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廃鉱山への道

山城の一室で、利雨は菊池と源吉を前に、白北山地の未来について話し合っていた。部屋は質素ながらも、綺麗に整頓されており、利雨の新たな統治体制の芽生えを感じさせた。窓の外には、白北山地の山々が雄大に連なっている。しかし、その山々はどこか寂しげで、活気が感じられない。


利雨は、机の上に広げられた白北山地の地図を真剣な眼差しで見つめていた。地図には、集落や山道などが記されているが、大部分は未開の地として空白になっていた。


「白北山地の発展のためには、何が必要だろうか?」

利雨の問いかけに、菊池が表情を曇らせながら答えた。

「農業は、厳しい土地柄ゆえに難しいでしょう。林業は、木々は豊富ですが、搬出が容易ではありません」

源吉も、腕を組んで考え込むように頷いた。

「交易も、山深いこの地では、他の地域とのつながりが希薄で難しいのが現状です」


「…何か、この地ならではの資源はないのか?」

利雨は、地図から顔を上げ、二人に問いかけた。源吉は少し間を置いてから、口を開いた。

「…資源といえば、大昔に枯渇したとされる「魔鉱山」がございます」

「魔鉱山?」

利雨は、初めて聞く名前に興味を示した。

「ええ。かつて、魔法的な力を秘めた「魔鉱石」が採掘されていた山です。その頃は、鉱夫や商人で賑わい、白北山地は活気に満ち溢れておりました。しかし、100年ほど前に鉱脈が枯渇し、それ以来、白北山地は急速に寂れてしまったのです」

源吉は、祖先から繰り返し聞かされてきた過去の賑わいを話した。


「…もし、まだ魔鉱石が残っていれば…」

利雨は、再び地図に目を落とし、呟いた。もし、魔鉱石が見つかれば、白北山地の未来を変えることができるかもしれない。

「小丞様、魔鉱山は危険な場所だと聞いております。それに、今となっては、人もよらない廃坑です」

菊池は、利雨の言葉に不安げな表情を見せた。


しかし、利雨の決意は固かった。

「それでも、確かめてみる価値はある。もし、魔鉱石が見つかれば、白北山地の未来を変えることができるかもしれない。危なくなったら、すぐ引き返そう。」

利雨の言葉には、白北山地を発展させたいという強い意志が込められていた。その言葉の裏には、もう一つの感情が隠されていた。それは、父によって、この荒れ果てた地に追放されたような扱いを受けたことへの、反発と怒りだった。

「では、某を先頭にして、危険を察知したら、そこで引き返すということでよろしいですな。」

「うむ。それで構わない。」

「それでは、近いうちに、ご案内いたしましょう」

源吉の言葉に、利雨は力強く頷いた。

「頼むぞ、源吉殿」


魔鉱山へと続く道は、白北山地の未来を切り開くための、希望に満ちた道となるのだろうか。利雨の胸には、期待と不安が入り混じった、複雑な感情が渦巻いていた。



早春の朝、まだ冷たい空気が山城を包んでいた。利雨と菊池は、魔鉱山探検の準備を整え、門前に立っていた。利雨は旅に適した軽装で、腰には剣を携えている。菊池は、弓矢と山刀を装備し、背中には食料や道具が入った大きな背負子を背負っていた。


彼らの前には、不安な表情を隠そうと、精一杯の笑顔を作る治郎兵衛の姿があった。

「いってらっしゃい! 若様、菊池じい!」

治郎兵衛は、大きな声で二人を見送った。しかし、その笑顔はどこかぎこちなく、目は潤んでいた。利雨と菊池は、振り返って微笑みかけると、再び山道へと足を進めた。


彼らの姿が見えなくなると、治郎兵衛の笑顔は消え、不安に満ちた表情になった。小さな両手で、ぎゅっと袖を握りしめ、唇を噛みしめる。

「…無事に、帰ってきてください…」

治郎兵衛は、小さな声で呟いた。春の暖かい日差しが、彼の小さな体を包み込む。しかし、治郎兵衛の心は、冷たい不安に覆われていた。


利雨と菊池は、源吉の先導をもとに、山深い未開の地を進んでいた。道なき道を進み、深い森を抜け、険しい崖を登る。獣道のような細い山道は、倒木や岩が行く手を阻み、彼らの体力を奪っていく。

「…これは、なかなか険しい道だな」

利雨は、息を切らしながら言った。

「ええ、魔鉱山跡は、人里離れた場所にありますから」

先導する源吉は、道慣れた様子で答えた。


彼らの旅は、困難を極めた。突然の豪雨に見舞われ、ずぶ濡れになりながら進んだこともあった。落石の危険を避け、息を呑みながら崖を登ったこともあった。



数日間の険しい道のりを経て、利雨たちはついに魔鉱山の麓に辿り着いた。源吉が指し示す先には、蔦や雑草に覆われた巨大な洞窟のような入り口が口を開けていた。廃坑となった魔鉱山の入り口だ。


洞窟の入り口付近には、朽ち果てた木製の支柱やレールが放置され、かつてこの場所で鉱石が採掘され、運び出されていたことを物語っていた。しかし、今はそこから冷たく湿った空気だけが流れ出て、鳥のさえずりさえ届かない不気味な静寂に包まれていた。時折、水滴が洞窟の奥から落ちる音だけが、静寂を破るように響いていた。


「…あれが、魔鉱山の廃坑か…」

利雨は、その不気味な光景を前に、思わず息を呑んだ。

「…ええ。ずいぶんと荒れ果てておりますな」

菊池も、廃坑の入り口を眺めながら、眉根を寄せた。


源吉は、廃坑の前で立ち止まり、不安げな表情で利雨に告げた。

「ここまで案内すれば、約束は果たしたことになります。村のおきてで、我々は鉱山に入ることは禁じられておりますゆえ、これより先はご案内できません」

「そうか。ここまで案内してくれただけでも感謝する。だが、私はどうしてもこの中を確かめたい」

利雨は、源吉の言葉に感謝を示しながらも、廃坑の中へと進む決意を曲げなかった。

「小丞様、どうかお止めください。この鉱山は、危険な場所です。廃坑依頼、先祖代々、我々は決して近づかないように言い伝えられてきたのです」

源吉は、必死に利雨を止めようとした。

「…源吉殿、何かご存じなのであれば、お聞かせ願いたい」

菊池が、源吉の言葉に鋭く反応した。

「…詳しいことはわかりませんが、かつてこの鉱山で恐ろしいことが起き、廃坑になったと聞いております。それ以来、我々は鉱山を忌み嫌うようになったのです」

源吉は、怯えたように答えた。


しかし、利雨は、源吉の言葉にひるむことなく、静かに言った。

「それでも、私は行く。菊池、準備はいいか?」

「…はい、小丞様。いつでも。ただし、某が小丞様をお護りできないと判断したら、引き返す。いいですな。」

「そうだな。菊池が対応できないのであれば、二人とも命はないだろう。私も命は惜しい。」

利雨は虚勢を張って、空笑いをした。


「…せめて、これだけは…しばらくは、まっすぐな道が続くはずです。分岐点が出てきたら、どちらの道を選んでも、先はわかりません。どうか、お気をつけて…」

源吉は、諦めたように、坑道についての僅かな情報を伝えた。


利雨と菊池は、源吉に別れを告げ、廃坑の入り口へと足を踏み入れた。 そこは、闇に包まれた未知の世界への入り口だった。

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