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笑い話のはずだった

作者: 壱月

「だから俺に対して気があるのかと思ったらさ、ズボンのチャックが開いてたんだよ。

いやー、あれは恥ずかしかったね」


それは笑い話のはずだった。

この前電車に乗っていたら前に立っていた女の子が頬を赤らめていたから俺に気があるのかと思ったらまさかの、チャック開いてますよと小声で伝えられると言う事態に。

俺の脳内会議の様子も臨場感たっぷりに話してやったから思った通り皆笑ってくれた。

一部笑い過ぎて息も絶え絶えになっている奴らも居るが・・・。

お前らも気を付けろよーと溶けかけの氷が入った手元のグラスにお茶を注ぐ。

次はお前の番だぜと隣に座る友人に話を振るとヒィヒィ笑いながらもこれは俺が小学生の時の話なんだけどな、と話しだした。

これは期待が持てそうだな。思う存分笑い飛ばしてやろう。

ふと視線を感じて逆側を見ると若い女の子と目が合った。


最近加わったいつものメンツだ。俺のツレが大学生だと紹介していたな。

何でもお嬢様が通うような女子校育ちで男と関わりがほとんど無いんだそうだ。だけど社会に出たら男とも関わらなきゃいけない。

女子大生と言うだけで目の色を変えて飛び付く輩も居るだろう、しかも可愛い子となれば余計にだ。

その点お前らなら間違い起こさないから大丈夫だろうとこの全く色気の無いメンツに加える事を決めたと言われた。

華が出来たのは嬉しいが一言多いんだよと男性陣から茶化され一定の年齢以上の女性からは冗談交じりに私じゃ華にならないのかと非難されてツレがタジタジになっていたのは記憶に新しい。


「どうした?あんまり賑やか過ぎるのは性に合わないか?」

大学生の甥が居る俺は姪っ子が居たらきっと可愛いだろうなと思い面倒を見ていたら完全に親戚のオヤジのポジションをゲットしていた。解せぬ。

「あ、いえ・・・皆さん楽しそうだなって」

「おう、このメンツで集まる時は気ぃ使わなくて済むからな。お前さんは楽しめてるか?」


隣の友人の話が佳境に差し掛かっている。

いつもの通学路を通って帰ろうとしたら知らない黒い犬に吠えながら追いかけられたらしい。

追いかけられた時の心情たるや思わず息を飲んで聞き入ってしまった程だ。

「あまり年の離れた方と話す機会が無くて連れて来られた時は戸惑いましたが今は楽しんでます」

少し恥ずかしそうに視線を落としてはにかみながらそう答える彼女。

そうかそうか、若い子は楽しそうにしてるのが一番良いよな。


「今年卒業だろ?仕事落ち着くまで無理してこの集まりに参加しなくていいからな。体壊したら元も子もない」

素直な姪に会えなくなるのは少し寂しいが社会に出たらなかなか自分の時間を取れなくなるのは分かっている。

大学の友達も居るだろうし職場で気の合う仲間に恵まれるかもしれない。

そう思って言ったのだが

「卒業してからも参加しますよ?だって–––––




貴方がいるから」

「そしたらまさかのそいつがうちの飼い犬だった訳!俺を驚かせようと学校から帰ってくるまで黙ってたらしいが絶望しかなかったね!!」

友人渾身のオチも耳に入って来なかった。は?この子、何て言った・・・?

顔が熱い。心臓がうるさい。周りの音が聞こえない。姪だと思って世話を焼いて居た子が妙に可愛く見える。


いつものメンツでいつも通りの宅飲みだったがいつも通りじゃ無い展開。

どうやらこの子との関係は劇的に変化するようだ。

二の句を告げずに居る俺の飲みかけのグラスに入った氷がカランと涼しげな音を立てた。

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