?」
「いえ。覚えていません」
「隅田さんは家族旅行で、伊豆にいたんですって。それで、急患という事で、清水市の総合病院に行くお父さんのあとを追いかけて、隅田さんも一緒に行ったらしいけど?」
あぁ…。思い出した。父さんに、泣きながらついて行った。結局、伊豆のホテルには泊まらなくて、でかい病院で遊んでいたな。確かその時に、ミイラみたいな女の子と話した。父さんが助けてあげたとか? あれ?
「もしかして、ミイラちゃん?」
「アハハ! そうそう! そのミイラちゃんが、菅原さんよ。良かった! 思い出したのね! あの時に、何を話したか覚えている?」
「ずっと、仲良くして? とか言われたかな?」
「うんうん。それで? 隅田さんはなんて答えたの?」
「私は都会っ娘だから、たぶん会えないよ。かな?」
私が、市谷先生にそう答えると、入り口の扉が開いた。
「私も都会っ娘になれば、会える?」
ゲッ! いのりん先輩? いつからいたんだよ! 私は立ち上がる!
「しおりん。昨日はごめんなさい。しおりんに、やっと会えて。嬉しくて。あの頃、私がいた町では子供は私くらいしかいなくて、しおりんとお話しできたのが、嬉しくて…」
涙をポロポロと流す、いのりん先輩。
「あの。いのりん先輩。泣かないで下さい。なんとなく、事情はわかりました。でも、昨日のようなことは私は無理です。正直なところ、怖かったです」
「許してくれる?」
涙をポロポロと流しながら私に聞くいのりん先輩。仮に、私が「許せると思うか? このボケが!」と言ったらどうなる?
「まぁ。わかりました」
私が、そう答えると、いのりん先輩は私に抱きついてきた! そして、私を見つめるいのりん先輩。その目は徐々に閉じていき、私に近づく…。
「だから! そういう事はヤメロって言ってんだろ! 色ボケユリ女が!」
あっ…。やべっ…。
「そんな言葉を使っちゃ、だーめ」
いのりん先輩は そう言って、私の唇に人差し指をあてた…。
ゾワゾワゾワ…。私の背中に戦慄が走る!
「隅田さん。まだ退部したい?」
市谷先生が私に聞く。
「はい」
「即答! ちょっと待って! 流れ的に辞めないでしょ? 菅原さんと抱き合っていたじゃない!」
驚く市谷先生をよそに、私はもう一度言う。
「退部致します。お世話様でした」
私はそう言って、生徒指導室を後にする。
さぁて、帰るか。やっと、スッキリしたな。
あっ…図書室に少し顔を出すかな。
私は スッキリとした気分で階段を上がる。すると、後ろから足音が。
「しおりん待って!」
うご! いのりん?
「待ちません!」
私はそう言って走った! 一目散に図書室を目指した! 助けて城崎委員長!
私は図書室の扉を開け、室内を見渡す。いた!
「城崎委員長、助けて!」
私は城崎委員長の近くに行く。
「菅原ね! 何で直ぐに連絡しないの?」
そう言って、城崎委員長は私を抱きしめた。
「しおりんから離れなさい! 城崎!」
うひょー! いのりんが来たー!
「菅原こそ、帰りなさい! 隅田さんが怖がっているわ!」
ん? ちょっと待て! 城崎委員長? 私のお尻を触ってませんか?
私は城崎委員長から離れた。
「あの。城崎委員長?」
「何?」
何?って…。何でツンツンしながらデレデレした口元なんだよ!
「さぁ。私のところにいらっしゃい。危ないから」
ちょっと待て! なぜデレる? 城崎委員長の顔が、デレついている。
なんなの? このツンデレ女は! ユリか? コイツもユリなのか?
もう嫌だ!
誰か助けて!