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Milk Shakies〔ミルクシェイキーズ〕  作者: 青紙 ノエ
 気弱な男子と告白推進委員会の大人たち 
1/26

 出会い


 俺は都内の私立高校に通う、市谷いちがや 桐弥とうや2年生。


 去年の暮に、父親が他界した。母親には 会った事も無いし、どういう人かもわからない。今いる母親は 父さんの再婚相手だ。そして、その時から同時に姉妹(きょうだい)ができた。

 俺の七つ歳上の姉と、同い年の妹。姉の名は美梨みりさんといい、俺の通う高校で英語の教師をしている。

 妹の名は綾乃あやの。こいつは俺を避けている。と言うよりも、男が近くにいる事に対して物凄い嫌悪感を丸出しにする。


 当初、俺は一人っ子だった事もあり、姉妹ができることに、とても嬉しく感じた。それは友人からよく聞く話で、「昨日アニキと喧嘩してさ…」や、「妹が俺の観ているテレビのチャンネルを勝手に変えやがる!」と言う話に、羨ましく感じていたからだ。

 だが実際、共に暮らしてみると、とても窮屈きゅうくつな生活の始りだった。


 1階のトイレは女子専用。

 お風呂は女子優先。

 洗面所は女子優先。

 女子の洗濯物を触るな。臭いを嗅かぐな。


 

「嗅ぐか! 俺は変態か?」

 思わず独り言をもらすと、綾乃が俺のいる洗面所に来た。


「桐弥キモ。朝から独り言かよマジキモ。ホントキモ。そこどいてキモ」


 俺を見ると、何かしら絡んでくる綾乃。もちろん、悪い意味でだ。そういう事があるせいか、俺は綾乃とあまり会話をした事が無い。俺は綾乃を無視し、リビングに行った。



「おはよう、桐弥君」

 リビングに行くと、姉の美梨さんが朝食中。

「おはようございます」

「桐弥君、すごいね。採点したら、97点だったよ。90点以上は桐弥君だけだった!」


 美梨さんは今年から2年の英語の教科担任をしている。1年生のコミュ英と、2年生の英語だ。一応、学校には俺と美梨さんが姉弟という事は隠密に。という事になっている。それは俺が、試験で高得点を取った時に、疑われるかも。という配慮だ。


「きっと、先生の教え方が上手なんですよ」

「ですよねー!」

 笑顔で返す美梨さん。姉と妹で、性格が大違いだな…。


「おはよう、桐弥君。今夜はバイトでしょ? 夕飯は?」

「母さん、おはようございます。今夜は22時迄だから、まかないがあるので大丈夫です」

「そう…。あまり無理しちゃダメよ。もうすぐ大会でしょ? 筋トレもやるんでしょ?」

「ええ…」


 大会とは 俺が小学生の時からやっている、モトクロス。俺が出場するのはスピード&スタイルだ。


「ねえ桐弥君。今度の大会はどこなの? 私も見に行ってもいい?」


 眼を輝かせて、俺に質問をする美梨さん。来ないでいいんだけど…。


「別に、来るのはかまいませんが、今回は岩手ですよ」

 本当は名古屋だけど…。

「マジかー! 無理だー!」

「近くでやる時に、応援をお願いします。それでは学校に行ってきます」

「やば! もうそんな時間? 私も行かなくちゃ! 行ってきまーす!」

「はいはい。行ってらっしゃい。綾乃? あなたも早く、支度しなさい」

「私は今日、10時登校だもん」

「あら? そうだったわね」

「ねえ、お母さん。桐弥、嘘だよ」

「何が?」

「大会、岩手じゃないよ。名古屋だよ」

「あら…。そうなの? 何で嘘なんて…」



      ◇



 その日の放課後…。


 生徒会に所属する俺は週に何回か、ちょっとした仕事をしている。ちょっとした仕事とは、木登りをし、降りれなくなる2年R組の厨二女(ちゅうにおんな)の救出だ。

 その救出は1年の男子の担当となっている。俺がやる事は、アップスライダーと呼ばれる、伸び縮みするハシゴを木に設置するだけだ。


 まったく…。降りられねぇんなら、登るんじゃねぇよ…。


 

「桐弥!」

 そんな中、名前を呼ばれた。話しかけてきたのは 俺の一つ年上の先輩、砂川すなかわ あおい君。父親同士が親友で、俺たちは小さい頃から、お互いに仲が良い。


「あ、こんち」

「あはは! また救出か? めんどくさい女だなアイツ。普通にしていりゃ可愛い子なのにな」

「マジか? 趣味悪いぞ?」


 世間では厨二っぽい性格の子がモテるのか?


