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新たな召喚

 先日、廃鉱山で手に入れた魔石が、山城の一室で鈍い光を放っていた。その小さな輝きを前に、利雨りう傅役もりやくである菊池きくちと今後の算段を練っていた。


「小丞様、改めて領内を検分いたしましたが、この白北山地に目立った産業といえば、やはり林業くらいしか見当たりませぬな」

 菊池が静かに切り出す。その言葉に、利雨も深く頷いた。

「うん、僕もそう思うよ。でも、ここの山は本当に険しいから、木を切ったり運んだりするのも命がけだろうね。何か少しでも、みんなの負担を軽くできればいいんだけど……」


 言葉の裏にあるのは、統治者としての責任感だけではない。この地に追いやられたとはいえ、ここで生きる人々を見捨てる気にはなれなかった。

 菊池の視線が、卓上の魔石へと落ちる。

「そのためにも、まずは立つための資金が必要ですな。この魔石をどうにか換金せねば……」


 資金も、民の暮らしも、どちらも疎かにはできない。利雨が考え込んでいると、ふと、傍らに影のように控える存在に気がついた。


「ねえシロ、少し聞いてもいいかな?」

 利雨が声をかけると、滑らかな無機質の仮面がこちらを向いた。

「何でございましょうか、小丞様」

 その声は、常に冷静で、温度を感じさせない。

「君みたいなオートマタで、例えば……そうだな、林業を手伝ってくれるようなものって、召喚できたりするんだろうか?」


 何気ない問いかけだった。だが、菊池は「ほう」と興味深げな声を漏らす。

「可能でございます」

 シロは即答した。

「小丞様のスキルは、特定の機能に特化した個体の現出を許容します。林業支援を目的としたオートマタの召喚は、定義上、何ら問題ありません」

「本当かい?」

 利雨の目が、わずかに輝きを帯びた。

「それなら、ぜひ試してみたいんだけど……」


「承知いたしました。私の記録領域に保存されている『標準規格』より、ご要望に合致する個体の基本設計を検索します……該当する雛形を三種類、提示します」

 シロがそう告げると、その前に淡い光でできた三つの異なる形の立体像がふわりと浮かび上がった。まるで陽炎のように揺らめくそれは、精巧なからくり細工の設計図のようだった。


「壱之型、多脚歩行型。踏破性に優れますが、積載量に難があります。弐之型、履帯走行型。安定性と積載量に優れますが、極端な急斜面では稼働制限があります。参之型、複合型……これは現段階では魔石消費量が膨大になるため推奨しません」

 利雨と菊池は、空中に浮かぶ光の像を食い入るように見つめる。

「ほう……これは面白い。小丞様、この弐之型とやらが、最も我らの目的に適しているかと存じます」

 菊池が感心したように言った。


「そうだね。じゃあ、シロ。この弐之型でお願いできるかな。数は……とりあえず三体ほど」

「了解いたしました。動力源についてご指定を。魔石を直接消費する『魔力転換炉』、または木材等の燃料を用いる『内燃機関』の搭載が可能です」

「うーん、どっちがいいんだろう?」

「魔力転換炉は小型軽量ですが、稼働中も魔石を継続的に消費します。内燃機関は多少大型化しますが、召喚時以外の魔石消費は不要。燃料には、伐採で生じる端材が利用可能です」

「それなら、内燃機関?とやらでお願いするよ。魔石は貴重だからね」

「かしこまりました。弐之型、内燃機関仕様、三体の召喚準備に入ります。人目に付きにくい場所へご移動を」


 利雨たちは、山城の裏手にある、今は使われていない小さな練兵場へと場所を移した。

「小丞様、オートマタの儀を発動してください」

 シロに促され、利雨は頷くと、意識を集中させた。

「――来たれ」

 短い呼びかけに応じ、彼の足元に置かれた数個の魔石が、脈打つように淡い光を放ち始める。

 するとシロは、まるで古の呪文を詠唱するかのように、複雑な設計情報を淀みなく読み上げ始めた。


「――基体構造、箱型圧延鋼。駆動方式、履帯走行。主動力、単気筒式内燃機関。副腕部、多関節伐採爪、及び集材索……構成要素、全三百七十に規定。誤差修正、完了。顕現を開始します」


 シロの最後の言葉と共に、魔石の光が一気に収束した。光が消えた後には、三体の無骨な鉄の塊が静かに佇んでいた。

 それは、人が乗る荷台のない牛車ほどの大きさで、足回りには土を掴むための履帯が備わっている。箱型の胴体からは、材木を掴むための多関節のアームが伸びており、まさしく「動く魔導具」と呼ぶにふさわしい様相だった。


「おお……」菊池が感嘆の声を漏らす。「人の形をしておらぬ分、かえって領民の警戒も薄れましょう」

「うん」利雨は安堵の表情で頷いた。「これなら、きっと受け入れてもらえるはずだ」


 再び一室に戻ると、利雨は菊池に向き直った。

「菊池、このオートマタのことは、僕の力だとは伏せておきたいんだ。表向きは『上桐本家から貸し与えられた特別な魔導具』ということにしてくれないかな」

「御意。若様の御力をみだりに知らしめるは、得策ではございませんな」

 利雨は卓上に残った魔石の山を指し示す。

「それと、この残りの魔石のことなんだけど……。菊池にこれを売ってきてもらいたいんだ。ただ、全部持って行くのは危ないだろうから」

 利雨の意図を察し、菊池が言葉を引き取った。

「はっ。まずは私一人で港町である金戸湊へ向かい、信頼のおける商人を探し出してまいります。交渉の際は、見本としてこの小さな欠片のみを持参し、大きな取引であることを匂わせるにとどめましょう」

「うん、その方が安全だね。頼んだよ、菊池」

 利雨が安心したように微笑むと、菊池は深々と頭を下げた。

「御意」

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