能力鑑定
「それでは、今からお二人の能力鑑定を行わせていただきます」
ワイバーンの素材を換金しにギルドへとやってきた俺たちは、カウンターから奥の部屋へと案内されていた。
ギルドを利用するには冒険者として登録する必要があるらしい。
そのため今、必要な情報である能力やステータスを測定しようとしていた。
「じゃ、まずは私から行こうかしら。受付嬢さん、お願いするわ!」
よほど自信があるんだろう。
ウルミナンテは自慢の長い髪をかきあげながら一歩前へと進み出る。
「承知しました。ではウルミナンテ様、床に描かれた魔法陣の中へとお進みください」
「うっ……魔法陣。トラウマが刺激されるわねぇ……」
愛想の良い受付嬢に言われ、ウルミナンテは警戒する猫のように恐る恐る陣の中央へと進んだ。
陣が輝きを放つ。
直後、ウルミナンテの正面に青白いホログラムが出現した。
「す、すごいです……!」
ホログラムを覗き込んだ受付嬢が感嘆の声を上げた。
「ふふーん。ま、当然の結果よね♪」
「どれ?」
俺もホログラムを覗き込む。
ワイバーンを仕留めて街へと移動する際、俺はウルミナンテより勇者は天界の加護を受けるおかげで、その世界の言葉や文字を難なく理解することができると説明を受けていた。
おかげで受付嬢の言葉も理解できれば、ホログラムに表示される文字も読むことが可能だった。
表示されている内容はこうだ。
【Lv】120 【職業】聖職者
【HP】5721 【MP】3506
【攻撃力】2101 【防御力】3117
【敏捷性】2788 【魔力】0
【神秘】4555
【特殊スキル】秘密♪
★総合評価 SSランク
「……ふむ。受付嬢、これはいい方なのか?」
俺は腕組みして思案しながら尋ねる。
「もちろんとびきりいい方です!」
受付嬢は落ち着きのある大人の女性だが、そんな印象とは裏腹に興奮した面持ちで語りだす。
「この世界に冒険者はたくさんいますけど、SSランクは一万人に一人と言っていいほど希少性が高いんですよ? 」一般的なCランク冒険者が束で挑んでも敵わないAランクモンスターをお一人で倒せるのも納得です!」
「ふひっ……ふふふ、あはははははは! わかったかしらネシス、私の真の価値が! 私みたいに超優秀な女神があんたのサポートをしてあげるんだから、泣いて感謝することねっ」
能力について褒められ慣れていないせいか、下品な高笑いをする堕女神がいた。
「受付嬢、次は俺の番だな」
「って私の話を聞きなさいよ!」
「はぁ……お前は口を開くと価値が落ちることに気づいた方がいい」
「へ? ……はは〜ん、何よネシス。つまりあんた、私がとびきりの美人って言いたいんでしょう? どうりで時々、やらしい目で見てくると思ったのよね。勇者のくせにとんだ変態でーー」
豊満な胸を抱いて胡乱な目でこちらを見つめる女神。
俺はウルミナンテに向けて指を振り下ろす。
「伏せ」
「ンゴォォオッ!?」
女神は一瞬にして地べたにへばりつく。
ちなみに、サイコキネシスを使った超重力攻撃は、指の振り加減で持続時間が変わる。
「せめて俺の鑑定が終わるまで大人しくしていろ」
「あ、あんたぁ……お、覚えてなひゃいよぉ〜〜〜……!!!」
重力で圧迫された無様な表情の女神を置いて、俺は魔法陣の中へと進む。
その間際、一連の流れを見ていた受付嬢が驚きを隠せない様子で、
「SSランクの彼女を指先一つであっさりと……。もしかしてこの人、彼女以上の傑物だったりして!」
勝手に期待して息を呑んでいる。
ウルミナンテと対峙した時のことを鑑みれば、俺の方がステータスは上だろう。だが俺は能力鑑定について思うところがあった。
すぐさま魔法陣が輝いて目の前にホログラムが表示されていた。
「い、いったい、どれだけの逸材で………………あ、れ?」
ホログラムを見つめる受付嬢は、拍子抜けしたようにきょとんとしている。