「ところでトレーニングはしているのか?」

「葵君こそ、しているのか?」

「お前! 生意気だぞ? 俺にトレーニングは必要ねぇ!」

「へぇ。この前の夜にバイトの帰り道で見たぜ、死にそうな顔で走り込みをやっていたのを」

「マジか? そんな顔をしていたか?」

「なーんてね。葵君なんか見たこと無いけど。てか、トレーニングしているんじゃん」


 この葵君も、実は俺と同じく、モトクロスをやっている。葵君もスピード&スタイルに出場する。


「お前! まあ、いいや。バイクは? セッティング終わったのか?」

「明日。胡桃くるみの家に行って見てくる。篠原さんが、ある程度やってくれるから、俺は最終チェックだけで済むからね。篠原さんには感謝しても、しきれないよ…」


 すると、後方から俺に向かって、罵詈雑言ばりぞうごんがきた。


「おい! 嗚咽おえつがや桐弥!」

「誰が嗚咽だ!ブサイクが!」


 この口の悪い女。篠原しのはら 胡桃くるみは 俺と同い年だ。そして、胡桃のお父さんが、先ほど話に出た、篠原さんである。ちなみに、篠原さんと俺の父親も親友同士だった。その事もあり、胡桃のお父さんは俺の事を息子のように可愛がってくれている。


「お父さんからの伝言だ! その気持ち悪い顔を整形しろ! 以上だ!」

 コイツ!?

「テメェ! まあ、いい。明日の昼ごろに顔を出す。篠原さんに伝えてくれ」


 胡桃は俺に、それだけ言うと、友達と帰って行った。


「ちょっと! 胡桃! 謝りなよ!」


 胡桃と一緒にいた友達が、俺に気を使っている。あの人はいい人だな。

 あれ? 一緒にいる人って、どっかで見たことあるな…。そんな事を考えていると、葵君が話しかけてきた。


「なあ。何で桐弥は胡桃に嫌われているんだ?」


 当然の事を俺に聞く、葵君。


「知らない。でも、あそこまで言うようになったのは最近だな…」



      ◇



 桐弥のアルバイト先、ON LIMIT(オン リミット)


「おはようございます!」

「おはよう桐弥! 突然だが、19:30に予約が入っちゃってさ! 裏から、椅子を2脚持ってきてくれ」

「はい、わかりました」


 俺のバイト先のバー。ここのマスターも俺の父親と親友同士だった。名前を梶浦かじうらさんという。俺が父親の事で、塞ふさぎ込んでいた時に、ここでのバイトを勧められた。

「うちは忙しい時なんて、あまり無いから、気晴らしにおいで」と言われた。が、まんまと騙だまされた。

 暇な時間帯は 開店から1時間の間だけ。その後は忙しくて、目が回るほどだ。バイトを雇うくらいだから、当然ではあるが。


「マスター、持ってきました。テーブルはどこにセッティングしますか?」

「奥に6人で作ってくれ」

 忙しそうにオードブルを作るマスターが俺に言う。

「了解です」


 今日は珍しく奥さんまで手伝いをしている。

ちなみにこのお店 ON LIMITは、昼間は喫茶店として、奥さんが営業をしている。今は()()の時間帯なので、奥さんはきっとバイト代を請求するだろうな。笑える…。


 そして、予約時間になり、お客さんが来た。


「いらっしゃいませ!」

「突然ですみません。予約した高木です」

 あれ? この人、学校の事務員の人?

