今日はゲコクジョウ
「ほんっとに、容量悪くて空回りばかりだよね〜美香は、ケラケラケラケラ」
ケラケラと笑う女を人生28年生きてきて、美香は初めて見た。
10日ぶりの休みに、お昼にハンバーガー屋で席を探していたら、会社の同期と10個上の先輩がフライドポテトを食べながら談笑している。
よりにもよって、大嫌いな2人が。
同期のルナは出産して子供がよく熱を出すため、独身である美香に残業のお鉢が回ってくる。先輩のミホは、小学生の子供の行事のイベントと鬱病休職中の旦那がいるためシフトを減らし、その分を美香が出勤している。
確か今日は、ルナは子供の病気、ミホは旦那の世話と言って休みだ。休暇をとりにくい雰囲気の中、10日連勤の限界で休みをもらった。
「美香みたいなタイプって結婚できなくて、一生独身のタイプですよ〜ケラケラ」
ルナの言葉が耳障りだ。病気の子供はどうした。
「ほんっと、仕事仕事で彼氏もいないんじゃない〜あははっ」
ミホの言葉に真っ黒な気持ちが広がる。鬱病の旦那の看護はどうした。
お昼のせいか、美香は席にもつかず後ろから呆然と見ていたらお客が増えて、席がなくなってしまった。
せっかくの休み。せっかくのお昼。せっかくの..... 。
食べ終わって、他の客に席も譲らずに図々しく喋っている。わずらわしい声がますます大きくなった。
他の店にしようか、美香は歯をくいしばり涙目で2人を睨む。
私は子供も旦那もいない。独身には会社も仕事の量を増やしている。転職まで考えた。ルナは猫なで声で上手くバカな上司に取り入って不倫の話しも聞く。
ミホは、会社では上手く立ち回り優しい先輩を演じて鬱病の旦那を盾に仕事を休む。
こんな奴らのために私は仕事に追われて疲れていたのか。
気持ちが凍てつく。
また職場で顔を合わす。これ以上はここには居られない。美香がドアへと向き歩き出した時だった。
「先輩〜、私のおかげですよ、休めるのは部長との関係、疲れるんですから〜まあ、ワンオペ育児の時よりは楽しいけど♪」
ルナがケラケラ笑う。
「本当に感謝してる♪鬱病たってもうすぐ旦那も復職するしさ、もうちょっと休みたかったんだ〜」
ミホが気楽に呟いたその瞬間、美香は2人に向かい歩きだし、美香の横で立っていた人も動きだす。
「フザケンナ!不倫女のビッチが!お前なんかが子供の親だと思うとゾッとするわ!」
テーブルに置いてあったお冷をルナの頭めがけて、水をぶっかけた。突然の事で、ルナは化粧がドロドロ落ちていくのも忘れ目を丸くして呆然として美香をみている。
「ひっ」
ミホが大きな影に怯え、変な声をだした。
「そろそろ、席譲ってくれませんか?あと旦那さんが復職されるなら、仕事復帰しろよクソババアが」
休みをとれなかった美香のために半休をとってまでデートに誘ってくれた彼氏のイサムだ。スーツ姿でネクタイがゆらゆらとミホの顔にあたる。
「どけよ、不倫女、クソババア。こっちは10日ぶりのデートなんだよ!あと、2人とも明日から仕事でろよ、仕事来なきゃ、家族と上司に全部話すぞ」
美香の聞いた事もない声で、2人はこくりと頷きオロオロと店を出て行った。
「こっわ、下克上かと思ったわ、お席にどうぞ、赤穂浪士さま」
イサムが笑う。
「誰が赤穂浪士だ」
美香は、いつの間にか笑っていた。