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今日は。  作者: 長谷川 有
10/17

今日はスマホ没収日

やばい・・・。

高校2年の健介は、公園のベンチに座り青い空を見ていた。



2学期の期末試験の勉強の最中に、スマホで学校の友人とLINEをしている時に、母親が部屋に突撃してきた。



年末からは、本格的な受験勉があるのに希望大学にはギリギリの偏差値なのだ。



母親は、鬼のように顔を青ざめて・・・いや、青鬼は絵本ではいい奴だ。コーラと夜食を部屋のローテーブルに叩きつけ、スマホを床に叩きつけた。



母親の腕力をなめていた。スマホの画面にヒビが2、3本入り画面が真っ黒。友人が消えた。



「何すんだ・・・」

言い返そうとしたら、母親が落ちているスマホをこれでもかと足で踏みつけ、ヒビが3本増えた。



「期末試験の勉強が終わるまで、スマホ没収!」

ヒビだらけのスマホをむんずと掴むと、母親はドアを勢いよく閉めた。



「マジか・・・」

健介は、今までのライフラインを絶たれた気がして、家の親機で友人にコトのてんまつを話したら、ゲラゲラ笑われた。



期末試験勉強期間は、あと1日もある。とりあえず、その日は勉強をしてベッドに入った。



手が何かを引き寄せようとしている。青鬼にとられたスマホだ・・・。



期末試験の勉強は、早めに終わらせていたので、日曜日の明日はする事がない。



健介は、空気スマホを持った形で眠りについていた。



とりあえず、バイトで稼いだ金と家のカギを持って外へ出た。



日曜日のせいか、どこも混んでいて、ファーストフード店で、ハンバーガーとコーラを買う。




手持ちぶさたで、周りを見ると8割の人の頭頂部だらけだ。みんなスマホに夢中で周りを見ていない。



「お待たせしましたあ~」

テイクアウトで頼んだ袋を、健介と同じくらいの年齢の女の子が持ってきてくれた。


この店、こんな可愛い女の子いたっけ?普段は、スマホを見ながら下を向いていたせいか気がつきもしなかった。



青鬼もたまには良いことをするなあと健介は、心の中でにやけた。



子供の頃から来ていた小さな公園に行く、少し肌寒くなったが冬の寒さではない。



ベンチに座ると、砂場を挟んだ正面のベンチに老人と息子くらいの男と小さな女の子が座っている。家族だろうか。



俺もいずれは、あんな大人になって老いていくのかなあと健介は、空を見た。


「うっわ 」

思わず声が出た。

最近、勉強ばかりとスマホばかりで、久しぶりに見る空が思いのほか、高くなっている。



スマホがなくて時間はよく分からないのに、うっすらと白い下弦の月が出ている。



「空って、こんなに綺麗だったっけ?エモい・・・」

健介は、首が痛くなるまで空を見た後、冷たくなってしまったハンバーガーを口にした。



まずい・・・。普段はスマホを見ながら適当に食べているせいか、味すらよく分からなかった。



これじゃ、青鬼の手作りの料理の方がウマイ。



「スマホないと、味覚まで冴えるのな」

独り言を言って、完食はした。



いつの間にか、目の前にいた家族がいなくなっている。



時間って、こんなにゆっくり進んだっけ?俺、生き急いでない?



夕日が、ゆっくりと落ちていくのを見ながら、今頃、友人達のLINEやSNSの通知がたくさん来ているだろうな、と思いつつ、スマホ1台で、人間関係は、あっさり途絶える。



俺がここにいる事も誰も知らない。何だか深く呼吸が出来る。



健介は、伸びをしてから家までゆっくり帰った。



玄関口でヒビがなおされたスマホを持ちながら、青鬼、否、青い顔をした母親が待っていた。



「健介に返そうと思ってなおして、電源いれたら通知が鳴りっぱなしなのよ、お友達、大丈夫かしら?返すわ」

友人関係を心配した母親からスマホを受けとると、健介は電源をoffにした。



「どうせ、明日会えるし、大した事でもないし、腹減った~」

健介は、動揺している母親の横を通りすぎ、リビングに行った。



カレーの匂いがする。今日は母親の料理を味わって食べよう。



窓から見える月が、街を静かに夜に変えていく。







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