「大丈夫ですよ。6名でしたね、こちらです」


 俺は高木さんを席まで案内をした。


「砂川君もそうだけど、市谷君も礼儀正しいのね」

「葵君が? 葵君はただの色ボケですよ? 高木さんは 葵君の家のお店に、行った事があるのですか?」

 高木さんは俺の質問に、ふふっと笑い答える。


「隣のアパートに友人がいてね。たまに、その友人宅に泊まった時に何度か」

「その友人って、佐原さはらさんって人ですか? 葵君が言っていたけど、面白い人なんですよね?」

「あら? 知っているの? 佐原も、もうすぐ来るわよ」

「あはは。楽しみにしております」


 俺はそう言って、高木さん達の食事の準備を始めた。


 ところで高木さん、なんで俺の事を知っているんだ? 全校生徒で、3千人位いるのに…。もしかして、先生の知り合いか? ってことは先生も来るのか? 来たら嫌だな…。考えるのは止めよう。フラグたてちまうからな…。


「こんばんはー!」

 残りのメンバー、5人の登場。あぁ…。やっぱりフラグたてちまった…。そのメンバーの中に、先生もいる。美梨さんだ。



「きゃー! 桐弥君! 制服カッコいいー!」


 …マジか…。 


「先生。皆さんの迷惑になりますので、大きな声はひかえて下さい」

「桐弥君! 学校以外では美梨ちゃんでしょ?」

「いらっしゃいませ。みなさんお揃いでしょうか?」

 とりあえず、先生は無視だ。


「美梨、無視されてる。」

 的確なツッコミを入れる女性。たぶん、この人が佐原さんだな…。

「違うよ佐原! もぅ、桐弥君ったら照れちゃって」


 照れてねーから!


 その後。カウンターにもお客さんが来て、店内は 毎度のごとく、満席になった。明日は休日という事もあり、先生たちのテーブルのワインは 湯水のごとく、底をつく。次から次へと増えていく、お皿とグラス。食器乾燥機も、悲鳴をあげているようだ。


「桐弥君、疲れたろ? これ飲みな」

 そう言って、初老の男性が、俺にコーラをご馳走してくれた。


「ありがとうございます。今夜はさすがにこたえますね」

 俺は磨いていたグラスを置き、乾ききった喉に、吐く息が白くなるような、冷たいコーラを注ぎ込んだ。


「ははは。遠慮をしない所を見ると、よほど喉が渇いていたな?」


「しっ! 失礼いたしました!」


「いいんだよ。もう少し…。あと30分くらいかな? 頑張ってな」

「はい! ありがとうございます!」


 気がつくと、時間は21:40。こりゃ、残業だな…。腹減った…。すると、

「桐弥く〜ん! ご馳走様!」

 先生たちのテーブルだ! 助かった! この団体がネックだった!


「ありがとうございます。チェックで宜しいですか?」

「はい、お願いします。でも、私と美梨は残ってもいいですか?」


 ゲッ! 笑顔で何を言っているの? 高木さん!


「えー! ショックー! そんな顔しないで…」

 先生は俺の顔を見て言う。そんなに嫌な顔をしちゃったか?

「先生、気にさわったらすみません。ただ、少し飲み過ぎかと思って。余計な心配ですよね」


 先生の落ち込んだ顔は 俺の言った一言で、一瞬にして笑顔を取り戻した。良かった。


「桐弥君…。ありがとう…。今日は帰りますよ。残りの時間、頑張ってね」

 先生はそう言って、少しふらつきながら、友人たちとお店を出た。


 俺を見て、高木さんはニコッと微笑む。なんだか、高木さんには見透かされているな…。まいいや。そんな事よりも、よかった。帰ってくれた。


 その後、俺は先生たちのいたテーブルを片付け、その洗い物を始めた。

 よかった。なんとか22:00にあがれそうだ。お客さんも、あと2人。これなら、もう大丈夫だな。すると、マスターが俺に言う。


「桐弥、お疲れ。まかないを用意したから、奥で食べなさい」

 終わったー。


「ありがとうございます」

 俺は奥の部屋で、マスターの作った食事を頂いた。大会が近い事もあり、魚メインの気を使った夕食だ。


「ああ。美味しい」

 思わず独り言をもらす…。


 明日は胡桃の家に行って、バイクのセッティングを見ないとな…。あ! 思い出した! 胡桃と一緒にいた人。バイトの帰りに、よく見かける人だ。さすがに今夜はいないよな。もう22:00過ぎだしな…。

