死体の運搬
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……ど、どうしてこの私が、あんたを運ばなきゃなんないのよぉ……」
一本に結った長い金髪ヘアーは、そのところどころが撥ねていた。
「街まで歩けばかなりかかるという話だったろう? 俺を運ぶのは同意の上だったはずだが」
あの後、俺たちはワイバーンを難なく倒し、草原から遠く離れた街へと降り立っていた。
ウルミナンテは俺を担いでの長時間飛行だったため、死んだ魚のような目で肩で息をしている。
彼女に比べれば俺は涼しげなものだが、全く疲れていないわけではなかった。
「ふぅ、しかしこいつを運ぶのには苦労した……」
俺は真横で死に絶えているワイバーンに目をやる。
サイコキネシスで浮遊させ、こうして街まで運び込むことができていた。
とはいえ、かなりの巨体なため、さすがに俺も体力はそれなりに消耗している。
「でしょうね……。運ぶのがそっちじゃなくて本当よかったわよ。あんたの奇妙な力には感謝ね」
「お互いにな。それより、ここに居続ければ面倒だ。さっさとギルドとやらにこいつを売りさばきにいこう」
「そうね、私もいい加減腹ペコよ。ギルドは目の前だし、さっさとお金に換えてまずは腹ごしらえを–−」
ウルミナンテが汗を拭って動き出そうとした時だ。
ワイバーンを見ようと集まっていた衆目の一人が、彼女に声をかける。
「へえー! もしかして嬢ちゃん、こいつをやったのはあんたたちかい?」
「へ? ま、まあそうだけど」
「そりゃ大したもんだ。そっちの兄ちゃんもすごいなぁ!」
「ふふーん。その男は関係ないわよ。ワイバーンを仕留めたのはこの私。あいつは何もしてないわ!」
事情はさておき、ウルミナンテの言っていることに間違いはなかった。
あの後、ドラゴン退治に勤しもうとした俺だったが、こちらの意図を察してか、ウルミナンテがさっさと先制攻撃を仕掛けてワイバーンを一撃で倒しきってしまっていたのだ。
ウルミナンテのやつ、実力が相応にあるのは認めるが、かなり調子に乗っているな。
大方、今まで自分の力がまともに認めてもらえる機会がなかったせいだろう。
踏ん反り返った様子で胸を張り、胸元に浮かんだ玉の汗が谷間へと消え去っていく。
ウルミナンテが語る内容も耳目を引くが、その見目麗しい美貌が何より視線を集めてしまっていた。
「自慢はそれくらいにしておけ。ほら、行くぞ」
「あ、ちょっと何よ! 自分が称賛されないから嫉妬するなんて、幼稚にもほどがあるんじゃな〜い?」
「幼稚なのはどっちだ。さっさと用事を済ませるぞ」
俺はウルミナンテの首根っこを掴んでギルド内へと向かった。