わたくしは神である、おそらく女神
―――寝過ぎた。
ちょっとした焦りと焦燥感。いやこれ同じ意味だな。
慌て過ぎている、落ち着けわたくし。落ち着くのだ。
わたくしは身を起こして脇に置いていた水槽を引き寄せる。
60センチ四方の透明なガラス箱に真っ黒エーテルを包装材代わりにして星屑いっぱい詰め込んである。
「どこも破壊されてないな、よしよし」
ガラス箱の蓋を撫でるわたくし。
―――わたくしは神である。おそらく女神。
前世は普通のOLだった。そうわたくしには前世の記憶がある。とはいえ、断片的な記憶だ。
結婚したのか事故で死んだのか天寿を全うしたのか、その辺は解らない。
あと地球を取り扱ってる神にも未だに会えていない。だがこれはまぁどうでもよくなっている。
今わたくしは自分の宇宙を持っているので前世の地球への執着心は薄れていた。
いや…執着心自体はあるな。自分で似たような地球を作ればよかろうもんってところだ。
そもそもどうして自分が神としてここにいるのかもわからない。
偶発的に生まれるらしい、そうしてなんか自分の宇宙を生み出すそうだ。
生み出さないままだと体内で生成?されるらしい、真っ白い美人の神がいたのだが、突然両腕が真っ黒になったので何事かと思ったらそれが宇宙だったらしく彼女は肩から両腕をパージして忌々しそうな顔をしていた。腕はすぐ新しいのが生えていた。
もったいなかったのでそのパージされた両腕はこのガラス箱にいれさせてもらった。
「さすが飢えの女神だな」とか言われたが。初手の行動のせいですっかり周りから食いしん坊キャラだ…。
生まれてまもないころに緑色のタコがいたから前世の記憶に引っ張られて「茹でれば美味しそうな赤になるかしら」って呟いただけじゃん。
上司にすげー口を聞く新神として広まってしまった。「お腹空いてるならどうぞ?いらないから」ってたまに宇宙のなりそこないをガラス箱に突っ込まれるようになった。貰えるんだったら勿体ない精神で貰うが、なんか生ごみ回収業者にされてる気がする。
あとみんなそれぞれで宇宙の形が違う。
わたくしのは水槽型だが、もともと蓋はなかったしみんな宇宙の屑をいれてくるのでオープンであった。
だがビー玉が飛んできてキレそうになった。割れそうなぐらいの勢いだった。
これはビー玉の形をした宇宙でビー○マンをしていたアホのせいである。
ぶつかり合って飛んだビー玉がこっちに来たのである。危なすぎる。ゴムで強化した違法改造ビー○マンの可能性がある。
そこからわたくしは蓋をするようにした。
良識のある神はちゃんと蓋を開けて捨てに来るし、初めからこうすればよかったのだ。
「さてさて地球っぽいものはできてるかな?」
蓋を開けて覗き込む。結構寝入ってしまっていたので宇宙の中の時間はかなり経っているだろう、期待してしまう。
目視のような感覚だがネット検索のような感覚に近い。該当する星に視線がすぐに合うという感覚だろうか。
大陸のある青っぽい星がある。人類の様子を探る。
大きな都市をみつけ、より深くズーム。
…なんかナーロッパみたいな街並みだな…いやまぁ、この宇宙はエーテルの海みたいなもんだから魔力に満たされてるから…まぁ…まぁ…。
そう…なるよねぇ…。いや、魔力のない水槽が手元にないから…前世の地球は作れないことは解ってるんだけどね。
高層ビルが建ちまくるサイエンスファンタジーみたいな星ってできないのかなぁ…背の高い建物が恋しい。
…なんでこんなに長いこと宇宙眺めてるのにそうならないんだ?
みんなからもらうたびに量が増すから確率が上がると思ったんだけどもしかして量が増すから成長が遅れる?
う~ん宇宙の神秘、こいつの法則がわからん。
「聖女ってなぁに?というか女神の像が白い美人神なのはなぁぜなぁぜ?」
例の腕の宇宙が素か、この星。
テンプレ聖女物語が始まっているが、まぁそれは関係ないからいいや。神は人類に干渉しないのだ。
しかしこれはぐるぐる掻き混ぜたほうがいい?いや斑になるだけかもしれない、下手に掻き混ぜて宇宙が死んでも困るな…。
………。
…あ。
地球のあった宇宙って。
ぶわぶわっと汗が出るような感覚。いや毛穴がないから前世の感覚が蘇ってるだけ。
神が保有する宇宙って、どうしても魔力が満ちる。
魔力の無い宇宙って、もしかすると、神の手から離れた―――放棄された宇宙なのでは?
この無限に広い神の世界で地球を保有してる神を探すのって無理~って思ってたけど、そもそもが捨てられた宇宙だったら?
たまに見るよ、捨てられてカラカラに魔力が枯渇して干からびてるペラペラの宇宙のゴミ。
さすがにあれを水槽にいれるのはな…って思ってたけど…。
あれがまだ生きてる宇宙だとしたら…。
地球はそういう宇宙にあったとしたら…。
………。
わたくしが転生してからすごく、すごーく時間が経っている。
もう、地球ないかもしれない………。