 俺は食べ終えた食器を洗い、まだいるお客さんと、マスターに挨拶をして、お店を後にした。


 少し冷える、4月下旬の夜。疲れた身体をクールダウンさせるのには ちょうど良い気温だ。


 この公園だよな、いつも犬を連れて…。あれ? いる…。

 公園の外灯の下。たまに過ぎ去る風が、彼女の髪を揺らす。口には銀色の何かをくわえている。そして彼女はたまに頬を膨らませる。どうやら、銜えているのは笛のようだ。犬笛?


 俺は不覚にも、彼女に見惚れていた。月明かりに似た、外灯の明かりが、彼女を輝いて見せている。


 彼女は俺に見られている事に、気がついたようだ。当たり前だ。人気ひとけの無いこの時間帯で凝視されれば、何かしら感じるモノはあるはずだ。

 俺は彼女と目が合ってしまい、頭を下げた。目が合ってしまった事に対しての、恥ずかしさからだ。


「桐弥君!」

 何で俺の名前を?

「はい」

 バカか俺は? 何でいい返事しているんだ?

「えっと、胡桃の友達だよね」


 距離にして、5mくらいだろうか。その距離で、会話が始まる。


「うん、樋口だよ。5千円札と同じ字で、カズハ。樋口ひぐち 一葉かずは。K組だよ。桐弥君はG組でしょ?」

「ああ、G組。Kって理系か」

「うん。私の家って、そこの病院だから。私もね、ドクターを目指しているの」


 そう言って一葉は指をさす。その方向には確かに病院。それにしても、サラッと凄い事を言うな、この人は。


「へぇ…」

 ヤバい! 会話が終わっちゃう! って俺は女子か?


「桐弥君って、アルバイトをしているの?」

「ああ、うん」

「21:00頃に、よくここを通るでしょ? 私は毎晩、このコとここにいるからさ」


 そう言って、一葉という()は足元にいる犬の頭を撫でる。ていうか、バカでかい犬だな。


「その犬、ずいぶん大きいな」

「うん。アイリッシュ・ウルフ・ハウンドっていう犬種。北海道に住む叔母に貰ったの。怖くないよ」

「別に怖くねえし」

「違うよ! 今のはフェイレイに言ったんだよ」


 うひょー!


「そ…そうか…。フェイレイって言うんだ。」

「うん。ねえ、桐弥君」

「何?」

「明日、胡桃の家に行くんでしょ? 絶対に邪魔になるような事はしないから、私も見に行ってもいいかな?」


 変な娘だな。オイルくさいだけなのに…。ん? 胡桃に用事か? だよな、あはは…。


「別に、大丈夫じゃないかな。俺はバイクのセッティングを確認して、すぐ帰るから」

「良かった!  レース用のバイクとか、見たかったんだ!  ねぇねぇ!  エンジンかける?」

「は? バイク? エンジン? そりゃ、かけるけど?」

「やったー!」


 何? その笑顔! 一葉って可愛いな!


「どうしたの?」

「いや、あの。一葉って…」

「え? やだ! いきなり呼びつけ…」

「あ! ゴメン! つい!」

「えへへ。いいよ、別に。じゃあ私も。桐弥」


 やめてくれ! その笑顔!


「えーっと…。それじゃ、そろそろ帰ろうか。補導されちゃうかもしれないし」

「あはは! そうだね!」

「それじゃ、また明日。おやすみ一葉」

「うん。おやすみ、桐弥」


 こんな俺たちのやり取りを 遠目で伺う2人がいた。


「ねえ美梨。あれ桐弥君じゃない? 一緒にいるって彼女かな?」

「あの娘、樋口さん? なんで?」





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