序章 ソロモン72柱の悪魔 ※挿絵あり
ソロモン72柱が異世界に赴くのには、もう一つの理由がある。
それは、異世界で学んだ文化を使い、己が領地を発展させること。
彼女らは民を率いる者であり、自領を富ませる義務があるのだ。
そんな理由から、ソロモン72柱の目的は『勝敗』よりも、『存命』が優先される。
仮初の肉体である彼女らは、死亡してもレメゲトンにある肉体に魂が帰るだけだ。
だが、仮に、侯爵が大公に勝利したとしても、その直後に他者に殺害されてしまえば、それ以降、異世界の情報は手に入らなくなる。
逆に、敗北しても勝者に忠誠を誓うことで存命を許された騎士が、後の世で侯爵や大公よりも領地を富ませる想像は難しくない。
故に、
「ひぃぃ~、ごめんなさいごめんなさい、何でもしますから、こ、殺さないでくだじゃい”~~(泣」
「ほぉぉ、今、何でもするって言ったじゃの?」
こんな感じの光景が、頻繁に見られるのである。
そんな背景から、ソロモン72柱は争いつつも、敗者を積極的には殺さない。
敗北=魂の隷属であり、敗者の領地も自身の支配下に置かれる以上、生かして多くの情報を持ち帰らせた方が得である為だ。
「べーたん、今日は何して遊ぶじゃのー?」
「べーたんいうなっ!!」
「で、何が良いかの?」
「……マリカー」
「何本勝負?」
「4時30分までで、勝った方が多い方が勝ちよ!」
「門限5時じゃからの~」
ソロモン72柱の悪魔達の争いは、召喚された異世界のルールや文化を用いて行われることが多い。
『レメゲトン』においては隔絶した……、それこそ、天変地異を起こすなど造作も無い力を持つ悪魔達だが、現在の身体能力ではリスクが大きい。
故に、異世界の生命体に最適化された争い――、スポーツや学力、時には遊戯を用いて戦い、勝敗を決めるのである。
そして、それを導くのはパートナーである、貴方だ。
ソロモン72柱を召喚する方法、その中でも簡単な魔法陣や呪文は後に語るとして、ここでは最も大切な考え方のみを記しておく。
*
かの悪魔達は誰であろうとも、あらゆる利権や我欲で縛ることは出来ない。
故に、誰がどのようにソロモン72柱を呼び出し、また、どんな行いをさせたとしても、問題にはなり得ない。
だが、我々は肝に銘じておかなければならない。
悪魔達の自由を矮小な人間の法で縛るという無粋な真似をすれば、地獄の業火で焼き尽くされるという事を。