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エピローグ

 私は日記を閉じると、机に備え付けてある魔道具の灯りを消す。

 日記は毎日の出来事を要さんに伝えるために書いている。

 なので、日記の文章は別れた当時の自分の言葉で書くように心がけていた。こんな話し方はもう絶対にしないけど。

 そして、一ヶ月に一度は今までの人生を振り返り、それを日記に書き記す。決して忘れないように。

 暗闇の中ベッドに寝そべり、天井をぼーっと見つめる。

 この村に来て、何年が経過したのか。


 各地を渡り歩き、厄介事に何度も巻き込まれて解決している内に「神の寵愛を受けた者」なんて大層な呼び名がついたのは恥ずかしかったな。

 村の離れに住まわせてもらっているが、念のために村の人々の記憶はいじらせてもらっている。

 私はお爺さんと一緒に暮らしていて、爺さんはなくなったという設定。ついでに子供もいて自立したことにした。……子供を産んだことなんてないし、それどころか結婚すらしたことないのに。


「楓が知ったら、くだらない見栄を張って。と呆れそうですね」


 彼女は日本で幸せに暮らしたのだろうか。そうだったら、嬉しい。

 私は雪音を失ってからずっと一人だ。周りに悪影響を与える負の加護のせいで、一定の場所に留まることはできなかった。

 今も偽の情報を村人に植え付けて、ここに近づくのを躊躇うように仕向けている。

 そんなことをしてまで、人との接点が欲しかった。村人を危険にさらす行為だとわかっているのに、私は少しでも……人と触れあいたかった。会話がしたかった。

 それぐらい……寂しかった。

 夜になると、どうしようもないぐらい寂しさが募る。いい年をして未だに慣れない感覚。


「日本に戻りたかった、な」


 体が老いていき死へと近づくにつれて、望郷の思いが強くなっていく。

 最後に日本を一目……それが適わないのなら、日本の話を日本語で交わしたい。

 日本へと戻る術はずっと探っていた。魔王城にある宝珠なら可能ではないかと、危険を承知で情報を集めたことがある。

 だけど、宝珠は既に砕かれ跡形もなくなっている、との情報を得てしまう。

 それでも諦めきれず、苦手だった勉強を続け、魔法陣や転移について学び続けた。

 結果、ある程度の知識と技術を得たが、今だ完成には至らない。転移陣の失敗は大惨事を引き起こす可能性があるため、容易に試すことができない。

 日本に繋がらずに別世界へと繋がり、災厄を招く魔物や異世界の神を喚び出す可能性もあるからだ。


 だから、ずっと我慢をしてきた。


 でも、私はもう、耐えられそうにない。

 要さんの笑顔も声も記憶から薄れていって、すべてがぼやけてしまっている。絶対に忘れないと誓ったのに……。

 ベッドの毛布を強く握りしめて涙を堪える。


「誰かと話したい。側にいて欲しい。触れあいたい」


 このまま一人寂しく死ぬのは嫌だ。

 だから、わずかな可能性にすがっても……許されるのではないか。

 何年も葛藤を続けてきたが、もう耐えられそうにない。心が、寂しさが、限界を迎えていることを一度自覚してしまうと、止まらなかった。

 飛び起きると、巻物を取り出して家の隣にある畑へと飛び出す。

 畑の真ん中に魔法陣を描き、その上に土の人形を置く。

 日本へ転移する陣は不可能としても、日本人をこちらへと召喚する陣なら可能性がある。実際に私が経験したのだから。

 過去の記憶と魔王城、元東の国、西の国から集めた資料。これを元に改良した魔法陣。


 これなら日本から召喚できるはず。


 ただ、対象は選べない。誰が来るか、それとも人ではなく動物か……物が来るか、それもわからない。

 それでも、それでも、私は日本へ、故郷に触れたかった。


「せめてもの詫びに、私の能力を少しでも分け与えよう」


 魔法陣に自分の加護が流入するように細工を施す。

 これで召喚されたモノは異世界でも活躍できる力を得られる、はず。


「ああ、懐かしの日本。誰か、私と会話して……日本語を聞かせて……触れさせて……」






 彼女は知らない。

 この召喚陣が今後何を引き起こすのかを。

 巻き込まれた二つの魂がどのような物語を紡ぐのかを。

 彼女の物語はここで一旦幕を閉じる。

 だが、これが新たな始まりに過ぎないことを……彼女が知る術はない。




「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」「俺は畑で無双する」外伝完結です!

……タイトルが違う?当初はこのタイトルでいこうか迷ったのですが、リアルタイムで読んでくれている人が楽しめるように、ずっと黙ってました。

 とはいえ、外伝なら読みたいと思う読者がいると思いますので、あとでタイトルを変更するかもしれません。

 無事なんとか書き終えることができました。この物語の切っ掛けは「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」のアニメの脚本会議で「冥府の王には何か設定ありますか?」という質問でした。ある程度は考えていたのですが、この際なので新たな物語として構築してみようと。

 以前から考えていたタワーディフェンスを題材にした物語と合わせてみたら……こうなりました。

 外伝という立ち位置ではありますが、この作品だけでも楽しめるように書いたつもりです。

 と後書きが長くなりすぎましたね。

 この物語はこれにて終了です。皆様、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
最後まで読んだら駄作への布石で辟易とした ゴミ作品につきあわされた時間を返してくれ 単純にこの作品を楽しんでたのに毎回投げやりな終わり方しやがってふざけるな
[一言] バッドエンドタグをつけていて下さい…。 3章終わりから何もかもをひっくり返してのハッピーエンドをか細く望んでいましたがそれも絶たれました。 別にバッドエンドが悪い訳ではないのです、でも心構え…
[良い点] まさかこんないろんな物語と繋がってるとは [一言] 完結おめでとうございます! お疲れ様でした!
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