この結果を見れば無理もなかった。
【Lv】0 【職業】ただの人間
【HP】100 【MP】0
【攻撃力】50 【防御力】50
【敏捷性】70 【魔力】0
【神秘】0
【特殊スキル】なし
★総合評価 Eランク
察しはついていたが、やはりこうなったか。
混沌世界・バルハデスは、見たところ一般的な剣や魔法の世界と言っていい。
つまり魔法はあっても超能力が概念的に存在しないため、測定不可能と予測していたというわけだ。
「ぷっ、あははははは! なによネシス、あんたレベル0って! しかもEランク〜! この世界じゃ駆け出し冒険者のランクよそれ!」
超重力から解放されたウルミナンテが、俺の評価を見て腹を抱えて笑う。
「黙れ。この結果は想定内だ」
俺は冷静に返しつつも、ふっと笑う。
「だが、もし誤算があったとすれば、天界側が勇者補正を施せなかった点だな。世界救済を依頼しておきながらあまりにお粗末がすぎる」
「あっ」
ん? この女神、今何か忘れていたというような顔をしたな。
ウルミナンテが焦りを誤魔化すように口笛を吹き、指を鳴らしていた。
すると、魔法陣が再び輝きだす。
「あ、再鑑定が入りましたね! すぐに結果が表示されるはずです。……きました! ええと、多少変化が見受けられますね」
受付嬢に言われて再度ホログラムに目を通す。
【Lv】0→3
【HP】100→1000
LvとHPに修正が入っていた。
他の数値は低いままなせいか総合評価は駆け出しの域を出ないが、さっきよりは遥かにマシな結果だ。
俺は冷ややかな目でウルミナンテをねめつける。
「勇者補正をかけるのはサポート女神の役目だったか。仕事をおろそかにするとは、やはりお前はろくな女神ではないな」
「う、うるさいわね! ちょっとうっかりしてただけじゃない! はんっ、私よりステータスが低かったからって八つ当たりはよしなさいよねっ」
「八つ当たり? お前を羨む必要がどこにある? 実力がどちらが上かは既に勝敗が決しているだろう?」
「はあ!? 天界最強のこの私が! いつあんたにはっきり負けたって言うのよ!?」
天界の不良女神と視線をぶつけあう中、受付嬢が声をかけずらそうに、
「あのぉ……お二人が何を話されているかはわかりませんけど、能力鑑定はこれで以上となります。このあとはギルド内の施設を自由に利用することができますので、そのおつもりで。それとーー」
受付嬢が『ステータス』と呟くと、彼女の前にホログラムが出現した。
「ギルドに登録後は、このように『ステータス』と口にするとご自分や周囲にいる他人のステータスを確認することができますので、ぜひご活用されてくださいね♪」
受付嬢が指先を使ってホログラムをスライドさせると、俺とウルミナンテの情報が表示されていた。
俺とウルミナンテはそれぞれにホログラムを表示させる。
「それにしても、職業ただの人間って……ぷくくっ」
職業・聖職者のわりには徳の低い女神が人をあざ笑う。
そんな中、俺は受付嬢に問う。
「一つ聞きたいんだが、この世界の悪魔にも俺たちのステータスは確認できるのか?」
「え、悪魔に、ですか……? もちろん、私たち人間を管理する側の悪魔の方々は、無条件に人間側のステータスを確認できますけど、それが何か?」
「いや……大した理由はない。少し気になっただけだ」
受付嬢は悪魔の話題になった途端、酷く表情を強張らせて歯切れが悪くなる。
この世界の人間にとって、悪魔は畏怖すべき対象であると同時に、なるべく避けるべき話題のようだ。
まあ、この辺りもファンタジー世界のセオリー道理のようだな。
「……」
しかし、ステータスか。
今から勇者として悪魔を狩っていく側の俺からすれば、実際の力と乖離しているであろうステータスは敵の油断を招きやすいと言えた。
「……ふっ、せいぜい利用させてもらうこととしよう」